第十一話「トラブルの種は――深く静かに進行します」
メイド日記、富士宮悠観察記録、第三五章一二の節――
悠様が小学校に上がられました。
せんえつながらリオは、悠様のご成長を我がことのようによろこびながら、同時にいまいましく思わずにはいられません。
小学校は幼稚園とはちがい、女の子の数がぐんと増えてしまいます。
最近気付きましたが、悠様ってすこしおバカさんです。
自分が他人からどう見られているのか、まるでむとんちゃくなのです。
悠様は女の子の身体のままで、たくさんの女の子に囲まれると『お漏らし』をされるようになりました。
悠様は『ムズムズがすごくなる』とおっしゃっていました。
仕方がないので今日からしばらくおむつをしてご通学されることになりました。
もう小学生なのに恥ずかしいですね、とリオがそっとささやくと、悠様はいじけてベソをかきました。
何でしょう――リオは少しだけ新しい自分を発見しました。
最近、へんな視線を感じることがあります。
おおかた、悠様を遠くから愛でようとする変態さんかと思っていたら少し違うようです。
その視線には、あきらかに、リオに対するしっとが感じられました。
実はそのような視線には慣れています。
悠様の側にいつも仕えているリオのこと嫌っているクラスの女子は多いのです。
ただ――その視線の持ち主の殺意は本物でした。
まふぃあんメイドとして、リオの本能が危険をつげています。
今晩から、寝るまえのたんれんを三倍に増やしましょう。
その日の夜、リオは夢を見ました。
真っ白い花に絞め殺される夢です。
翌朝、リオの悠様画像コレクションがすとれーじからひとつ残らずデリートされていました。
リオは絶望しました。そして学びました。形あるものが滅びるひつじょうとむなしさを。
そして悠様を言葉でイジめるとリオの心がいやされるのを知りました。
でも他のひとが悠様をバカにすると腹が立ちます。社会的にまっさつします。
いつでもどこでも、悠様といるときもいないときも、リオには刃のような視線が突き刺さるようになりました。
その視線を感じるたびに、リオは悠様をイジめるのです。しかたのないことなのです。
*
豊葦原中学校――市内のほぼ中央に存在するごくごく普通の市立中学である。
男女比率五対五。偏差値は並。部活動の実績はそこそこ。輩出した有名人著名人――特になし。
だがそれは設立されてから間もないためであり、これから学校の名前を世に知らしめてくれる優秀な卵たちを数多く擁している。
その筆頭と目されている生徒こそ十志郎であり、富士宮家次期当主の悠だった。
十志郎はその恵まれた体格と運動神経で将来を嘱望されるほどの野球選手である。
悠はやがては富士宮の全てを引き継ぎ、この街の名士となることを約束されている。
だが。
その約束が果たされる為に、悠が試練を乗り越えなければならないことを善良なるクラスメイトたちは知る由もない。
名無し『昨日から〈T〉くんの態度があからさまにおかしい件について』
豊葦原中学では意見交換や連絡網の代わりに校内ホームページを積極的に活用している。
中でもBBSへの書き込みは生徒一人一人にアカウントを発行し、生徒たちは一応のモラルを守りながら自由にのびのびと意見交換や校内情報の共有を楽しんでいた。
そしてここ最近の話題の中心といえば、留学から突然帰ってきた十志郎のことだった。
名無し『名無しさん肯定です。もしかして私たち避けられてる?』
名無し『留学の間に何かあった?』
大抵、本人の許可を得ない限り、名前はイニシャルで表記する不文律があるのだが、豊葦原中学の生徒なら誰が誰なのかすぐわかってしまう。
そして誰何の指摘の通り、十志郎の露骨な態度の変化が問題視されていた。
昨日からまるで人が変わったように女子との会話や接触をさけている十志郎。
以前なら気さくに、それこそ男女の別け隔てなく誰とでも仲良くしていたというのに、昨日からの十志郎は女子生徒と目も合わせようとしない。
会話などもってのほか。近づいただけで、すっころぶような勢いで逃げていくのだった。
