友人は主に二人
「はぁ…」
最近、気が付くとため息が出てしまう。
高校生活が始まってからまだ1ヶ月しか経っていないというのに。
窓際の後ろから2番目という素晴らしい位置取りも、これではまったく嬉しくない。
「どうした天音?あんまりため息をつくと幸せが逃げるぞ?」
そう声をかけるのは友人の小坂だ。
小坂は小学校からの長い付き合いだ。
気のいい奴だが、しばしば俺のことを馬鹿にして笑いのネタにしてくる。
そういうところが無ければ、普通に良い友達だと思えるのだが.....
時々こうして様子を見に来るついでに、心を抉るような言葉を散弾銃の様に浴びせかけてくるので、俺にとっては天敵でもあった。
俺が振られたことを周囲に言いふらしたのもこいつだ。
つまりは現在俺が置かれている状況の元凶なのだが、こいつは悪びれもしない。
それどころか、「いつまで引きずってるんだ、相手にとってはもう終わった話だろ?」「突然そんな風に変わるから皆も困惑してるじゃないか。」などと言うのだ。
そんな事を言われてはこちらとしても黙っていない。
いつものように口論が始まる。
しかしそれも長くは続かない。
もう一人の友人、長沼が仲裁に入ってくる。
「二人とも、そのくらいにしとけよ...」
長沼とは中学校からの仲だが、空気の読める奴で、妙に大人びている。
仲裁役になることが多く、事態を収拾してくれる。
それにしても、
「長沼、また背が伸びたんじゃないか?」
「ん?そうか?帰ったら測ってみようかな。」
こいつの身長は、中学の時点で180㎝を超えていた。
話していると首が痛くなってしまう。
「確かそろそろ身体測定があった気がしたけど。」
「そうか、じゃあその時でいいや。」
結構こういう風に適当なところがあるやつだ。
それがこの落ち着いた雰囲気に繋がっているのだろう。
予鈴が鳴った。
「そろそろHRが始まるな、俺たちは教室に戻るよ。」
そう言うと、長沼は小坂を引きずって、隣の教室に戻っていった。
ふと、右斜め前の席に視線を送る。
これだけ騒いでいても、彼女がこちらを気に掛ける様子はない。
小坂の言う通り、もう終わった話なのだろう。
「はぁ...」
再びため息をついた。
どれだけ幸せが逃げようとも、これ以上の悪化は想定できない。
そして今日も、長い学校生活が始まる。