訓練、ロマン
放課後。
普通科の生徒は家に帰るか、寄り道をするかで学園を後にし、残る者はいない。
だが、そんな中天城は一人ある場所を目指して歩いていた。
その姿はどこか怒っているような、何かしら不機嫌なことがあったかのような顔をしている。
「(魔力操作を身に着けるのはいい考えだ。でも魔力操作は魔法を早く使うために身に着けるものだ。なら、魔法を一つしか使えない俺は魔力操作を身に着けても意味はないのか?いや、とりあえずやるだけやってみたほうがいいな。それにこの考えが上手くいけば俺にも・・・)」
違った。考え事をしていただけのようだ。
今、天城が考えてるのは『身体能力強化』を『魔法』として使うのではなく、魔力操作で疑似的に発動できないか、ということだ。
『身体能力強化』を使えないなら近接戦はできない。そして、遠距離から戦おうにも、天城の魔力量は少ないうえに、使える魔法は「気弾」だけだ。
だからこそ天城は、使えないといわれてる『気弾』で戦えるようにするか、他の魔法を覚えることが戦うためには必然となってくる。
そして、考え事をしているうちに目的地にたどり着く。そこはとても静かな場所だった。
「(相変わらず閑散としてんな。いよいよ取り潰されたりするんじゃねぇか?それで困るの俺だけだしなぁ・・・)」
そこは、射撃訓練場。
魔法が使えるようになってから、必要とされなくなったはずの場所だ。
だが、天城のように魔法が使えなかったり魔力が少なかったりするものは多い。そういった者たちが、自衛の為に使う護身具として銃が使われる。
なにも脅威の全てが代行者だけではない。
代行者にはそれほど通用しないが、人間相手には通用する武器。つまりはここは人を相手にした時に身を守る為の術を身につける場所だ。
「(代行者が現れたからって人が善人になったわけでもないのにな。いざって時に死ぬしかないなんてごめんだろ。)」
そう。この世界にも人の脅威は存在する。むしろ、代行者が都市部に現れることは少ない。
それは、都市部を守る結界が張られているからだ。
昔、代行者が現れてから数百年くらい経過した時に、ある魔法使いにより形成されたそれは、強固な防壁という訳ではなが、何故か代行者はその結界の周囲に近づかなくなった。もちろん例外はあり、その結界を超えてくるものもいたが・・・
だが、その結界は有効であるのには違いないため、解析は進められているが、結果は芳しくない。
なによりも、その魔法使いが結界を張った直後に亡くなったのだから、原理の解明は難航している。
話はそれたが、これにより都市部に代行者の驚異は少ない。代わりに、人が悪意を溜め込み始めた。
盗みを働く者、騙す者、殺す者。脅威が薄くなった世界では、人の欲望が高まってくる。
そこで、人に対抗するために、この設備は作られたわけだ。
天城がそんな事を考えながら訓練場に入ると、そこには馴染みの顔の先客が一人いた。
「よっ。」
「おう、ノブ。今日も頼むわ。」
「はいよ。しかし、お前もホント変な奴だよな~。」
「それに付き合うお前も変人なんだろうな~。」
「・・・手伝ってやんねぇぞ?早くやろうぜ。」
「悪いな。でもお前のためでもあるんだろ?」
天城がここで何をするかというと、射撃訓練だ。
射撃訓練場だから射撃訓練するのは当たり前なのだが、前述したとおり、ここに来るものはいない。
それでも、天城は自身の為にと訓練を開始する。
まずは一発、的に向かって撃つ。
それから感触を確かめるように、左右に2発続けて撃つ。
そして、3発初めに撃った場所に撃ち込む。
それらは狙い違わず、天城の予想したところに着弾し、素早く装填する。
6発装填のリボルバー。天城が高杉に依頼して作られた銃だ。
「相変わらずすげぇ命中率だな。」
「当たり前だ。誰が作ったと思ってんだ。感触は?」
「今までのよりもだいぶ良いな。ただ、・・・」
「ただ、なんだ?」
「俺はリボルバーでなく、普通の拳銃?を頼んだと思うぞ?」
「仕方ねーだろ。お前の魔法を考えるとそっちの方がお前の言ういざって時に役に立つ。」
「本音は?」
「リボルバーって格好良いよな!ロマンが溢れてくるぜ!」
満面の笑みでそう答える高杉に思わず天城はため息をつく。
実際、天城の魔法気弾は、リボルバー型の銃でしか発動しない。何故なのかは本人にもわからず、否応なしに天城が魔法を使うとするならば、リボルバーになるのは仕方のないことだった。
だが、装填にも時間が掛かるし、気弾の威力を考えると、自動式拳銃の方が都合が良いと考えていたのだが、天城の事情は高杉には伝わらなかった。
「そう不貞腐れんな。普通に威力はあるし、それにお前の『とっておき』のこともある。リボルバーには慣れた方がいいだろう?」
そう言われても、と天城は思う。
天城の『とっておき』は、魔力操作を身に着けようとしてから思いつき、得たものだ。
だがそれを使うには、かなり集中する必要があり、時間も掛かる上に一回使えば動けなくなる。その為戦闘にはこれっぽっちも役に立たないと天城は考えるが、高杉はそれを「必殺技みたいで格好良いじゃん。」と言い、何かとそれを主軸とした戦法を考えようとする。
だが考え出される方法は余程運が良く、敵が油断し且つ、敵に近づかなければ無駄。と言った物ばかりだった。
「・・・二丁拳銃とかじゃ駄目なのか。」
「リボルバーの二丁かぁ?どうやってリロードする気だよ?いや、ロマンを考えるとそれもありか・・・?」
「なんでリボルバー二丁だよ。リボルバーとオートじゃ・・・どっちみちか。」
「だろうね。結局リロードが出来無い事はなくとも時間は掛かるし、オート二丁じゃ代行者とは戦えんだろ。実用性がなさすぎるのはロマンじゃねぇよ。ん?ロマンを先行させてそこから実用性を加えていけば・・・」
ブツブツと高杉が思考するが、天城はそれに答えず、黙々と訓練を開始する。
ついでに、せっかくだから『とっておき』の練習もしておくか、と魔力操作をしながら訓練に励む。
そうしてある程度の時間が経過して休憩を考え始め、未だブツブツ言ってる高杉に声を掛けようとしたその時、その場所には来る必要性の無い人の声が天城の耳に届く。
「見つけたわよ!」
続きは明日。
物語がストックに追いついてきたよ。やばいよ。