普段の十志郎のひととなりを知っているだけに、この態度は『オカシイ』の一言であり、十志郎に憧れる全ての女子生徒にとっては一大事件なのだった。
名無し『別に俺は避けられてないわけだがm9(^Д^)プギャー』
名無し『男子うざい。引っ込めw』
名無し『いや、貴重な意見だよ。やっぱり女子だけあからさまに避けられてるっぽい?』
名無し『単にオメーらが嫌われてるだけだからwwwww』
名無し『やっぱ男子うざい。草生やしすぎw』
名無し『しょうがないね。続きは女子部で( `・∀・´)ノヨロシク』
名無し『了解〜』
名無し『ういうい』
名無し『らじゃー。男子くにへかえるんだな、おまえにもかぞくがいるだろう』
名無し『は? 女子部って何ですか? おい、無視すんなよコラwwwww』
以降、煽り続けていた男子生徒がしつこく書き込みを続けるが、まるで誰も見ていないかのように放置され続けた。やがて飽きたのかBBS内に書き込みはなくなる。
だがしかし――男子生徒の知らないところで議論は続いていた。
そこは、簡素な作りの校内サイトとはまるで違うハイセンスなデザインが施されたホームページだった。
サイト名は『豊葦原中学アングラ女子部』。
校内サイトのゴシック文字とは違い、サイト名はアレなのに踊るような細く流麗なフォントで描かれている。
そここそが豊葦原中学の女子生徒のみに閲覧が許された非公式サイト、通称『女子部』と呼ばれるホームページだった。
みゆゆ『やっぱここ落ち着くっスw』
カイト『禿同w』
Ren『さて、お互いコテハンになったところで忌憚のない意見を聞かせてください』
コテハンとは固定ハンドルネームの略である。ここではお互いがお互いを認識し合いながら意見を交わすのがルールだった。
LC『私は昨日の昼休み、〈T〉くんに声をかけたら、いきなりUターンして走り去られたわけだが』
みゆゆ『声が小さくて聞こえなかった可能性は?』
LC『騒がしい廊下だったけど、出会い頭だよ。あり得ない』
カイト『そういえば放課後、職員室で担任に相談してた。彼、〈Y〉くんの隣の席を要求してた』
みゆゆ『なぜそれを先に言わない』
カイト『スマソ。表では言いづらかたヨ』
Ren『正しい判断です。とにかく〈T〉くんと〈Y〉くん、それぞれに心境の変化があったことは間違いありません。みなさんもっと情報を出し合いましょう』
と、そのとき、チャットルームに新たなユーザーが入室してきた。
ベル『ハロー、さっきから見てたよ。みんなの疑問も今晩の更新を読んでもらえれば解決すると思われ』
お互いの表情や声など聞こえないはずのチャットルームがざわついた――ような気がした。
みゆ『ベルっちキターww』
カイト『待ってましたwww』
LC『神絵師降臨!w』
Ren『ここ最近毎日更新してない? さくら先生は大丈夫ですか?』
ベル『いまさくら先生は執筆に燃えています。みんなが言っていたとおり〈T〉くんが帰ってきたことによって様々な状況的変化が生まれているからです。正直寝ている暇がないくらいです。私も完徹ですw。絵のクオリティは落ちてるけど、後で必ず修正入れますのでご安心を』
そうしているうち、チャットルームには次々と女子生徒たちがログインしてくる。
ベルという人物の書き込みを切っ掛けに、数人しかいなかったルームにはおよそニ人を越えるユーザーが集まっていた。
どうやらこのサイトは創作小説とイラストの投稿がメインのホームページであるようだった。
今話題の少年向けアニメから大人気ゲームキャラクターの二次創作や、オリジナル小説、イラスト、漫画の投稿がメインコンテツであり、チャットルームでは学内の話題だけでなくそれら創作物の感想や意見を交換する場として、某掲示板ばりの盛り上がりを見せていた。
その中で特にレビュー数と高い評価を得ているのが『BELL=ベル』と呼ばれるイラストレーターであり、『さくら』と呼ばれる少女のオリジナル小説なのだった。
メンバー全員が豊葦原中学の女子生徒であり、当然そのふたりも生徒であることは間違いないのだが、それはあまり重要ではない。
大事なのはその小説の方だった。
『ウソ……、〈T〉、どうしてあなたがここに……!
