新しい力
二度目の警報が鳴り、一度目の時は冷静であれた天城も少し焦りを覚え始める。一度目はゲートが出現するという警報だった。どこに現れるか、いつ現れるかは分からずとも代行者が出てくるまでには時間があり、その時間を使って逃げるなり戦う準備を整えるなりができる。
だが、この警報は代行者が出現したということを意味している。天城は自分の力で代行者に勝てるとは考えておらず、今は幼い女の子も近くにいる。必然的に緊張し顔も強ばっていく。
その様子を敏感に察知してしまったのか、少女は不安げな目を天城に向けてくる。その目を見て天城はこわばっていた顔を幾分か柔らかいものに変化させる。
「(俺が不安がってどうする。まずは現状把握だ。ここに代行者来なければ問題ないことだ。)」
そしてすぐさま高杉と神崎に連絡を取ろうとする。通話はずっとしているはずなのだが、思考に没入していた天城には向こうの会話は聞こえてこなかった。そして天城は最悪の言葉を耳にする。
「嘘・・・なんで!?」
「これは事実だ。ここからは距離も近い。もう少し離れた場所に移りなさい。」
「待って!あそこにはまだ人が・・・!」
「そんな事を言っている場合ではない!今すぐ君たちも逃げなさい。それに戦闘科ならば、なぜここにいる?命令無視は罰則だぞ?おい!どこに行く!?」
そんな会話が天城の耳に聞こえてくる。その会話で全てを察してしまった。
「(マジかよ・・・最悪、だな。)」
代行者が出現する場所は天城のいる廃棄区画近くだった。そのことを会話の内容から知った天城は頭を抱え、声を荒らげそになるが、目の前の少女に不安を伝えるわけにも行かず、ギリギリで踏みとどまる。
「天城くん!聞こえてる!?」
「聞こえてたよ。代行者がここに現れるんだろ?」
天城の言葉に少女は再び泣きそうになるが、天城は少女の頭を撫でて大丈夫と声を掛ける。実際何が大丈夫なのかと問われれば天城は答えることはできなかったのだが、その少女は頭を撫でられ少しくすぐったそうにしているだけだった。
本当ならなんでこんな場所にいるのかと問いただしたい気持ちは天城にはなくもないが、今それを言うほど天城も鬼ではないし、叱りつけるのは親の役目、自分の役目はこの少女を安心させることだと気持ちを切り替える。
「ここに代行者が出たらしいんだ。だからもう行こうか?」
そう言われた少女は、机の上にあったぬいぐるみを両手に抱える。もしかしたらこのぬいぐるみを取りに来るためにこんなところまで来たのかもしれないな、と思うと天城はこの少女は昔の自分より強いとも思えた。自分は大切なものも全部捨てて逃げ出した。それを思えばこの子は当時の自分よりもずっと強さを秘めていた。
「その人形大事なものか?だったらちゃんと抱えて離すなよ?」
首を縦に振り首肯する少女。その様子を見て天城は少女を抱き抱え走り始める。少しでも早くこの廃棄区画を抜け、自分たちの街に戻るために。
天城が少女を捜すために、廃棄区画に入った頃、それを眺めていた男がいた。
「なんであいつがここにいやがる?だが、これはいいチャンスだな・・・」
そう言うと口の端を釣り上げにやりと笑う男。その男に声を掛ける仮面の人物。
「まだやらなぁいのぉ?そろそろ時間切れになっちゃうよぉ?」
「ああ?まだ待てよ。見たところあいつは誰かを探してる。だったらあいつがその誰かを見つけて調子づいた時にやらなきゃつまらねぇだろ?」
そういった男に仮面の人物は内心で少しだけ男に対する評価を上げる。といっても爪の先も無い程だが。
「(へぇ、そんなこと考える知恵はあるんだなぁ。まぁちょうどいいかなぁ?そのほうが俺らにとっても都合がいいしぃ。)」
2人は雨を気にすることもなく、天城をつけて回る。そして、天城が目的の少女を見つけた時に男は懐からあるものを取り出す。
それは、ある文字が刻まれた一枚のカード。その男はそのカードを前方につき出し言葉を紡ぐ。
「さあ来い!俺の下僕!俺の新しい力!その姿のままに大いに暴れて破壊し尽くせ!!」
その直後に男の目の前に一体の代行者が現れる。2本の角を即頭部から前方につき出し、下半身に比べて、少し不釣合いな大きすぎる上半身に、そこから生える大木のような腕。そして頭から手首にかけてまでが、毛で覆われた一体の代行者。
名は『狂鬼』。
その皮膚は鋼の如く固く、その両腕から繰り出される一撃は、大昔に戦車すら破壊したと言われる代行者
「こいつはすごいぜ!代行者を使役できるなんてなぁ!!俺の力さえあれば、全部ぶっ壊せてやれる!!」
男は絶頂の中にいた。新しく得た力は人類の天敵である代行者を使役できる。そんな力を持って男が得意になるなといっても聞き入れてくれるわけがない。恐らく男の脳裏にはこれから自分が行うであろうことに愉悦を隠さない。
「(よぉく言うねぇ。自分ひとりでは『狂鬼』一体使役することも出来なぁかった癖にぃ。しかも使役するために、随分と弱くなっちゃってるじゃぁないかぁ。)」
しかし仮面の人物はそれを言わない。男一人では『狂鬼』を使役するには未熟すぎた。だから、仮面の人物は男にも告げず、自身の魔力をこっそりとそのカードに送っていた。それでも主たる男が弱すぎたために、『狂鬼』すら弱体化して出現したこと、それにすら気づかないことに呆れて言葉も出なかったのだ。
「(さすがに思考が合致していても弱すぎるぅなぁ。この子にするべきじゃなかったかぁなぁ?これは失敗だなぁ・・・。)」
そして、男が目的のために『狂鬼』を連れて進み始めるとき、仮面の人物は姿を消していた。
続きは明日。