終わり
今回で終わります
代行者が現れてから2週間。これといった変化はなく今までどおりの生活を送ることになった。
天城の怪我も2週間で回復し、学園にも通えるようになり、今は放課後。自分の怪我であるにも関わらず、随分と早く回復したと、他人事のように考えながらある場所へ向けて歩いていた。
「よっ。」
「おう。」
後ろから高杉に声をかけられる。いつもと変わらない眼鏡にくるくるの頭。対する天城も目つきが悪いだけで変わりはない。
「はぁ~。平和だなぁ。」
「何も起きないのはつまらないけどな。」
「・・・へっぽこ戦闘狂とか笑えないぞ?」
「別に戦いたい訳じゃねーよ。」
くだらない会話をしながら歩く2人。2人は今回同じ場所に向かおうとしている。天城は一人で行くつもりだったのだが、それを少し話したら付いて行くと言いだしたのだが、この2人が一緒にいることは別段珍しいことでもない。
だが、今回はそこに声を掛ける人物がいた。
「あ、こんにちわ・・・。」
「おはよう神崎さん。・・・どったの?」
「ほっとけよ。どうせまだ機嫌悪いんだろ?」
いつもなら関わるはずのない神崎が2人に声を掛ける。
その顔は如何にも不機嫌を押し殺してますと言った表情で、景気の悪い顔をしていると言わざるを得なかった。
「・・・むしろ何で天城君がヘラヘラしてるかわからないんだけど?」
「俺は受け入れた。仕方が無い事だからな。」
サラリと言い張る天城に神崎は眉間に皺を寄せる。
2週間前に学園長の石動には全てを話した。その結果として、これからの自分たちの行動に制限がかけられる事はなかった。
神崎は人命を優先した結果、命令を聞き入れるわけには行かなかった。高杉の虚偽報告はあの状況ではまともな思考ではなかったと判断され、天城の怪我に関しては巻き込まれただけという事で落ち着かせる方針となっている。
他言はするなと念押しはされてはいるが、それは元々話すつもりもなかったので構わない。小言はあったが大きなお咎めも無かったはずなのだが、神崎は未だ不機嫌なようだ。
「いい加減にしろよ?いつまで引っ張るんだよ?顔が小皺だらけになるぞ。」
「わかってるわよ。でも納得はできないでしょ?」
神崎が不機嫌な理由は、今回誰が狂鬼を倒したのか。という話になった時に神崎が倒した事にすると言われたからだ。
天城は巻き込まれただけ、高杉は避難所にいた。ならば狂鬼を倒せるのは神崎だけになるのだが、手柄の横取りは嫌だと駄々を捏ねた。
天城が倒したといっても誰も納得しないという理由もわかるのだが、成果に対する報酬が無いのはあんまりだと最後まで反対した。
しかし当の本人である天城はさして気にすることもなく、あっさりとそれを認め手柄を放棄したので、神崎も最後には折れてしまったが、理解はできても納得はできていなかった。
「本当なら天城君が表彰されるべきだったのに・・・。」
「別にどうでもいいよ。個人的に奏さんからいろいろもらえるしな。役に立たない勲章よりも現物の方が俺は有難いさ。」
結果として、神崎は今回の一件の功労者として大々的に表彰されることになった。多くの人は新しい英雄に拍手喝采を神崎に浴びせたが、終始神崎の表情が晴れることはなかった。
何よりもムカついたのが、重傷であるにもわざわざその場にやってきて満面の笑みを浮かべる天城と、その横で盛大に拍手する高杉がいたことだ。自分が納得してないことを承知しているくせに、そんなことをしてくるのは、嫌がらせ以外の何物でもなかった。
「絶対許さない・・・!」
「もう充分怒鳴ったじゃねぇか。許してくれよ。フロ・・・なんだっけ?」
「氷戦姫だったかな?」
「うるさい!」
ニヤニヤ笑いながら神崎の二つ名を揶揄う2人。
狂鬼を学生が倒し、且つ死傷者を一人も出さなかった。その功績を讃えられ、神崎に与えられた二つ名なのだが、他の人ならともかく、この2人にそれを呼ばれても何一つ嬉しくない。
「とにかくだ。そろそろその不機嫌な顔やめろ。もう着くんだから。」
「誰のせいよ・・・。はぁ・・・。」
なおも抗議の声をあげようとする神崎を遮り、神崎はため息を付きながらも視線を前に移す。そこは3人が2週間前に訪れた場所。警報がなってから最初にたどり着いた場所だった。
「・・・騒ぎがあったのが嘘みたいね。」
