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夕暮れシルエット -1-

 三軒先の山田さんが風邪をひいた。

 犬のタロウが脱走した。

 猫のモモが子猫を生んだ。

 そんなことが噂になるほど、私が住んでいる町は狭い町だった。


 海辺に面した漁師町で、魚が私たちの暮らしを支えている。

 美味しい魚と大自然。

 そんなありきたりの謳い文句で観光客を呼び寄せようとしているけれど、上手くはいっていない。はっきりと言えば、寂れた町だ。でも、謳い文句に間違いはない。


 海は綺麗で、空気は澄んでいる。

 太陽が沈む時間には、青い海が夕日で真っ赤に染まる。

 冬には雪が降って、町を凍らせ、真っ白な世界を作り出す。

 それは、どれも一度見たら忘れられないような景色で、町にやってきた人たちは感動したとか、一生忘れないなんて、嬉しそうに口にする。

 そうした言葉は、すべて正しい。けれど、何年も同じ景色を見ていれば飽きてくる。私にとっては美しい自然も、美味しい魚も、温かい町の人たちも、当たり前になりすぎていた。


 平和だけれど、退屈でつまらない町。

 嫌いではないけれど、私はこの町から早く抜け出したいと思っている。

 もっと、人がたくさんいる町へ。

 もっと、ここから離れた場所へ。

 どこへも行きたくない気持ちもあるけれど、どこか遠くへ行かなければ息が詰まってしまう。


 私、山野里穂(やまのりほ)の胸の中にあるものは、山田さんの風邪よりも、犬のタロウの脱走よりも、猫のモモが子猫を産んだことよりも噂になりそうなことで、この町で平和に暮らしていくには少しばかり厄介なものだった。


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