誘導中、少女の行方
どの街にも人目につかない部分はある。この都市にとっては廃棄区画などがその例だ。と言っても普通の人間は廃棄区画などに近よらない。そこは、自分の命が奪われる可能性があるのだから。
そんな都市外縁部にある廃棄区画で、2人の人物が話し合う。
「おかしいねぇ?僕はもっと時間を掛けようといったんだけどぉ?」
「ビビってんじゃねえよ。黙って俺に従え。」
仮面の人物の小言に安藤はつまらなさそうに答える。
「どうせあいつらはすぐ動かねえんだ。景気づけにはちょうどいいだろ?」
安藤は仮面の人物にそう言葉を掛けるが、仮面の人物は答えなかった。
その事に不機嫌を隠せない安藤は舌打ちをしながら、これからの事を考える。
「(まずは、街の奴らで試さなきゃな。それから、普通科どもに目にもの見せてやる。戦闘科の奴らにも俺の力をしめしてやらなきゃあなぁ。神崎やあのメガネ、天城のクソ野郎は、疲弊しきったあとに俺の手で止めをさしてやろうか?)」
考えながら笑みを浮かべる安藤は自分に酔いしれていた。今まで自分の事を馬鹿にしてきた奴らに報復できることに、その『力』を得たことに愉悦を隠しきれない。
そのための第一段回として、今回の事態を起こした。代行者を街に召喚し、この街をぶっ壊す。そのあとは別の街へと向かい破壊するのも楽しそうだ、と自身の心の赴くままに安藤は道を突き進もうとする。
その様子を見ながら仮面の人物はため息を漏らしかけるが、すんでのところでそれを堪えた。
そもそも今回は仮面の人物が安藤を唆したから引き起こした事態なのだが、流石にここまで考えなしに動くとは思ってもいなかったのだ。
もっと数を用意し、奴らの隙を付き、失敗する可能性を出来るだけ低くしてから動きたかったのだ。
だが、安藤は今すぐ行動を移せと何度も言ってきた。それも鬱陶しいくらいに。
なので、どのみち失敗はする可能性は少なからずあるのなら、ここでやらせてしまっても良いか。と考えた。
「(少し助長しすぎたかな?まぁどうせ使い捨て。生きてる間は適当に使っても、死んではいけないほどの存在ではないしねぇ?)」
仮面の人物からしてみれば、安藤の事など最初から眼中になかった。ただ、事を起こすときに、出来るだけ自分に眼が向かないように生贄を立てただけだった。
「(それに、失敗しようが成功しようが、彼が死のうが生きようがどっちでもいいしねぇ。私たちの目的のためにどこまで踊ってくれるかなぁ?)」
仮面の人物は人知れずほくそ笑む。安藤を適当に褒めあげ、唆し、捨て駒にするつもりのなのだが、当の本人はそれに気づかず、新しい力を自身の衝動のままに行使することしか頭になかった。
そしてところ代わり、天城たち3人は戸惑っていた。一応は住人たちの騒動を収め、渋々ながらも付いてきてくれているのだが、その時に一人の女性が「娘を助けてください」と言ったのだ。
当然天城たちも助けに行けるなら助けに行きたい。だが聞けば肝心の少女は廃棄区画の近くで遊んでたという話だ。一体何故、とも思ったが、子どもたちの好奇心旺盛さと、いくら大人が見ているといっても、ずっとというわけにも行かない。ちょっとした隙に入り込んでしまったのだろう。平時であれば遠くまで行かなければそれほど問題はないが、今回のような事態ではそうも言ってられない。もし、廃棄区画の近くに代行者が現れれば逃げる最中に『外』に出てしまうかもしれないからだ。
「どうする?」
「・・・一度ここの住人たちを避難させるのを優先させるべきね。幸いにもまだ、代行者が現れたと言う警報はなってない。廃棄区画近くは私でも危険だわ。」
だが、天城と神崎が話し合う会話の内容に女性の顔から生気が抜けていく。自分の娘の居場所がわからず、このままでは死ぬ可能性すらあるのだから当然だろう。その様子を見た住人たちが声を上げる。
「そうだ!どこにいるかわからない奴らより早く俺たちを安全な場所に!」
そんな無責任な声に天城は顔を歪ませる。だが取れる選択肢が無かった。神崎がここから居なくなれば、住人たちは再びパニックを起こす確率は高いだろう。天城と高杉では代行者に対抗できない。今はまだ現れてないと言っても、危険性がある以上は単独行動などできない。
もし、自分に力があれば、何度も過ぎった考えが天城の思考に入り込む。自分に戦う力があれば、自分が少女の捜索に行くことはできたであろう。だが天城にそれは出来ない。天城自身も代行者と相対したとき、できることは無いと考えているし、死にたくはなかった。
「そんな・・・」
「おい!もういいだろう!?」
「そうだ!それに生き残るかも知れねえだろ!?」
確かにこの場の近くに代行者が現れるとは限らない。情報統制を行っている情報科であれば知っているかも知れないが、今それを知ることはできない。代行者が出現する場所を割り出すために、一時的に電波は遮断される。情報の錯綜を防ぐためだ。
本来であるならば、それらの情報を広く散布する方法を取るべきなのだが、彼らは平和を生きすぎた。非常事態に対する耐性がそれほど高くはなかったのだ。それでなくとも都市部にいきなり代行者が現れる事など、結界が張られてからは初のことだったのだから、無理もないだろう。
「(そうだ、可能性はある。なにも死ぬと決まったわけじゃねぇ。それにここの人たちを避難させてから探しに行っても間に合うかも知れねえんだ。今はここの人たちを何とかすることだけ考えなきゃ・・・!)」
天城は思考し先に避難させ、そこから時間の許す限りで探索を行おうとし、その考えを2人に伝えようとする。だが、女性の言葉が耳に届く。
「お願い・・・見捨てないで・・・!」
その時天城の頭で中で何かが切れる音がする。
続きは明日。