「まぁ住宅の被害も無かったし、大きな怪我も無かったからな。こんなもんじゃねぇの?」
2週間前、この区画近くに狂鬼が現れたにも関わらず、その場所は平和を取り戻していた。取り戻すというよりは、被害がなかった為、誰しもが大事として捉えていない。
もしまた何か起きても誰かが守ってくれる。そんな奇妙な安心感が彼らを支配している。
「これじゃあ、同じことが起きたらまたパニックね。」
「過去から何も生かせないんじゃ、そりゃ凡人だわな。」
その様子を見て神崎は思わず呟き、天城もそれに同意する。
高杉は何も言わなかったが、心中は察するというもの。文句があれば必ず口を挟むはずだから。
だが、彼らは別にこの場所に来ることが目的ではない。この場所のある人物に会うためにここまで来ているのだ。
その人物は母親と手を繋いで歩いていたが、こちらの姿を見かけると花が咲いたような笑顔を見せて近づいて来る。
「おにーちゃん!おねーちゃん!こんにちわ!」
「おう、こんにちわ。元気いっぱいだな。」
駆け寄ってきた少女に天城は挨拶をしながら頭を撫でる。神崎も挨拶を交わしながら少女と目線を合わせる。
「怪我は無かった?」
「うん!エリは元気だよ!」
「そっか。それは何よりだ。」
態々この場にきた理由はこの少女に会いに来たのだ。
別に恩を着せるためではない。天城がした事はこのまま誰にも覚えられる事なく忘れ去られてしまうだろう。それは構わない。だが、せめて自分の成し遂げたことを確認したかったのだ
「こらっ!エリ!あんた今日のお手伝いまだ終わってないでしょ!?」
「はーい!じゃあまたね!」
そのまま身を翻し母親のもとに戻っていく。それを見届けていると、不意に少女が振り返りこちらに向けて大きな声を上げる。
「おにーちゃん達!助けてくれて、ありがとー!」
母親も3人に向けて頭を下げ、天城は手を上げてそれに返し、神崎も立ち上がり少女の方向に少し頭を下げる。高杉は両手を頭の後ろで組んで笑っている。
「・・・悪くないわね。」
「薄っぺらい嘘の勲章よりかは、ずっと価値あるもんなんだろうなぁ。」
天城はここに来て初めて自分が成し遂げたことの大事さを悟る。
大勢から見ればどうでも良い事なのかも知れない。それでも自分の譲れないものの為に戦ったことは、一人の命を救えたことは何者にも代え難い喜びであることを。
「良かったよ。本当に。」
晴れやかな顔でそう呟く天城を見上げ、神崎は少しの不満を抱く。
どうせなら駄々を捏ねて手柄を主張して欲しいのに、そんなものに執着していなさそうなのが面白くないのだ。
「・・・本当に良かったの?」
「何が?」
「命懸けで戦ったのに、結局大きくは変わらない。あなたは変わらず凡人で戦闘科にも入れないし・・・。」
天城が何も得られないのはどうしても引っかかる。ずっと不機嫌なのも嫌がらせを受けたからでも、手柄の横取りが原因でもない。単純に評価されるべき人が評価されないのが気に入らない。
本来なら天城が功績を受け取り、戦闘科に入ることも出来たかもしれない。そうすれば天城自身も強くなる可能性が増える事になるはず。そう思っての発言だったのだが、
「戦闘科には入りたかったよ。強くなるためにもな。でも、今はあんまり興味ないな」
「どうして?」
「結局のところ強いか弱いかは個人次第なんだろうなって思っちまったからな。多分どこにいるかはあまり関係ないんだ。」
天城は戦闘科に入りたかった。誰も見捨てないで済む強さを身につけるためには強さを教えてもらうことが一番手っ取り早いと思っていたからだ。
だが、実際はそうでもなかった。現に今回は天城でも倒すことができた。それは日々の努力かはたまた運か。恐らくは自分の運が良かっただけとは思っているが、大事なのは強いということだけではない。
「安藤の様にはなりたくないさ。俺は多分あいつと同じなんだよ。認められなくて、認めて欲しくて。その手段が違っただけで、根っこはそう違わないって思っちまったんだ。」
「そんなこと無いわよ。」
「だな。俺もあいつとお前が同じとは思えないけど?」
「同じさ。救われたか救われなかったかの違いはあるけどな。」
高杉と神崎が否定するも、天城は譲らなかった。
天城も安藤もこの世界を恨んだ。唯一違ったのは天城は救われ、安藤はつけこまれた。それだけでしかない。
