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こんな彼と彼女の日常  作者: まる
3/13

よい夢を、お嬢さん

今日も今日とてシエラの研究室にはアルフレッドの姿。

ベッドに座りぼんやり窓の外を見ながら彼女の帰宅を待つ。彼女の気配が近づいてきている。もうすぐだ。



長い長い会議を終え、シエラが自分の研究室にたどり着いたのは夕方を通り越して夜に入り始めた頃だった。ドアを開け部屋に入り、アルフレッドの姿を確認してさして驚くでもなく「ただいま」と笑顔で言う。


そんなシエラの笑顔を呆然と見つめたアルフレッドが一言。


「シエラ…目の下のクマ…すごいぞ」

「えっ、うそ?」


慌てて机から手鏡を取り出して顔を確認する。


(うわー…、ほんとだ。こりゃひどい)


シエラ自身びっくりする。目の下にくっきりとクマさんがいらっしゃる。

最近、移民の受け入れに伴い疫病のチェックや感染症予防マニュアルの作成、綺麗な水の確保の仕方など緊急かつ慎重に行わなければいけない仕事が続いていた。

あまり寝ていないとシエラ自身多少の自覚はあったが…。


(まさかこれほどとは…どうりですれ違う人が驚いた顔で自分を振り返るわけだ)


今朝鏡を見た時に確かに目立つと思い化粧でごまかしたが、夜にはそんなものではごまかせないくらいよりひどくなっていた。

帰りがけにロレンタ上官がシエラを見た瞬間、顔をしかめた訳が今ようやく理解できた。シエラはクマをなぞりながら一言。


「もう、私も若くないわね…」


手鏡を見つめたまま停止するシエラをアルフレッドは黙って見つめる。


(顔が整っている分、よりやつれている感が出てしまうのだろうな…)


シエラはあまり自覚がないようだが、シエラの仕事ぶりはノエルのそれとかなり似ていると思われる。

シエラは仕事が好きである。没頭すると睡眠も食事もおろそかにする。ノエルが知ったらその素晴らしい仕事ぶりに喜びそうなものだが…、


(悔しいから、教えるものか)


何が?と聞かれればアルフレッド自身困ってしまうのだが。


国王や宰相にその存在を知られていないシエラであるが(一般官吏なので当たり前なのだが)、アルフレッドはそれが不思議でならない。

シエラの実力ならこんなところでくすぶる必要はないと思っている。


(まぁ、いいか)


自分さえ知っていればいい、とアルフレッドは一人納得する。ふと意識を戻すとシエラは手鏡を持ってまだ落ち込んでいた。


「シエラ」


不意にアルフレッドに呼ばれ、シエラはアルフレッドのほうに顔を向ける。


ポンポン


アルフレッドは心持ちベッドの端に寄りベッドをかるくたたく。

賢いシエラは瞬時にその意味を理解する。



眠いなら、寝たらいい



「…いやいやいやいや」



まだ仕事があるのよ

そのベッドに二人じゃ狭いじゃない

っていうか一応男と女なんだけど


もうなにからツッこんでいいかわからないシエラである。

しかし当のアルフレッドは躊躇する意味がわからない、といった感じで首をかしげこちらを見てくる。

ちょっとかわいい。

今日はさすがにもう仕事がないのか、いつものもったいぶった豪華な姿ではなくゆったりとした衣服である。


「…明日までに終わらせたい仕事があるので」


シエラはとりあえず一番無難な返答をしておく。


「そんな状態で行っても非効率だろう」


それはそうなんですが…、という返答をシエラは心の中にしまう。これもアルフレッドのやさしさなのだ。


「ありがとうございます、でももうちょっと頑張りたいと思うので」


そう笑顔で言って机に向かうシエラをむっとした表情で見つめるアルフレッド。なんとなく悪いことをした気持ちになるシエラだが、アルフレッドの顔を見ないという手段で気持ちを押し込める。しかし机に座ろうとした瞬間、


「わっ…」


アルフレッドに唐突に腕をつかまれ強制的にベッドにあげられた。

気が付けば目の前にはアルフレッドの胸板がある。抜け出したかったがゆるく腰にまわされた腕が邪魔でなかなか抜け出せない。もぞもぞ動いていると腕の力を少し強められた。


抱きしめられる、と言うよりは抱き枕にされている気分だ。


状況のわりに意外と冷静な自分にシエラは心の中で苦笑する。

こんなとき自分がもっと乙女だったら可愛い反応が出来るのだろうか…とシエラは少しがっかりするが出来ないものはしょうがない。

意外と頑固なところがあるアルフレッドだから、シエラは早々にこれ以上の抵抗をあきらめることにした。ほどこうと思えば、きっとほどくことができるのに…。

何よりアルフレッドの無言のやさしさがうれしかったので、おとなしくアルフレッドの胸にコツンと額をあて一言。


おやすみなさい


抱きしめる腕にさらに力がこもった気がした。


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