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動き、蠢く

 雨の中街を歩くものがいる。

 その者の足音を聞く限りかなり怒りを覚えている様子である。

 雨の中、傘も刺さずに歩く男に、周囲の者は怪訝な目を向けているが、男にそれを気にした様子はない。自分の中の苛立ちのせいで周りに目向けることができないのだ。


「(クソッ!クソッ!!どいつもこいつも舐めやがって!俺は選ばれた人間なんだ!才能の無い凡人が俺を笑い者にしやがって・・・!)」


 毒づきながら、男は雨の街を歩き続ける。そして、ふと視線を上げると、見慣れた路地裏の自分たちが住処としている場所にたどり着いていた。

 男にとってこの街の路地裏は自分の住処のようなものだった。その中でも男がたどり着いた場所はよく仲間と屯するための場所なのだが、今回はそこには男一人しかいない。

 雨が降ってることも理由の一つだが、今回男は自分の仲間を怒鳴り散らしたので、距離を取られ一人になってしまった。


「(あいつらもだ・・・俺を笑いやがった・・・!神崎も!あのメガネも!邪魔なんだよ!!特に天城の野郎だけは絶対に許さねぇ・・・!)」


 男は、雨を凌げる場所に移り、どこからか持ち込んだソファに座ろうとするが、元が古い建物の為、雨が降るとそこかしこに雨漏りが発生する。そして、男が座ろうとしたソファも雨に濡れ、とても座れる状態ではなかった。


「クソがァっ!!」


 そのことに怒りが限界を超えたのか、『身体能力強化』を使いソファを蹴り上げる。

 肩で息をし、この場を全て壊してやりたい衝動に襲われる。

 そして、自制する気もなかったのか、その衝動のままに、男は辺りの物を掴んでは投げ、殴り、蹴る。


「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソガッッッッッ!!!!」


 自身の衝動のままに辺りの物を破壊し続け、手頃なものが無くなってきた時に男の行動はふと止まる。


「こんなもんいくら壊しても気が晴れねぇ・・・!誰でもいい!弱え奴を甚振りてぇ・・・!」


 そう呟いた時に、男の脳裏に「だから雑魚いままなんだよ」という言葉が蘇り、最早ソファの原型も無くなった物を蹴りつける。


「誰が!雑魚だ!俺は!選ばれたんだ!糞共とは!違うっ!」


 何度も蹴りつけ、毒づく。今この男には恐らく誰が何を言っても聞かないだろう。

 だが、そんな男にその場に似つかわしくない調子はずれの陽気な声がかかる。


「いや~。すっごいねこれ。君がやったの?随分と荒れてるんだぁねぇ~?」

「・・・誰だてめぇ。ブッ殺すぞ!」


 男が振り返ると、そこには三日月のような口が描かれ、右目に十字のマークが入った白い仮面を付け、赤と青のストライプが入ったピエロのような服を着た人物だった。

 そして、その人物は男の恫喝に対しても陽気な声を崩さなかった。


「ひぃっ!そんなに怒らないでおくれぇよ~。僕は君と戦うつもりなんてなぁいんだよぉ~?」

「だったら今すぐ消え・・・いや、調度いい・・・」


 そう言うと男は、すぐさま仮面の人物を殴ろうとする。だが、仮面の人物はその攻撃を軽く体をズラすだけで回避した。


「避けてんじゃねぇ!!」

「無茶苦茶だなぁ~。でも、殴られるのは嫌いだぁし当たってやらないよぉ?それにぃ?」


 そこで仮面の人物は、一度言葉を区切り、顎に手を当て考える素振りを見せる。

 仮面をつけているので表情は分からないがおそらく笑っているのだろう。そのまま男にとって今、一番言われたくない言葉を投げかける。


「君みたいな雑魚の攻撃を食らうほど弱くわ無ぁいんだよねぇ~。」

「っ!誰が・・・!」

「誰が雑魚かなんて聞かなぁいでおくれよぉ~?私は君に話しかけてるんだからねぇ~?」

「黙れ!!」


 男は再び殴ろうとするも、仮面の人物はそれを苦もなく躱す。そして今度は殴ってきた腕を掴み、片腕だけで男を床に叩きつける。


「ぐっ!」

「ほぅらねぇ?俺、強いでぇしょ~?」


 床に投げつけられた衝撃で肺の空気が全て抜け、床に大の字になりながら空気を再び取り込もうとした拍子に男は咳込む。その間、仮面の人物は何もせず周囲の様子を見回している。


「そぉんなに怒らなぁいでよぉ~?僕は君に提案が有るだけなんだぁよぉ~?」

「げほっ!提案、だぁ?」

「そう!提案さぁ」


 仮面の人物は、床に寝ていたままの男に近づくが、警戒を顕にしている男はすぐさま立ち上がろうとする。

 しかし、体は痛みを訴え床に片膝をつくことになる。


「そう警戒しないでよぉ?これは君にとって良い話なぁんだからぁ」

「良い話、だぁ?」

「うん良い話だよぉ?君さぁ?」


 片膝を付いたままの男に仮面の人物は顔を近づけ、そして囁く。


「全部、ぶっ壊してやりたいんだろぉ?」


 そう言われ男は仮面の人物を見上げる。その反応に満足したのか言葉は続く。


「悔しくなぁいかいぃ?君を馬鹿にした奴らが。腹が立つだぁろうぅ?君を見下す奴らが。憎いぃんだろぉ?君より優秀と気取ってる奴らが?自分が自由に生きられない世界なんざぁ、もう全て!滅茶苦茶に!ぶっ壊してやりたいんだぁろぉ!?」


 その言葉は男の心情を端的に表していた。

 男は自分を優秀だと思っていた。事実、彼は幼少の頃にその才能を開花させ、当時は他人より抜きん出ており、学園から抜擢された。

 だが、成長していくに連れて、周りの人間も才能を開花させていき、男はどんどんと埋もれていく形となった。

 その時に、自分の努力が足りないと思えれば、また違った結果になったかもしれないが、周りから持て囃されて生きてきた男には、その考えは出てこなかった。

 そして今、男は燻っていた。自分より成績が下だった奴らに追い抜かれ、編入してきた奴らには最初から

 勝てず、憂さ晴らしをしては睨まれる日々。


「私が君の願いを叶えるお手伝いをしてあげるぅよぉ?さぁ、僕に付いてくるかぁいぃ?」


 そんな日々に嫌気が差してきた男にとって、仮面の人物の言葉は福音だった。


「本当に全部ぶっ壊せるんだろうな?」

「当然だぁよぉ?ただ、君次第でもあるかぁなぁ?」

「・・・上等だ。やってやる。そして全部ぶっ壊してやる!」

「良い台詞じゃないかぁ。それでこそだよ。」


 そう言うと仮面の人物は笑い出す。

 男は自分が乗せられている事も頭の隅では理解していた。だが、男は自分の激情のままに全てを破壊する道を進み出す。


 そして、この日安藤は世界の敵となり、天城達の街は災禍に見舞われる。









本当は最後まで謎にするつもりでしたが、

登場人物が少ないのですぐわかっちゃいますよね。ってことで。

続きは、この回でストックが切れたので明日とは言い切れません。

頑張ります。

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