だからこそ天城は自分を戒める事にした。力は欲しい。だが、その方法は与えられるものではなく、自力で掴みとらなければならないと感じているのだ。
「強くはなりたいけど、暴走したら意味がない。その為には自分を知ることが大事なんだろうよ。そのためにも今はまだ戦闘科に入るべきじゃないのさ。」
「・・・天城君がそれでいいなら、もういいわよ。」
「そっか。まぁ戦闘科に入るだけが全てじゃないだろうしな。」
納得はしていないまでも天城の意見を尊重してくれたのだろうか、神崎も高杉も賛同してくれる。
だが、そこでふと神崎は口を開く。
「まだってことはいつかは戦闘科に来るの?」
天城は「今はまだ」と言った。それはつまり時が来れば戦闘科に入ることも考えているということだ。
神崎としては天城に戦闘科に来て欲しい。自分の目標の一つでもある人物がすぐ近くにいるのは励みになると思っているからだ。
しかし、天城の反応は芳しくない。すぐ答えが帰ってくるものと思っていたが、その少しばかりの時間に神崎は少しの不安を覚え、堪らず声を出す。
「どうしたの?」
「ん~・・・。そうだなぁ・・・。」
「・・・いいたいこがあるなら言いなさいよ。」
「さっきは偉そうなこと言ったけどさ、結局俺って戦闘科に入る条件満たしてないんだよね。」
「・・・あ。」
「そういやそうだったな。ってことは・・・。」
功績を上げて戦闘科に編入する。それが一番の近道だったのだが、天城自身がそれを断った。
今回は特例だったので、天城の成果にはならなかった。もとより天城も言いふらすつもりなどない。
なら天城が戦闘科に入る条件を満たすためには。
「・・・結局今回の功績を放棄した時点で戦闘科には入れないってことか。」
「そういうこと。まあ魔法が使えるようになりゃ変わるだろうけど。」
「だったら尚更!」
「もう遅いよ神崎さん。多分それ分かった上で言ってるし。」
天城が狂鬼を倒したというよりは、戦闘科の神崎が倒したことにしたほうが納得も行くし不安も無くなる。新しい英雄は平和の象徴と成りうるのだ。そしてそれは天城にはできない。
それを理解した上での辞退だったのだが、神崎はそこまでは理解していなかったようだ。
悔しそうに歯噛みする神崎だが、その頭の上に手が置かれる。
「どうせだから、嘘を本当にしてみろよ。俺が後悔しないように頑張れよ。」
それは、これから先の行動で神崎が本当の英雄になれと、天城が功績を渡したのが神崎で良かったと言えるようにしろという言葉だった。
天城は相変わらずヘラヘラと笑い、神崎の頭をクシャクシャに撫でる。流石に恥ずかしがる神崎がその手を振り払うと、
「ナオト、仮にも女性の頭を気安く撫でるものじゃないぞ?」
「仮にも!?」
「大丈夫こいつは馬だ。」
「誰が馬よ!!」
天城と高杉は笑っている。おそらくもうとっくに気持ちの折り合いが付いているのだろう。
自分と年の変わらぬ人が既に次へ進もうとしているのに自分もいつまでもいじけていられない。神崎は少しだけ空を見上げ、視線を2人に向ける。
「さあ。もう用事は終わったし、帰るか。まだ病み上がりでしんどいしな。」
「おう。帰るべ帰るべ。ってそうだナオト。約束忘れて無いよな?」
「ん?なんだ?」
「飯作るって言ってたろ?」
「・・・明日な。さすがに今日は無理。」
意外と律儀なのか言葉を返しながら二人は帰路に着く。その2人に置いていかれぬ様、神崎も後を追う。
せっかくだから、自分の好物をリクエストするのもありかも知れないなと思いながら、一つだけ思い出す。
「ねぇ天城君。」
「おう?」
「天城君の夢ってなに?」
「・・・それはだな、」
過去の話を聞いたときは夢を見つけた、とまでしか聞いていなかった。だからほんの少しの好奇心から聞いてみたくなったのだが、
「・・・秘密だ。」
「ちょっと!?」
天城はまともに取り合わなかった。3人の帰り道はオレンジ色の夕日が綺麗に照らしていた。
いろいろ考えてはいたのですが、
学園を舞台にしているはずなのに、
学園が舞台にならないので、ここまでにしようと思います。
見切り発車でこれ以上書けないです。
力不足ですみません。
また別のものをすぐ書くので読んでくださるとありがたいです。
では、またお会いしましょう。




