天城の性格、そして友達。
長い・・・かな?
うまく切り上げられない。
対代行騎士育成学園。
それが彼の通う学園の名前だ。
この学園には基本的に4つのクラスが存在している。
『戦闘科)』『情報科』『技術科』『普通科』の4つだ。
戦闘科は、戦うこと、強くなることを学ぶためにある。
情報科は、代行者の生態や弱点を探し、記録する。
技術科は、武器や防具、道具を作り、生存率を高める。
そして彼の所属する普通科は・・・
なんてことはない、ただ勉強するだけだ。
歴史や、数学、国語、科学などの一般教養を身に付ける。
なぜこの時代にそんなことを勉強しているかというと、生徒の知識を向上させるということが目的ではない。
そもそも、そんなことに時間を割くぐらいなら、畑でも耕せと文句も出たらしい。
ならば何故?というと、「闘う者達がなぜ戦うのか、何を守っているかを強く意識するため。」だそうだ。
立派な思想ではあるのだろうが、現実はうまくいってない。
今の普通科の生徒たちの現状は他の3つのクラスが優越感に浸るために存在しているだけだ。
当然、そんな状況なら不満もある。
だが普通科に所属する生徒たちは不満を溜め込んでも言うことはない。
自分たちが、平穏に生きるためにはあいつらにゴマをするしかないということに気付いているからだ。
「まーた怪我してんのかよナオト。今度は一体何したんだ?」
普通科のクラスで不貞腐れていた天城に声をかけてきたのはところどころ跳ねた茶色い髪をしている男。
紺色の淵のメガネに少し頼りなさそうな体つきをしているやつだ。
名前は、高杉忍。
技術科に所属している変わり種。わざわざ普通科の教室に来るような生徒は技術科では高杉だけだ。
「なんでもねーよ。」
「なんでもねーって顔じゃねえぞ、滅茶苦茶怒ってんじゃん。目つきワリーぞ。」
「目つきが悪いのは生まれつきだ!」
そう言うと高杉はやりなれた会話だというのに笑いだした。
「いやまぁお前の目つきが悪いのは知ってるけど、今日はいつも以上じゃん。」
「お前・・・人が気にしてることを・・・。」
そう、天城は目つきがすこぶる悪い。
背はそれほど低くはないが、高すぎる。という訳でもない。
体つきは多少鍛えているからガッシリとはしているが、威圧感があるほどでもない。
髪の色は黒、目に少しかかる程度までは伸びているが目を引くほどの何かがあるわけではない。
要するにほぼ平凡ではあると自分の中では思っている。
ただ一つ眼を除けば。
ぼーっとしているだけで「怒ってる?」と聞かれることはしょっちゅうあるし、授業を真面目に聞いてたら「文句があるのか?」と怒られたこともある。
一番ひどかったのは「あれは人殺しの目だ」と言われた時だ。
さすがに怒ってそう言った奴を見たらただでさえ悪いものが更に凶悪になったらしく、当時は相当煙たがられた。
だが、天樹本人の正確はそこまで刺々しいものではない。冗談を言えば冗談で返してくるぐらいには、話やすい性格をしている。
といっても、明らかに不機嫌満載の顔をしている天城にわざわざ近づく生徒はいない。
この高杉という変人を除いて。
「で、何があったんたよ。おにーさんに話してみ?」
「誰がおにーさんだ。さらっとスルーしやがって。だいたいノブにゃあ関係ない話だよ。」
「そんなことねーって。おもしろ・・・じゃなくて、純粋に心配している友人にぐらい話してくれてもいいだろ?」
「なるほど、よくわかった。お前には絶対言わん。」
そう言うと高杉は、笑いながらもどこか困った様な顔をしている。
と思ったら急にニンマリと笑いだした。
「なんだ、急に気持ちわ・・・あ~っと、気持ち悪い顔をして」
「言い直すんだったら言い直せよ!普通に傷つくだろ!?」
「いや、それ以外の言葉が見つからなくて・・・」
そういうとがっくりと肩を落としたが、すぐに立ち直りこっちを見た。
気持ちの切り替えの速さには定評がありそうだ。
「まぁお前の言葉遣いはいまさらだしなぁ。でも目つき悪い上に口も悪いとか世渡りできねぇぜ?」
「大きなお世話だ。それに世渡りはそれなりには上手だよ。特定の人物を除いて。」
「は~ん。その口ぶりじゃあ、また、誰かにやられたか。」
「・・・知ってただろ?」
「さあ、どうだろ?情報は隠すべきらしいぜ?」
ニヤニヤ笑いながら両手をあげてそんな事を言う高杉。
そう、高杉はこの学園で何か起こった時、その情報を誰よりもはやく、多く集めている。
そして、その情報を開示せず自分の中で隠し持ってるらしい。
技術科に所属しているくせに、情報をひたすら集めるのは、様々な情報の中からどんなものを誰が必要としているかを把握し、それにあった武器や道具を作るためだ。
にも関わらず、大抵は人を、正確には天城を揶揄うためだけに使用しているが。
「それは理解したよ。何十回言うんだよ。」
「大事なことは何回でも言うべきだぜ。伝わってるかわかんねーからな。」