『そんなに驚くことはないじゃないかY子。フィアンセの顔を見るためなら僕は地球の裏側からだってやってくるさ』
『そ、それは嬉しいけど、でもあなたはニューヨーク《・・・・・・》に経済留学していたはずじゃ――』
『ああ、それはんだけどね、やめたんだ』
『え――』
『親父に振り回されるのはもうウンザリだし、勉強なら日本でもできるからね。それに何より――』
『〈T〉――?』
『向こうには君がいない。いないんだ。ここ半年ずっと君に会えなくて辛かった。ああ、〈Y子〉、もっと顔をよく見せておくれ』
『わ、私も寂しかったわ……。会えてとても嬉しい……』
恋人、〈T〉からの抱擁を複雑な表情で受け入れるY子。
彼女の脳裏をよぎるのは、誰よりも逞しく男らしい〈T〉ではなく、怜悧な美貌の執事。
『今宵この晩このことは〈T〉様には内緒です。一時の気の迷いとお忘れください……お嬢様』
『ふふ、真っ赤になって可愛いねY子は。でもフィアンセとのハグくらい、そろそろ慣れてくれてもいいんじゃないかい?』
『え、ええ……そうね。努力するわ……』
フィクションを謳いながらもまるでどこかのクラスメイトを性転換させたようなヒロインと執事。
恋人役の〈T〉などは最近まで留学していたどこかの野球バカとそっくりである。
そう、この小説こそ、少女たちから絶大なる人気を誇る『豊葦原中学アングラ女子部』のオリジナル小説。タイトルは『Y子の華麗なる日常』。
若くして大財閥の当主になってしまった少女と、彼女を側で支え続ける寡黙なイケメン執事〈M〉との関係を描いた本格恋愛小説だった。
亡き両親の遺言で許嫁同士になった〈Y子〉と〈T〉。
お互いに戸惑いながらも男らしく有能な〈T〉との恋を育んでいく〈Y子〉。
だが彼女は幼い頃から自分に仕えてくれている執事〈M〉に密かな恋心を抱いていた。
自分はあくまで執事だからと〈Y子〉とは一定の距離をおきつつ、いつも絶妙な助け舟で支えてくれる執事〈M〉に惹かれていく〈Y子〉。
そしてついに――〈T〉が海外留学でいない間に、〈Y子〉と〈M〉は禁断の一線を越えてしまう――というお話。
正直中学生が読む小説としてはかなりドロドロとした内容であり、一部ではラブシーンまで描写されている。アングラサイトでなければ確実に『R指定』相当を食らってしまいそうな小説だった。
不定期更新で文章力は発展途上。
それは挿絵イラストも同様なのだが、このふたりが織りなす物語には勢いと情熱があった。
いまや『アングラ女子部』の公式会員数は二七〇名を越え、これは豊葦原中学女子生徒の九割にも及ぶのだった。
そして深夜零時ちょうど――少女たちの宴が始まる。
今回の物語は〈Y子〉の家を取り込もうと画策するライバル企業の御曹司〈E〉が〈Y子〉を籠絡するために誘拐してしまう――という、つい最近のイベントをモデルにしたお話だった。
〈Y子〉を取り戻すため〈E〉の牙城へと乗り込む執事〈M〉と婚約者の〈T〉。
だがしかし、〈E〉の卑劣な罠にハマってしまった〈T〉はそこでなんと――『婚約者の〈Y子〉を裏切る行為』をしてしまうのだった。
執事の〈M〉は重症を負いながらも〈Y子〉を救い出すが、執事としての立場から自分の気持ちを押し殺し、遅れて駆けつけた〈T〉へとY子を託してしまうのだった。
〈T〉は〈Y子〉を裏切ってしまった後ろめたさから〈Y子〉以外の女性を決して愛すまいと誓い、だが〈Y子〉自身の気持ちは確実に執事〈M〉へと移ろい始めていた。
そしてラストシーン、〈Y子〉を裏切ってしまった〈T〉の弱みを知る人物――御曹司〈E〉が二人の仲を引き裂くため転校してくる――というところで物語は次回へと続くのだった。
チャットルームは蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
