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勇者の紋章  作者: 斎藤雨
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理想と現実

俺の名前は天音勇。

平凡な、どこにでもいる、ごく普通の高校生だ。


それがどういうわけか、誘拐、監禁され、挙句の果てに「勇者、ヤラナイカ?」とか言われてしまっている。


「花菱さん、でしたっけ?これって、断った場合はどうなるんですか?」

「えっ?断るつもりだったの?」

やっぱ拒否権なしかよ!?


まあ、この状況で断っても解放されないことは分かってはいたが。

だったら聞くなって話だ。


こんな感じで落ち着いて会話を交わしてはいるが、俺は未だ拘束されたままだ。

つまり、YES以外の答えが用意されていない。


まあ、実際『勇者』という響きには惹かれるものがある。

俺だって年頃の男子だし?

そういう、人と違ったものに憧れる気持ちはあるよ。


『選ばれし勇者』何とも格好いい役どころではないか。


だがしかし、この人の話を鵜吞みにしてはいけないと、俺の心が警鐘を鳴らしている。

一体何が引っかかっているのだろうか?


この人が悪い人には見えない。

しかし、直ぐに信用するのは無理だ。

自分がこんな目にあっているわけだし、何より胡散臭い。


だが、断ることは不可能だ。

解放されるには受け入れるしかない。


「...分かりました。やります、勇者。」

「そうか!」

満面の笑みだ。


「いやー、本当に、よかったよかった。」

そういうと、手に持っていた何かを投げ捨てた。


おい!?

一体何を隠し持っていたんだ?

あぶねぇ、断らなくて良かった...


「それで、引き受けはするんですけど。まだ分からない事が多すぎるので、色々聞いても良いですか?」

「うん、いいよ。」


とりあえず、疑問を解消するための質問タイムだ。


「なんで俺が選ばれたんですか?」

「それは君があの剣を抜いたからだよ。」

...剣?


「あれ?覚えてないのかい?まあ、思い切り頭を打っていたから、記憶が混乱していても仕方がないか...」

全部あんたらのせいだけどな。


「ああ、思い出した、俺があの剣を抜いたら、あんたらが襲い掛かって来たんだ。」

「襲い掛かるだなんて人聞きの悪い、あれは君に話を聞いてもらうために必要な事だったんだよ。」

間違ってないじゃないか...


「結局、あの剣は一体何なんです?選ばれし勇者のみが抜ける聖剣とかですか?」

「あっはっは!聖剣て、君、そんなすごいものが簡単に手に入るわけないじゃないか?」

笑われた。

笑われるようなことか?

どうでもいいけど、何か腹立つ!


「じゃあ、何なんです?」

「あれは内在魔力量計測装置だ。対象の内包している魔力量に応じて抜け幅が変わるんだが、国内であれを抜いたのは君が初めてだ。」

なるほど、そのせいで俺は拉致されたわけか。

しかし誰が作ったんだ?

わざわざ剣の形にするなんて、悪趣味な奴だ。


「ちなみに、あれを作ったのは私だ。」

うん、納得!


「というか、あれを見て誰も疑問に思わなかったんですか?」

話題にも上がっていなかった。

普通はあれを見て何も思わないはずがない。

まあ、おかしなのは剣だけじゃなかったが。

寧ろそちらの方に目が行ったくらいだ。


「それはあの部屋に張られた結界のせいだろうね。」

結界ってあれか?

あの、何かすごいやつ?


「うちの優秀なスタッフがやってくれてね、私も専門外だから原理はよくわからないんだけど...」

ああ、良かった。

いや、良くはないけど。

この人も詳しくはないのか。


じゃあ、最も聞きたいことを聞こう。


「いや、確かにありがたい申し出ですけど、勇者になったら魔王と戦うんですよね?それって危険な事ですし、何より俺、戦闘力皆無なんですけど...」

多分、俺の戦闘力は5くらいだろう。

ゴミ扱いされてしまうレベルだ。

自分で言ってて悲しくなってくる。


「その点に関しては心配する必要はない。」

「はい?」

「より正確に言うのなら、まだ心配する段階にないと言うべきかな。」

「それは、つまり....」

どういうことだ?


「さっき君に勇者になってもらうって言ったけど、それはつまり、君はまだ勇者ではないということだ。」

...うん。


「今の君は勇者候補、勇者になれるかはまだ分からないんだ。」

「...勇者になれなかった場合は?」

「もちろん、それ以降は君の自由だ。」

なるほど、結局勇者を目指す事には変わりない。


だが、これで少なくとも一定の期限があることが分かった。

勇者に成れなければ自由。

しかし、その場合気になるのはもう一つの方で。


「もし、俺が勇者になれたら?結局魔王と戦わなきゃいけないんですよね?」

そうだ。

重大な問題がまだ残っている。

正直これが一番の問題だ。


「それも心配はいらないよ。」

「俺なら魔王に勝てると?」

「違うよ、そうじゃない。現段階での君の勝率はゼロだ。戦闘力を測るまでもなくね。」

言ってくれるな...


「それは、勇者になった場合も変わらないんですか?」

「そうだね。いや、もしかしたら、頑張れば1割くらいにはなるかもしれない。残念だけど、君にあるのはその程度の期待だ。」

「じゃあ、何でこんなことを?」

その程度の期待値なら、ここまでする必要は無かったはずだ。

何故こんな犯罪まがいのことをしてまで俺をスカウトするのだろうか。


...いや待てよ、つまり、そういうことか?


「『その程度』が、私たちには必要だったからだよ。」


つまり、


「俺に魔王をどうこうするのは期待してないってことですか?」

「その通りだ。理解が早いね、君は。助かるよ。」

ここで俺は、自分が抱いていた違和感の正体に気が付いた。


先ほど彼女は、「私たちの為に」勇者になってほしいと言っていた。

普通なら、「世界の為に」と言うのではないだろうか。

彼女が間違えた表現を使ったとは考えられない。


やはり、勇者としての俺の役割は別にあるみたいだ。

とりあえず、この時点で俺は自分の抱いていた勇者像を捨てたのだった。



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