「俺には伝わった。だからもう言わなくていいぞ?」
「そういうこと言ってるうちは伝わってねーのさ」
だったらどうすれば納得するのか。天城にはわからなかったので口を閉ざした。
それをみて満足したのか、高杉は急に真面目な顔になった。
「まぁだがよ、いい加減厄介ごとに首突っ込むのはやめとけよ。お前がわざわざやらんでも、誰かがうまいことやってくれるかもだろ?」
「それは見捨てろってことかよ?冗談じゃない。」
「見捨てろとは言わねーよ。俺だってムカつくしな。でもお前じゃ勝てねーだろ?」
「・・・勝てる勝てないじゃねーだろ」
「いいや、勝てる勝てないだ。勝てるなら自分でやる。勝てないなら他人に任せる。そういうもんだよ。」
「でもなぁ・・・」
「なんだよ?」
「殴られんのは痛ーんだよ」
「・・・」
そいうと高杉は押し黙った。
そもそもなぜ天城が安藤たちに殴られたかというとだ。
彼らの成績はそれほど優秀ではない。
確かに戦闘科に所属しているだけあって、天城たちが所属する普通科よりは強い。
だが、戦闘科の中ではかなり下位。下から数えたほうが早いところに位置している。
そのくせ、自尊人だけは人一倍高く、人に見下されるのが嫌いな奴らなのだが、かと言って上位に食い込めるほど急に成長するわけもなく、くすぶっていたのだ。
そんな時一人の生徒が目を付けられた。
彼らは一人の生徒を囲み、暴言を吐いた。
「お前に生きてる意味はない」「せいぜいが俺たちに媚び売ることしかできない」等等。
そして言葉だけでは満足できなくなったのか、「俺たちがお前らを守ってやるんだ。だったらその練習台くらいにはなってもらわねーとな。」と言って暴力を振るおうとした。
そこに天城が通りかかった。
天城が「何してんだ?」と聞くと「遊んでるだけだ」と答える。
天城が、「そうは見えないけど?」と聞くと「お前には関係ない」と答える。
その後も似たような問答は続いたが、しびれを切らした天城が、
「そんなことしてるから、いつまでも燻ってんだよ。いい加減上見たらどうだ?下見て満足してるからお前らは雑魚いままなんだよ、パツ金アメーバ。」と言ってしまった。
そこからは、お察しのとおりだ。
天城は鍛錬はしているが、未だその芽は出てこず。簡単にのされて終了。
ちなみにこんなことは日常茶飯事だ。
だが、安藤たちが天城に直接掛かってくることは少ない。
入学したての頃は、何かと人を食ったような態度の天城に事あるごとに突っかかってきたが、彼が殴られても態度を変えないことが面白くなかったのだろう。、そこからの矛先は彼以外に向いたのだが、何故か毎度毎度似たような場面に遭遇する。
その度に天城は突っかかり、殴られる。そんな事を繰り返しているのだ。
因みに天城自身には安藤たちに対して思うところはない。見捨てるという行為が嫌なだけで、その対象にはそこまで興味が沸いてるわけではない。
それがまた、ストレスをためさせている原因ではあるのだが・・・
高杉の発言は天城を心配してのことだろうが、それでもは彼は見捨てることはできないし、誰かに任せようとも思えなかった。
たとえ弱くても、それをやめてしまったら自分の中の何かが終わってしまう。そんな気がしてるからだ。
「お前の言い分はわかるけどよぉ・・・」
忍は何か言いづらそうにしているがそこから先は天城には言われなくてもわかる。彼の人生で何度も言われてきたことだからだ。
弱いくせに何かを守ろうとしても無駄だろ。
直接そんな言葉を行ってきた奴は流石にいないが、だいたい皆同じようなことを言ってくる。
彼も分かっている、頭では。
でも、理解はできても納得ができない。
何もできないなら俺たちは何のために産まれたのか?
あいつらみたいなのに優越感を与えるために産まれたのか?
代行者を倒すほどの強さがないから、また見捨てることになるのか?
「(それは、嫌だ。だったら強くなるしかない。強くなりたいと願ってるなら、その過程はどうでもいいか?そんなわけがない。見捨てたくないから強くなりたいんだ。その過程で誰かを見捨てるのは・・・)」
天城は考え込み口元に手を当て俯いていく。
「ま~た難しい顔してるぜ?」
忍に言われハッと顔を上げる。
「さっきはいいすぎたけどよ、いい加減戻って来いよ。」
「いや、別にそこまで気にしてないよ。」
「そう?それならまぁいいんだけど。」
「・・・言いすぎたと思うなら謝れよ。」
「悪いとは思ってない。それにあの手の連中を馬鹿にするのは、なかなか痛快だし、お前といると面白いこともよく起こるからな。」
天城は肩を落としため息をつく。
そんな彼をみて楽しそうに高杉は笑う。
「んじゃそろそろ授業始まるしクラスに戻るわ。」
「早く戻れよ。疲れた。」
「親友だろ?」
「・・・」
「せめてなんか言えよ!?」
なにも言わない天城に抗議の声を上げる高杉だが、時間が差し迫っているからか、何も言わず渋々天城のいる教室を出て行った。
続きは明日。