『裏切る行為ってなんぞ――!?』と、いまだ青い少女たちは精一杯、己の想像力を駆使して、それらのシーンを補完していく。
『だから椿――〈T〉くんは私たちを避けるようになったんだ――』
『じゃあもう悠――〈Y子〉の心はメイドの真咲――じゃない、執事〈M〉さんのものなの――!?』
『そういえば昨日うちのクラスに本当に大鳥エリカ――じゃなくて、〈E〉のゴミ野郎が転校してきて――』
もはやどこまでが創作でどこからが現実なのか――少女たちには判断できなくなっていた。
何故なら小説の中から飛び出してきた存在が自分たちのすぐ身近なところにいるからだ。
悠たち『実在の人物をモデルにしている』という公然の事実が物語に不必要なリアリティを生み出し、幼い少女たちは毎朝顔を会わせる当人たちを見るにつけ、あらぬ妄想に身悶えている――という有り様に陥っていた。
中には小説はまごう事なき事実なのだと主張する者までいた。
執筆者であるベルとさくらは『あくまでフィクション』だと言い続けているが、豊葦原中学に通っていれば、あまりに小説とリンクする出来事が多すぎるのも事実なのだった。
そして今夜も少女たちの議論は夜がふけてもまるで終わる気配を見せず、さらに加熱していくのだった。
「お疲れさまー、さくら先生ー」
「先生はやめてよ、――よ?」
パソコンのディスプレイを前に――自分たちの創作の反響具合を肴に、カチンとグラスを合わせる少女たち。
悠のクラスメイトである八重山鈴こと『BELL=ベル』と高桜もえこと『さくら』だった。
「今回の反響はいつもより三倍増しってかんじー。レビュー数もうなぎのぼり。評価ポイントもそろそろ1万を超えそうだよー」
「うーん。イマイチその評価ポイントっていうのがピンと来ないけど、それってすごいことなんだよね――よね?」
「イグザクトリーもえー! それだけもえの書くお話が好きだってひとが増えてきたってことなのさー!」
「ちちち違うよ、私なんてまだまだだもん。鈴ちゃんが支えてくれてるからなんとかやれてるんだよ、――だよ?」
「まったくもえはー、いい加減その遠慮がちな性格治さないとプロデビューできないぞー。プロになったら実力主義のセカイ。遠慮も容赦もライバルには必要ないんだからなー」
「ぷぷぷぷプロだなんてそんなの無理ムリ! 私はただ鈴ちゃんが教えてくれる情報を小説に書き直してるだけだもの、――の?」
そう、ふたりの小説『〈Y子〉の華麗なる日常』は実際のところ、ほとんどがノンフィクション小説なのだった。
鈴は陰に日向に悠と――悠を取り巻く人物たちを観察し続け、そしてときには秘密裏の取材を敢行し、人には決して言えない情報源からネタを仕入れるようなことまでしていた。
もちろん悠や莉於の性別が違うのは物語上のフィクションだし、ふたりが実は恋愛関係で肉体関係まであるなどとはウソもいいところなのだが……。
「それにしても、今回の取材は大変だったんだじゃないの、なんてったって富士宮くんが連れ去られたのって、あの豊葦原女学院だったんだよね。警備も厳しくて、部外者は絶対に入れないって噂だよ、――だよ?」
「たしかにねー、さすがのあたしでも、攻城戦の装備は持ってないなあー」
「文字通りお城を攻めるんじゃないよね、進入するってことだよね、よね?」
目を離すととんでもない無茶をやらかす相方に、もえはいつもハラハラしっぱなしなのだった。
「実はさー、いつか言おう言おうとは思っていたんだけど、富士宮くん関連の情報には協力者がいるんだよねー」
「協力者? その人が豊葦原女学院での情報をくれたのかな、――かな?」
悠が攫われてからのおおまかな経緯。莉於とエリカのやりとり。なぜか現場に居合わせた十志郎。そしてその結末。
現場には女学院性という多くの目撃者がいたが、悠の誘拐に伴う事件は秘匿すべきスキャンダルとして、エリカなどではないもっと上位からの緘口令が敷かれている。
