高杉の苦悩
訓練場を後にする男子2人と、女子1人がいる。
普通彼らの年齢ならば青春を謳歌しているのかと思われるが、彼らに関しては少し事情が違うようだ。
「邪魔とは私のことか?」
「お前以外に誰がいるんだ?無知な私にオシエテクダサイ。」
「・・・邪魔をして悪かった。だが、その人を煽るような真似は止めた方がいいぞ?ただでさえ目つきが悪いのだから印象が最悪になるぞ?」
「・・・そりゃ悪うござんしたね。なら俺にも威厳あるフリが出来る方法を教えてくださらないかしら~?」
「私のはフリではなく、そう在るよう心がけているだけだ。心構えが足らんのだろう?」
「な・る・ほ・ど~。つまり時々素が出るお前は心構えの足りねぇ未熟者ってこったな?」
「・・・未熟は認めよう。だが、私の場合はこちらが素だ。」
「怒ったときに出る感情が偽りってか?そりゃ随分寂しい性格なこって。友達になってやろうか?」
喧々諤々。会話を聞いている高杉はうんざりしている。
何故、2人はここまで言い争うのだろうか?高杉には理解できない。神崎を怒らせた、という点では高杉にも原因があるはずだが、神崎の中ではその件にはケリがついたのか高杉に文句は言わなくなった。
だが、天城は違った。
単純に反りが合わないだけだろうか、いや天城の一言に原因があるのだろう。だがどっちにしろ静かにしてくれと、雨の中高杉は思う。
因みに冒頭の流れは、本当はもう少し射撃訓練をするつもりだったが、天城が急に身支度を整え、「邪魔が入ったから今日は訓練辞める」と言い出し、、天城が射撃訓練を行わないのであれば高杉も用もなく、神崎に至っては2人に用があり訓練場にいた。
そのまま帰ろうとする天城と高杉だが、そんな言葉を言われた神崎は黙っておらず、冒頭の会話となったわけだ。
「なぁ2人とも?仲が悪いのは良く分かったからよ?もう別々に帰りゃ良いんじゃない?神崎さんも文句は言い終えたわけだし?」
余りにも2人が喧しいので言葉を掛ける高杉。だが2人は
「俺は普通に帰るつもりさ。でもこの青い馬が付いてくるんだよ。人参なんざ持ってねえのにな?」
「私も普通に帰るだけよ。ただこのゴミ虫が付いてくるのよ。ストーカーかしら?気持ち悪い。」
「・・・素が出てるぜお嬢様?いや、口が悪いしお嬢様ってよりかはチンピラか?」
「・・・ストーカーは否定しないのね。もしかして本気?だったらお生憎様だけど、あんたみたいなゴミ虫に惚れる女なんていないから。」
互いに額に青筋を浮かべながら罵り合う。
「そっちこそ素が出てるっつーのに否定しねーのかよ?いよいよ諦めたか?」
「あんたみたいなゴミ虫に私の威厳は分からないでしょ?虫並みの知能しかないんだから仕方ないけどね。」
「・・・その虫に食ってかかるお前は鳥か?ああそうか。馬は賢いもんな?馬に失礼だったな?」
「・・・私も虫に失礼だったかしら?彼らは懸命に生きてるものね?どっかのゴミみたいに悪態もつかず健気なものだわ。」
「あ~も~好きにしろよ。ったく。」
高杉からしてみれば彼らは同レベルだ。知能レベルから口の悪さまで。
方や、売られた喧嘩は高額でも買い叩く目つきの悪い男。
方や、自分の威厳のために言い負かされたままでは終われない女。
2人の言い争いはいつまで続くのだろうか?それとも殴り合いに発展するのか?と高杉は思い始めるが、その可能性は無いと考える。
『アホの子』と天城と高杉には思われているが、神崎は戦闘科でも上位の成績に入る。
高杉は名乗られるまでは忘れていたが、その事は情報として仕入れてはいた。
使う武器は二刀流。属性は氷。
その強さと気品の高さから、いずれは英雄と呼ばれるのでは?と噂されるほどには実力も信頼もある女性だ。
そんな彼女が言い合いから普通科の生徒に手を出すことはない、というのが高杉の見解だ。
「青馬!」
「三角虫!」
「「上等だ(よ)!」」
訂正。殴り合いに発展するかも知れない。
高杉は人知れず息を吐く。
「(まぁ殴り合いになれば天城が負けるだろし、女の子を殴るような奴じゃないし?何より俺は殴れられないし別にいいかな?)」
と高杉が考え始めた直後、2人は高杉の方を振り向く。
「ノブは俺の方が正しいと思うだろ?鳥頭のこいつに教えてやれよ?」
「高杉くんも大変ね。こんなゴミに付きまとわれて、匂いもキツいんじゃない?私の近くに来た方がいいよ?」
「(飛び火した・・・)」
2人では埒があかないのか、第三者である高杉に同意を求めてくる。
神崎さんに至っては俺も標的だったのでは?ということが頭を過るが、口には出さない。面倒事になるのは確定だからだ。
この2人をどうやって言いくるめようか、それとも無視するか、今日の晩御飯何食おう、と高杉が現実逃避し始めた頃に、聞きなれない警報が辺りに響く。
続きは明日。