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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十二章
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七十八駅目 シャルロシティの土地柄

 エルフ商会の受付嬢を捕まえて、会議室の空き状況を確認したシルクは誠斗とノノンを会議室へと案内する。

 商談室と違ってたくさんの椅子と長机が並ぶその部屋は装飾もなく非常にシンプルな作りになっている。


 外部からの話し合いもなく、身内での話し合いのみで使うのならそれでいいだろう。


 そんな会議室の端にある机二つといす三つを使い、誠斗とノノンからシルクに対する状況の説明が行われていた。

 シルクは時々相づちを打ちながらその話を真剣に聞き入っている。


「……というわけなんだけど、どうかな?」


 一通りの説明を終えると、シルクはゆっくりと髪をかきあげながらため息をつく。


「どうって言われてもな……そもそも、私たちの専門から抜け出しているから何とも……あぁそうだ」


 シルクが何かを思い出したように立ち上がり、誠斗のそばへと寄ってくる。

 彼女はしばらく部屋の中を見回したのち、小声で誠斗に耳打ちする。


「……ここだけの話。シャルロシティ周辺でそういうことをするのはやめた方がいいかもしれないな」

「やめた方がいいってどういうこと?」

「確かにこのあたりは人の注目を集めやすい。だが、その一方で何かがあればそれはあっという間に広がって、そのものが危ないモノだという考えが一気に定着する。ほかの場所ならともかく、シャルロ領……特にシャルロシティ周辺は特にその傾向が強い。いまだにこの地域でドラゴンが受け入れられていないのがその典型例だ」

「ドラゴンが?」


 そういえば、ドラゴンが交通機関だという割にはあまりその姿を見ないような気がする。

 それに以前、誰かがドラゴン関連の薬が手に入りにくいとも言っていたような記憶もあるのでシルクの言っていることはあながち間違いではないのだろう。


「ねぇどうしてドラゴンが受け入れられなくなったの?」


 だからこそ、誠斗はそのあたりの事実関係をしっかりと把握しておくべきだと思った。

 何かのミスで蒸気機関車がもっと言えば、鉄道という技術そのものが拒絶されるようなことがあれば、元も子もない。

 シルクは誠斗の質問に再びため息をつく。


「あまり語りたくないんだけどねぇ……特にマーガレットの奴はあの事件の話を嫌っているからな。いや、彼女だけじゃなくても、あいつ……えっと、水色の少女もまたそうなんだよ。それでもあいつは上司につき合わされてドラゴンに乗っているみたいだけどな」

「そうなんだって、あれ? でも、そうなると水色の少女って……」

「……っというわけで、ドラゴンが嫌われている理由だが」


 なんだか少し引っかかる部分があるが、それを追求するより前にシルクが続きを話し始める。


「ドラゴンがシャルロ領に交通手段として来たその日。突然、暴れだして人を襲ったんだよ。まぁあまりにもいきなりのことで現場は大混乱。そのときにドラゴンの近くにいた奴が……当時の領主マミ・シャルロッテが犠牲になった。彼女はちょうどドラゴンの頭の横ぐらいにいたからな。頭からがぶりとやられたわけだ。もっとも、ドラゴンが暴れだしたのもかなり突然だったし、何か裏があるといわれても不思議じゃないかもしれないけどな」

「何か裏があるって……例えばどういう?」


 誠斗の質問にシルクは手をあごに当てて考えるようなそぶりを見せる。

 しばらく、そうしていた内に彼女はポンと手をたたいた。


「そうだ。詳しくは知らないが彼女は裏で何かしらの計画を進めようとしていたっていうのは聞いたことがある。もっとも、本人は自分の一生をかけても完遂できないと考えていたみたいでいろいろと布石を用意していたらしいけどな。まぁそれがちゃんと動いているのかどうか疑問が残るが……」


