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こんな彼と彼女の日常  作者: まる
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彼女の休日

「シエラどこへ行くんだ?」

「市場まで薬草やら研究に必要な材料やらを調達しに行ってきます。あと自分の実験のためのやつもちょっと…今日非番なので」

「護衛もつけずにか」

「…一般人にはそうそう護衛はつきません」

「…それならばオレもいこ「殿下はご自分のお仕事をなさってください」

「………………ありません」


(うそつけっ!!!!)



アルフレッドがシエラの部屋を訪れると彼女はいつもの作業着ではなかった。

ゆったりとした長袖のワンピースに羽織ものというお出かけスタイル。そういえばいつだったか日焼けすると赤くなって嫌だとぼやいていたのをアルフレッドは思い出した。


そして冒頭の質問に戻る。


「で、けっきょくこうなるんですか。ノエル様に怒られちゃうんですからね、もう」


シエラは現在アルフレッドと共に城下にある市場に来ていた。

あの後、アルフレッドの行動は素早かった。城下の見回りも兼ねている第一騎士団の副団長シュリオの元へ向かい、王子且つ幼馴染という武器を使い今日の見回り当番からその権利をもぎ取って帰ってくるのに10分もかからなかった。城下の視察という大義名分をかかえつつ、ご丁寧に髪の色を魔法で変え騎士の変装までしている。

もちろんその代償もある。それは朝までシュリオの飲みに付き合うという大きいものだったが…。


なんだかんだ言っているシエラだが嬉しいかと聞かれれば嬉しいに決まっている。


シエラはちらりと横目で隣のアルフレッドを見る。

その余所行きの笑顔をはりつけた顔からは感情が読み取りにくいが、慣れると少しコツが分かってくる…ような気がしている。まだまだ肝心な時にわからないから困ったものだが。


殿下も楽しかったらいいな、またそんな自分勝手なこと思う自分にシエラは心の中で苦笑した。


アルフレッドはどう思っているかわからないが、シエラはせっかくなので意図したものではないにしろ束の間の市場デート(仮)を楽しむことにする。


「なんだ?」

「ふぇっ…」


考え事をしていたら唐突にアルフレッドから声を掛けられ、びっくりしたシエラは変な声を出してしまった。


「(ふぇ…?) オレのことをすごい睨んでいたが…」

「いやいやいやいや、誤解です」

「………」

(そんなに見つめてたのか…恥ずかしい。気をつけよう)


とりあえず変な誤解は即刻全否定しておく。なおもじっ…と見つめてくるアルフレッド。赤くなった頬を隠すようにシエラは先を急いだ。



するすると前を歩くシエラをアルフレッドは黙って見つめる。下っ端だが医師という肩書きを持つシエラは魔法を用いない治療、魔法による治療のどちらも可能である。よって魔法を用いる場合を考慮して普段から杖を持ち歩いている。杖がなくても魔法を使うことは可能であるが、細部への繊細な治療を施すためには、力を集中させる媒体があったほうが良いとノエルが前に言っていた。魔導士の中にもその性質を好んで使用しているものは多い。そして杖は自分の分身でもあるため、各自相当なこだわりがあるという。あるものは豪華に、あるものは華麗にそれぞれ自分らしい杖を職人に作らせている。

しかしシエラの杖は他の医師や魔導士のそれと比べるとかなり簡素である。よく見ると先端に緻密な彫刻が施してあるが遠目では見えない。はたからみればただの木の棒のようなものだ。

いつだったかそれをシエラに聞いたことがあった。それに対してシエラは


「長くて重くて華美だと扱いにくいじゃないですか?いざという時身動きもうまくとれないし、邪魔だし」


と言っていた。その時は魔法を使う身とは思えない発言に驚いたアルフレッドだったが、前を歩く彼女の身軽さを見ていると確かにそうかもしれないと思えてくる。


「けっこう、距離があるな」


アルフレッドは前を歩くシエラに声をかける。


「そうですね、メイン通りからは確かに距離があるかもしれません。そんなに需要があるものでもないですし」


賑わいを見せているメイン通りの市場から小道に入る。何回か角を曲がってたどり着いた市場は、アルフレッドが思っていた以上に薄暗く混んでいなかった。

シエラはすいすい欲しいモノめがけて進んでいく。アルフレッドは辺りを見回しつつ、ゆっくり後をついていく。


辺りに薬草独特のにおいが充満している。なるほど、どうやら薬草専門の市場らしい。規模こそ小さく人も少ないが、辺りを見れば確かにそれっぽい人々が思い思いに興奮していた。

アルフレッドの頭に魔法が大好きでシュリオといつも喧嘩している国おかかえの魔導士の興奮した姿が思い浮かんだ。


おそるおそるシエラを見る。


しかしシエラはというと、淡々と買い物をこなしつつ、お店の主と楽しそうに話し込んでいる。どこぞの魔導士のように変に興奮することは無いようだ。


「…どうかしたしました?」

「…いや、気にするな」


アルフレッドは自分でもよくわからない安堵の息を吐いたのだった。


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