天下を取りうる男
初投稿、初小説です。
いたらぬ点はありすぎると思いますが、どうか温かい目で見てください。
続くかもしれないし、続かないかもしれない...
日本初の天下人は豊臣秀吉だと言っていいだろう。
いや、正確には天下の領域を、今日の日本にほぼ近い範囲として認識させ、天下統一という概念を明確化したのが織田信長であり、それを成し遂げたのが秀吉だった。
そして秀吉は、天下統一の更に上を目指した。二度にわたる朝鮮出兵を行い、朝鮮半島にまで領土を拡大しようとしたのである。が、すでに秀吉は高齢であり、領土拡大を目指す一方で、自身の人生の終わりを覚悟するという、一見裏腹な気持ちを持っていたのかもしれない。
大名達に朝鮮出兵を命じる一週間程前、秀吉は家臣にこんな質問をした。
「もしもじゃ...仮にわしが死んだとして、次に天下を取るのは誰か。お主らはどう考える?」
「え!?な、なぜそのようなことを...」
家臣達は戸惑い、ざわめく。
秀吉の意図を図りかね、完全に混乱しているようだ。
「仮にじゃよ、仮に。死ぬなんてこれっぽっちも考えておらんわ」
秀吉は、まるでイタズラをした子供のようにクスクス笑っている。
「笑い事じゃございませんよぅ、殿!」
「いやスマンスマン... ただお主らの見る目というものを知りたくてな。わしに代わって天下を取りうる器の者は誰か、遠慮なく答えてみぃ」
そう言われると、家臣達も真剣に考え始めた。見る目のない馬鹿、になることだけは避けねばならない。
「や、やはり、内府殿※かと...」
1人の家臣が遠慮がちに答える。すると...
「私もそう考えておりました!」
「それ今俺が言おうとしたやつです!」
「あいつ、俺の独り言聞いてただろ!」
とか、その意見に乗っかる者が多勢あらわれた。
が、秀吉はニヤニヤしながらこう言った。
「ん、まあ凡人はそう考えるんじゃろうが...わしの答えは違うなぁ」
「え!?」
その後も前田利家殿だ!とか、毛利輝元殿こそ!とか様々な意見が出たが、秀吉が首を縦に振る様子はない。
「小西行長どのは...?」
「ふふ、違う違う。まったく、全然当たらんのぅ...
仕方ない、答えを教えてやろうかの」
家臣達はゴクリと唾を飲み、次の秀吉の言葉を耳を澄まして待つ。
「...かんべえじゃよ」
唐突に秀吉はそう言った。
「え... 今、なんと?」
「官兵衛じゃ、黒田官兵衛。ほれ、あのチンバ※じゃよ」
誰も予想していなかった答えに、一瞬その場が静まりかえる。(多分秀吉は当てさせないつもりで質問した)そしてすぐにざわめきが起こった。
「お、お言葉ですが、官兵衛殿はすでに隠居の身...」
「それに12万石ほどの小大名であったはず。とても天下人になど...」
「ばかもの。あやつにそれ以上の地位を与えてみよ。
わしが生きているうちにでも天下を取りよるわ...」
秀吉は笑って、そう言った。
しかし、言葉には、心底忌々しそうな響きがあった。
その響きを感じた家臣達は、秀吉の言葉を信じざるを得なかった。
この秀吉とその家臣とのやり取りがあった頃、黒田官兵衛は剃髪し、如水軒円清と号した。
文禄の役の際、石田三成、増田長盛らと対立し、秀吉の怒りを買った事で剃髪せざる負えなかったと考えられている。あるいは官兵衛は、自身が秀吉からおそれられていることに薄々気づいていたのかもしれない。そして自らの家を守るため、頭を丸めてしまったとも考えられる。
いずれにせよ、この後に官兵衛が、秀吉に重用されることは、もうなかった。
秀吉の死後は徳川の世へと移ってゆく。
もちろん、秀吉の予想したように官兵衛が天下をとることは、なかった。
まあこの世界では、の話だが...
※内府・・・徳川家康のこと
チンバ・・・足の不自由な人のこと、差別用語