 そういいながらシルクはなぜか視線をマーガレットと水色の少女がいる部屋へと送る。


「シルク? 何かあるの?」

「……いや、なんでもない。ちょっと、気になることを思い出したんだが……」

「気になることって?」

「いや、大丈夫だ。問題ない」


 怪訝そうな表情を浮かべて部屋の方を見ていたシルクであったが、彼女は誠斗の方へと向き直り椅子に戻る。


「とにかく、この辺りは利便性も高いし、住民の受けも比較的いいが、ひとたび問題が起これば住民に一斉に拒絶される可能性すらあるわけだ。良くも悪くもこの町の住民は固定観念の塊だ。逆にいえば、安全だ。いいものだというイメージの刷り込みさえできればあとは言わずもがなだ」

「安全だっていうイメージね……」


 鉄道は決められた線路しか進めないので線路上に障害物があった場合、手前で停止できない限りぶつかってしまう。

 誠斗が住んでいたような田舎を走っている鉄道ですら、動物との衝突等で運転を見合わせることがある。


 それ以外にも人身事故やら天候不良だったりで電車が止まる頻度というのは割と高い。


 天候不良等の理由の時は安全確保のため仕方ないだろうが、線路上の障害物の衝突やら人間、動物との接触事故は極力避けなければならない。

 そう考えると、実験線を作ると同時に相応の安全対策を考える必要があるだろう。


「まぁあまり深く考えなくてもいい。ドラゴンの暴走ならともかく、安全を期して運行していたが、避けきれずに衝突とかだったらそこまで悪い噂は立たないだろうさ。もっとも、それ以外の原因で事故が起こったら本気で厄介なことになるから気を付けた方がいい。念押ししておくが、特に最初は安全には徹底的に気を付けた方がいい。じゃないとドラゴンの二の舞になるぞ」


 シルクは真っすぐと誠斗の体を視線でうちぬく。

 その眼光はとても鋭いものがあり、直接向けらているわけではないノノンも少し委縮してしまっている。


 それを見て、自分の視線が鋭くなっているのに気が付いたのか、シルクはふっと眼光を弱めた。


「まぁ話はここまでだ。地形の話はできないが、この辺りの土地柄のメリット、デメリットをちゃんと考慮したうえで考えるべきだろう。私としてはお勧めしないがな……とここまで来たから、そろそろか」

「そろそろって……何が?」


 誠斗が聞いた瞬間、廊下の方からドタドタという大きな足音が聞こえてきて、会議室の扉が思い切り開かれた。


「ヤマムラマコトー! よーくも私とあいつを二人きりで置き去りにして逃げてくれたわね!」


 扉を思い切り蹴って開けたと思われる彼女は普段では考えられないほどに怒りの感情をあらわにして誠斗に詰め寄る。

 あまりの事態に誠斗は後ろへと引き下がろうとするが、残念ながら壁際の席に座っているためそれはかなわなかった。


「あっあのーマーガレット?」

「あぁもう! あいつ久しぶりに会ったと思ったら、あれやこれや言ってくるし、気が付いたらマコトもシルクもノノンもいなくなって、私とあいつの二人きりになっているし、どうしてくれるのよ!」

「えっいや、その……」


 どうやら、マーガレットは水色の少女と一緒にいる状況は相当嫌だったらしい。


 どうやってなだめたものかと考えながら誠斗はノノンとシルクに視線を向けるが、彼女たちは二人で仲良く雑談を始めていた。

 いくら視線を送っても彼女たちがこちらをちらちらとは見つつも振り向く気配がないのは気のせいだろうか?


「マコト! 聞いているの!」

「はい! 聞いています!」


 これは解放されるまでしばらくかかりそうだ。

 ため息の一つでもつきたくなったが、それをすると余計に拘束時間が長くなりそうなのでぐっと抑えておく。


 結局、誠斗はシルクたちと話をしていた時間以上にマーガレットの話を聞かされ続けた。

 その話が終わったとき、いつの間にかシルクとノノンが姿を消していたことは言うまでもない。

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