発見する。
雨の中、天城は人のいない街を走る。雨のせいで服が水を吸い肌に張り付いてくるが、かと言って進むことを止めることもできず、走り続ける。
そして天城が走り始めて数分、廃棄区画の端に到達する。立ち入り禁止となっており、人が住まなくなったその場所は、同じ街の中にあるにも関わらず、随分と寂れた場所になっていた。
「(なんでこんな場所に雨の中行っちまうんだろうね?家にいてくれりゃ良かったのに。)」
今更そんな事を言っても仕方ないのだが、天城はそう愚痴らずにはいられなかった。見捨てたくないからという理由でこんなところまできたのは天城の意志だが、欲を言うならば危険な目には会いたくなかった。彼が、今までいじめを止められていたのも、命の危険が無かったからだ。現に今天城の体は少し震えている。
それが、雨で体が冷えたせいでも、走り続けて疲れたからでもないことは天城が一番よくわかってる。
「(くそっ。覚悟決めたくせになんで震えるんだよ。だいたいまだ代行者の姿も見てないのに、今からこんなんでどうするんだ。)」
そうやって震える体を無理やり進ませようとするが、足取りは先程より重い。自分の頭とは裏腹に体がついて来てくれないのだ。
「(臆病者か・・・。全く持ってその通りだな。)」
高杉に臆病者と言われた天城、その理由を神崎はわからなかったが、天城は知っていた。天城が少女を助けに行ったのは正義感からではない。もちろんそんな気持ちも少しならあったかもしれないが、大きな理由ではない。
天城は人を見捨てることが怖いだけだった。見捨ててしまえば、自分が昔出会った奴らと同じになる。天城はそれが何よりも許せなかった。そんな奴らと同一視されるくらいならば死んでしまった方が遥かにマシとも思える程には。
「(って、俺も人のこと言えねえんだけどな。ってかそんなこと考えてる場合じゃねぇか。)」
横にそれかけた思考を元に戻す。そうして周りを見わたし、声を張り上げる。
「誰かいないか!?いたら返事をしてくれ!?」
だが、天城の声に応える者はいなかった。雨のせいでこちらの声が届かなかった可能性もあり、先程より大きな声を出すが、それにも応える声は聞こえなかった。
「(駄目だな、返事がない。このあたりにはいないのか、それとも声が出せない状況に・・・)」
ふとよぎった最悪の状況に天城は頭を振る。そもそもまだ代行者は出現していない筈なので、そんな自体におちいる可能性は低い。なので天城は歩きながら声を上げ、返事が帰ってくる場所を探しながら廃棄区画を進む。すると、高杉の声が聞こえてきた。
「ナオト、どうだ?見つかったか?」
「いや、まだ見つけてない。今は廃棄区画の中央に向かって進んでる。」
「ちょっと!?危険よ!大丈夫なの!?」
神崎の動揺した声が聞こえるが、天城はそれに問題ないと答える。なにも廃棄区画に入ってすぐ結界の範囲外に出るわけではない。そこまで遠くに行かなければ普通なら代行者も出てこれないはずだからそう答えたのだが、神崎はその意見を無視した。
「今は普通の状況じゃないのよ?もしかしたら例外もありうるって考えてないの?」
「あっ・・・」
天城の意見は尤もではあるのだが、例外も起こり得る。現に結界に寄ってこないはずの代行者が結界に向かって突如進み出し、都市が滅ばされたという話もあるくらいなのだから。
そして、天城はそこまでは考えていなかった。冷静な判断を下せるほどの余裕はあったのだが、それ以外のことまでには考えが及ばなかったのだ。
「本当に大丈夫なの?」
「・・・大丈夫、なはず。それに例外が起こりえたとしても、どのみちここまで来たんだ。せめて出来るだけのことはやるさ。それよりそっちの方はどうなんだ?」
「・・・こっちはもうすぐ避難所につくわよ。そこまで行けばまた連絡するわ。」
「ん。了解。にしてもなんか殊勝になったな?」
「今あんたと言い争うほど馬鹿じゃないわよ。そっちもやるからには必ず見つけなさいよ。」
神崎は言いたいことは色々あれど今はそれらの言葉を全て飲み込んだ。天城が人を助けようとしているのなら、言い争うだけその邪魔をすることになり、その分少女も天城にも危険が迫ることになるからだ。
それきり天城は通信をやめ、少女を捜すための作業に戻る。
それから数分、天城は少しの違和感を覚える。廃棄区画の建物はどれも一様に廃れている。だが一つの建物だけ、拙いながらも人の手が加えられたような建物が存在していたからだ。
「・・・まさかとは思うけど、廃棄区画の建物を秘密基地に使ってるとか言わねーよな?流石にそれは馬鹿としか言いようがないぞ?」
廃棄区画の近くで遊んでいたというだけで相応に怒られるのだが、それすら超えて中に入り込んでいたなら、その少女の好奇心は命を失う可能性すらある。もしそうなら、説教の一つじゃ済ませられない自体なのだが、今の状況下では手がかりになりそうな建物となる。
そして、そのままその建物に入ると、元は一軒家だったのだろうか、テーブルやソファなどの家具があり、明らかに後から置かれたものであろう人形やビー玉などといったものがそこかしこに置かれていた。耳を澄ますとどこかですすり泣くような声が聞こえてくる。そのことに本当にこんな場所にいるのかと呆れ半分と安堵半分の息を漏らす。
「おい。誰かいるか?いたら返事をしろ。」
「ぐす・・・えぐ・・・。」
返事は返ってこなかったが、鳴き声の発生源に向けて天城は歩を進める。すると、ソファの後ろで泣いている少女を見つける。栗色の髪を左右に纏めた女の子だ。
「やっと見つけた。帰るぞ。」
「ひぐ・・・誰?」
「お前の母さんに頼まれたんだよ。娘を探してくださいって。」
「お母さんに会えるの!?」
そう言うと少女は泣きながらも、安心したような顔をしている。その少女に大丈夫だという旨を伝えると、少女は少しだけ明るくなった。そして天城はその少女の頭を撫でながら、2人に連絡を取る。
「見つかったの!?」
「ああ。見つけた。あとは帰るだけだ。」
「そう、良かった。こっちも避難完了よ。後はその子が帰ってくるのを待つだけ・・・」
神崎の言葉を遮るかのようにゲート出現の音とは違った警報が鳴る。その音は、今まで現れなかった代行者が、ついに現れることを示す音だった。
続きは明日。