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勇者の紋章  作者: 斎藤雨
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身体測定

今日は高校最初の身体測定だが、正直言ってあまり意義を見出せない。

制服を購入する際の採寸で測っているし、この短期間での成長は望めないだろう。

つまり今回の測定はあくまでこれからの成長の基準点となるだけで、そこまで騒ぐことではないのだ。

だから、他の奴の記録を覗き見て、負けたとか勝ったとかいう奴の気持ちが分からない。


「なあなあ、お前背伸びてた?言っとくけど、背の高い低いの勝負じゃないから。伸び率の勝負だからな?」

おい小坂、お前のことだぞ?

まったく、4クラス合同だとこいつと一緒なのだ。

うるさくてかなわない。


「この短期間でそんなに変わるわけないだろ?何でそんなに騒げるんだお前は。」

「でもほら、長沼が...」

と、促された方を見やると、彼がそこにいた。


「3cm伸びてた」

「ああ、そう....」

どこまで伸びるんだ、こいつは。

体育館に集まった男子から惜しみなく贈られる羨望の眼差し。

その様はまるで信仰を集める教祖のようで、俺の目にも後光が差して見えた。


「測定項目ってこれで全部か?」

「ああ、その筈だけど....」

「でも、何かまだ列が出来てるぞ?」

見ると、確かに列が出来ていた。

しかし、何故か一列だった。


この場に集まっているのは、8クラスあるうちの1~4組の男子。

つまりは一年生の男子の半数な訳だが、それでも80人近くいるわけだ。

今までの測定では二列だったので、一列に並ぶとまあ長い列が出来てしまうのだった。


「これ何の列だ?」

「さあ?皆並んでるからとりあえず並んだけど....」

長い列を見ると並んでしまう心理....

これって日本人特有のものだった気がする。


ともあれ、自分が一体何に並んでいるのかは気になる。

前を覗き込むと、そこには白い小屋があった。


「何だあれ?」

「さあ?でも、わざわざあんなの建てるくらいだし、重要な何かなんじゃないか?」

と、話していると一人出て来た。


「おう、安藤!中で何やってたんだ?」

「いや、普通に測定用紙を回収してただけだったぞ?」

彼(安藤君と言うらしい)は、それだけ話すと体育館を後にした。


「だってさ、謎が解けたな。」

「最近は個人情報の保護とかもうるさいからな、その為の処置か。」

二人が納得している後ろで、俺は疑問を抱えていた。


「ちょっと待って、今のは?」

「あん?同じクラスの奴だけど?」

ああ、そっか、そうだよな、同じクラスの奴だもんな、軽くおしゃべりしたりするよな。


俺の後ろにいるのも、俺と同じクラスの奴だ。

試しに声をかけてみるか。


「背、伸びてた?」

「え?いや....」

「あ、そう....」


うん、話が続かねぇ!

そもそも一度も会話したこと無い奴だし、名前も覚えてないし!


何だろうこの疎外感。

前の二人がとても遠い存在に思えてきた。

中学時代はいつも一緒の三人組だったのに、こいつらが別のクラスで新しいトリオを結成してるのかと思うと、何とも耐え難い気持ちになる。


悪いのは自分だと分かっている。

分かってはいるが、この二人といるときにあった特別感のようなもの、それが失われてしまったような気持ちだった。

何というか、「俺じゃなくてもいいの?」みたいな。


そんな重苦しい気持ちを抱えていると、時が早く進むようだ。

あっという間に俺の順番が回ってきた。

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