食堂での日常
雨が降り始めた。今は昼休みだ。
天城は別段料理ができないわけではないが、弁当を作るのを面倒くさがってるため、昼食は食堂で取ることが多い。
そして、食堂に着くと既に高杉が既に席をとっていた。その隣の席にカバンを起き配膳所に向かう。
「何食う?」
「気分的には魚。でも、学食には魚料理ねーからな」
「まぁ、育ち盛りは肉食ってりゃいい。って考えじゃない?」
「肉ばっかり食うと逆に育たねぇんじゃね?栄養バランス偏るぞ?」
「なんかナオトって妙なところでジジくせーよな。」
「ほっとけ。自分の体が大事なんだよ。」
くだらないことを言い合いながら彼らが昼食に選んだのは天城がカツ丼で、高杉がわかめうどんだった。
「なんでカツ丼?何と戦うんだ?」
「何の話だよ。お前こそわかめうどんとか共食いはやめとけよ。」
「は?なんでうどんが共食いなんだよ?」
「うどんじゃなくてわかめだよ。それお前の体のてっぺんから採取できるやつだろ?」
「言ってはならねぇことを言ったな!この逆三角!」
「誰の目が逆三角だ!そこまで鋭利じゃねえよ増えるわかめ!」
「だっ誰の毛髪が増えるわかめだ!?百歩譲ってわかめでも、増えやしねえよ!?」
「・・・わかめは認めるのかよ」
「はっ!?」
高杉を打ち負かした天城は自分の荷物を置いた席に着こうとしたが、その席には短い金髪の先客がいた。ご丁寧にカバンは床に放って。
「・・・そこに俺のカバンがあったと思うんだが?」
「はぁ?何言いがかりつけてんだよ?ここにカバンなんざなかったぜ?」
安藤たちだ。
なぜわざわざ他にも席があるというのに、ピンポイントで天城たちのいる席に座ろうとしたのか、甚だ疑問ではあるが、簡潔に言うなら嫌がらせだろう。
「凡人は席を譲れ。ここは俺の席だからよぉ。むしろお前に椅子なんていらないんじゃね?床で食ってろよ。」
ニヤニヤ笑いながら言葉をかけてくる。同じことを考えてるのかふたりの少年も笑っている。
それを見た天城は、ため息を吐きつつ、自分のカバンを持って別の席に移ろうとした。
それをみて不機嫌そうな高杉。
「いいのかよナオト?」
「いーよ別に。こいつらは食堂のどこにでもある安っぽい椅子がお似合いなんだそうだからな。」
「あ~なるほど。確かに似合いすぎてて笑っちまうな。」
やられただけで、すんなり黙っている天城ではない。そして高杉もそんな天城と一緒にいる上に、なかなかの負けず嫌いだから、挑発はお手の物だ。
「んだとぉ!?」
「調子のんなよ凡人が!」
沸点低すぎだろ。と二人は思うが口には出さない。
そのままふたりは別の席に移ろうとするが、馬鹿にされたままでは黙っていられないのだろう。安藤が天城の肩に手をかけた。
「無視してんじゃねぇぞ!」
そのまま無理に天城を引っ張る。だが、彼の手にはカツ丼がある。
それらが無理に力を加えられたせいで安藤の顔面に飛んでいった。
「あぶねっ!」
すると咄嗟に『身体能力強化』をかけ、驚くべき反射神経でカツ丼を避ける安藤。だがその隙を見逃さなかった天城。彼は、高杉が持っていたお盆を下からかち上げ、上空にわかめうどんが舞い上がる。
そしてそのままわかめうどんは重力に逆らわず落ちてくる。狙い違わず安藤の頭の上に。
幸か不幸か安藤は『身体能力強化』を使っていた。この魔法は自身の体の硬さ、熱さや冷たさに対する抵抗もできる。
結果として安藤は、上から降ってきたわかめうどんに熱いとも言わず、そのまま頭の上に乗せることとなった。
「「「・・・」」」」
「「・・・・・・」」
場に静寂が訪れる。だが、その静寂を破ったのは天城と高杉だった。
「「ぶっははっはははっはははは!!」」
二人して大爆笑である。
「お、おいナオト!あれこそ完全に増えるわかめだぞ!」
「ぶふっ!いや、悪かったよノブ!あそこまで完璧なワカメ野郎見たことねーからさ!」
「わ、ワカメ野郎って!いやでもマジ完璧過ぎるわ、もはや芸術レベルか!?」
「「あははははははは!!」」
ふたりは腹を抱えて笑っている。そして、それにつられるように周りで見ていた生徒たちも、堪えきれないとばかりに肩が震え始めた。
対する安藤も、肩が震え始めていた。当然だが笑いを堪えている訳じゃない。
自分が笑いもにされていることに怒り始めているのだ。
だが、そんな安藤の様子を見た天城と忍は声を震わせながら、
「どうした?安藤?肩が震えているぞ?そんなに面白いなら我慢せずに笑えばいいぞ?周りのみんなみたいに?ぶふっ!」
「や、やめろってナオト。わかめちゃんが怒りで大変なことになるぞ。あれ?なんかわかめ増えてね?怒ったら増えたりするのかな?興味深い・・・」
「わかめちゃん、あははっははは!!怒ったらわかめ増えるって!あ~もうダメ腹痛い・・・」
「・・・わかめちゃん」
「あはは!!やめろってノブ!マジ苦しいから!」
二人の会話を聞き、周りは肩を震わすだけに留まらず、遂には声をあげて笑う生徒も出てきた。
取り巻き二人も、顔を伏せ微妙に肩が上下している。こちらは怒ってるのか、笑いをこらえているのかわからない。
「てめぇら・・・」
安藤が低い声で脅しをかけようとするが、ふたりは笑うことを止めない。と言うよりかは止められない。
そして怒りで顔を真っ赤にした安藤が、手を出そうとした時、よく通る凛とした声が食堂に響く。
続きは明日