そも、許可がない限り外部と連絡が取れない女学院性たちとコンタクトを取るのは不可能に近い。
だが、どんな場合にも例外はあった――
「ほら、いつも丁寧な感想メールをくれるあのひとだよー」
「ああ、『リリィ』さんだね、――だね?」
富士宮悠の誘拐。格好の小説ネタなのに、事の顛末を詳しく知ることができないもどかしさ。
だがそれも謎の情報提供者『リリィ』によって解消された。
その情報を元に多大なるアレンジを加えた最新話は、謙遜するのもバカバカしいほどのヒット数を飛ばしている。
まさにリリィさまさまなのだった。
「それにしても何者なんだろうねー、リリィさんってばさー」
「きっと豊葦原女学院の生徒さんだよね、――よね?」
「うちらの小説が口コミで噂になってるのは知ってたけど、そうとしか考えられないよねー。今回のネタなんて、まるで見てきたみたいな迫力だったもんねー」
「あたしたちの小説、もしかして富士宮くんたちの現実に負けてる、――てる?」
「それは言わない約束でしょー」
少女たちは疑わない。
手を差し伸べてくれる者の心に――悪意が含まれていることなど。
自分たちの小説の読者と同じく――疑うことをしない。
「それにしても、これどうしよっかー」
「情報提供のメールに添付されてた写真だね、――だね?」
二人の前にはA4フルカラーで印刷された一枚の写真があった。
「どうしてこういう状況になってるのか知らないけど――富士宮くん可愛い過ぎでしょー!」
「一瞬、小説の中から〈Y子〉が飛び出してきたかと思ったよ、――たよ?」
そこに写されていたのは、紛れも無く豊葦原女学院の制服を着た悠の姿だった。
「この画像見た瞬間、ビビビってきちゃったんだよー。正直今まで自分の想像の存在でしかなかった〈Y子〉が生きてるって思っちゃったもんなー」
「鈴ちゃんのイラスト、断然クオリティ上がったもんねえ。私も今まで以上に〈Y子〉の気持ちになってセリフ回しを書けたと思うよ、――よ?」
本来なら豊葦原女学院中等部に籍を置く少女たちにしか撮ることのできない、個々人の携帯データでさえ徹底して破棄させられたはずのお宝写真。
至近距離で撮ったと思われる悠の女子制服姿だけは、鈴ともえたちの判断によってサイトなどには一切アップロードされていない。
その代わり、その写真から得られるイメージを膨らませた『Y子』のイラストは、かつてないほどの好評を得ていた。
「惜しいけどこれは封印だねー。フィクションを謳ってる以上、現実の富士宮くんに迷惑はかけられないしなー」
「このサイトのことも、真咲さんたちには絶対内緒だもん。私達だけの秘密にしておかないと、ダメだよ、――だよ?」
情報提供者の詮索はしない。
与えられたソースは厳重に保管する。
今どきの中学生にしては高いリテラシーとモラルを持った少女たちは、今後の物語の方向性を確認し合いながらやがて眠りについていく。
とっととテーブルに突っ伏し始めた鈴の身体を、鈴と同じくらい小柄なもえが布団まで引きずっていく。
「鈴ちゃん、ちゃんとお布団かけて寝ないと風引いちゃいますよ、――よ?」
「もえー、あたしのもえはどこー……クカ-!」
「はいはい、ここにいますよ、――よ?」
そのままきゅっと手を握ったまま寝息を立て始めた鈴に苦笑し、もえもまたコテンと隣に横になった
「おやすみー、鈴ちゃ……――」
夜の静寂に、ふたりの穏やかな寝息が溶けていく。
幸せで暖かな闇夜がふたりを優しく包み込んだ。
少女たちは無垢であるが故に知らない。
悠が抱えている深刻な問題を。
十志郎が帰国した本当の理由を。
リリィなる人物の――本当の胸の内を。
そして、虚構のはずの物語が、現実を浸食し始めることを――いまはまだ誰も知らないのだった。




