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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十二章
98/324

七十七駅目 水色の少女(後編)

 エルフ商会本部の商談室。

 そこは今、なんとも気まずい雰囲気に包まれていた。


 この場にいるのはニコニコと笑顔が絶えない水色の少女と、その彼女に明らかに敵意を向けているマーガレット。誠斗は突然、割り込んできた彼女にたいして警戒しているし、ノノンは状況が飲み込めずにきょとんとしている。シルクの方へ意識を向けて見れば、彼女の発言が相当不快だったのか、少しばかり不機嫌そうだ。


「して、ヤマムラマコト君。あなたの答えを早く聞かせてもらいたいのですが、そのあたりはいかがでしょうか?」


 そんな状況などお構いなしだといわんばかりに水色の少女が目の前に迫る。


「いや……その……」


 どうしたらよいのだろうか? 目の前の少女は信頼しても良いのだろうか?


 そんなことを考えてながら彼女の姿を見ていると、彼女の胸元にきらりと光るモノが見えた。

 それに視線を向けて観察すると、それが銀の片翼の翼が描かれたペンダントだった。


 色こそ違うが片翼の翼から想像されるものといえば一つだけだ。


 “十六翼議会”


 おそらく、そういうことなのだろう。金の片翼の翼でないので偶然という可能性もあるが、それでもその可能性を疑いざるを得なかった。


 水色の少女は誠斗の視線に気づいたのか、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


「あなた……気がついちゃった?」


 彼女は誠斗の方に顔を寄せて、ぼそりと誠斗にしか聞こえないであろう声量で……しかし、はっきりとそう告げた。

 静かな口調でありながら、それ以上追及するなという脅しにも近い何かを感じ取り、誠斗は背中から誰かが氷水をかけたのではないかと思うほど背筋が冷たくなる。


 これはかなりまずい。


 誠斗の頭の中で警戒信号が灯される。


 そもそも、誠斗の記憶が正しければ、十六翼議会というのは本来ならその存在を知っているというだけの理由で消されなけないような組織だ。

 なぜか、サフランは自ら名乗ったが、そのほかの面々がそうだとは到底考えづらい。


「おいマコト。黙っていないで結論を出したらどうなんだ? 私たちの話を聞くのか、そいつの話を聞くのか。私としてはそいつは昔からいけ好かないからあまりそちらにうなづいてほしくないがな」


 いつまでも黙っている誠斗を見て、決断しかねていると判断したらしいシルクから声がかかる。


「おやおや、まだ迷っていますか。でも、私の話しの方が有用な可能性があるということぐらいお気づきですよね? それとも、あなたはあのエルフに頼むのですか?」

「……あんた。エルフに頼んで帰る途中なのでしょう? 少しはそれらしい態度をとったらどうなの?」

「それらしい態度とはどういうことでしょうか?」


 水色の少女の態度を見かねたのか、マーガレットが声をかける。

 しかし、水色の少女は全く悪びれる様子もなく、むしろそのことを楽しんでいるかのように笑顔で返事をする。


 しかし、彼女のその笑顔の背後からは殺気にも近い有無も言わせないような威圧的な雰囲気が放たれていて、とてもじゃないが、二人の間に入ろうなどとは思えない。


「最低限相手を敬う必要があると思うのだけど……まったく、あんたはほんと昔からそうよね。権力というのは人をおかしくさせるのかしら?」

「おやおや、散々逃げ回った挙句に森の中にひっそりと隠れ住んでいるような臆病者に言われたくありませんね。それに権力に逆らうという言葉の意味、改めて教えげ上げますよ。そんな展開はいかがでしょうか?」


 彼女は不敵な笑みを浮かべて、胸元にある銀翼の翼が描かれているペンダントをちらつかせる。

 その行動を見る限り、彼女は本当に十六翼議会に何かしらの形でかかわっているということなのだろう。


「……私は出会ったことがある十六翼議会の関係者はマミぐらいだと思っていたけれど、こうしていると存外そうじゃないのかもしれないわね」

「えぇその通りです。この部屋にはその存在を知る者しかいないようですから話しますけれど、いくら上位議会が権力を持っていても、それを支える基盤というのが必要です。いわゆる実行部隊というものですね。私たち銀翼を持つことを許されている人間というのはその実行部隊の指揮権を持っている人間です」

「翼下準備委員会のことか。久しぶりに会ってもまだその権力にしがみついているんだな」


 彼女の説明にこれまで沈黙を保っていたシルクがようやく口を開く。

 それに反応するように水色の少女はシルクの方に向き直る。


「そうだけど何か問題でも? 私たちの最上位に存在する存在もまさにそうだと思うのですけれど、いかがでしょうか?」

「さぁね。私もマコトもたぶん、シルクあたりもあんたたちの最上位の存在なんて知るわけないからわからないけれど、世界を裏から操って結局、何をしたいのかわからないのだから相当胡散臭い連中なんでしょうね」

「おやおや、聞き捨てなりませんね」


 気が付けばというよりも随分と前からかもしれないが、マーガレットと水色の少女はお互いに一触即発の雰囲気だ。


「ねぇねぇマコト。マコトってば」


 そんな中、ノノンが誠斗の服の袖を二度ほど引っ張った。

 誠斗が彼女の方を向くと、不満げな表情を浮かべたノノンと同様に不満そうな表情を隠そうとすらしていないシルクが視界に写る。


「このままじゃずっと、話できなさそうだし場所を移そう」


 ノノンの背後でシルクがうなづく。


「そうだね。それじゃ行こうか」


 誠斗たちはマーガレットと水色の少女に気付かれないように気を付けながら、扉に向けて移動する。


 案の定、二人は言い争いに夢中になっていて気付く気配は全くない。


 そのまま静かに扉を開けて、あっさりと廊下に出ることに成功した。


「はぁまったく、とんでもないことになったな……私、この後あの娘と途中まで一緒なんだよな。まぁ担当することになったエルフはもっと悲惨かもしれないけど……」

「まぁそうだろうね」


 見る限り、彼女の態度は亜人を見下しているように見える。

 そのあたりがなんだか気に入らない。


「にしても、マコトたちは結局何をしにここまで来たんだ? あいつはわかっていたみたいだが、私はそこら辺を聞けていない気がするんだけど」

「あぁそうだったね。本題に入る前に入ってきたからそうかもしれない。まぁ空き部屋に入ったらそこで話すよ」

「そうかい。まぁそれならそれでいい。その方が私たちらしいだろうしな」


 シルクはすっかりと機嫌を直したようで不敵な笑みを浮かべながら廊下を進む。


「確かこの時間だと会議室が開いていたはずだ。まぁマーガレットはあいつとの話の決着さえつけば勝手に合流してくるだろうし、いくらあいつが相手だからって、放っておいても万が一なんてことはないだろう」

「まぁそうだろうね」

「それは私も同意。マーガレットの魔法ってすごいもの」


 不老不死で魔法のスペシャリスト、冷静な判断力等々彼女が負ける様というのは簡単に想像できない。


 だから、彼女と二人きりにしたところで問題ないだろうし、そもそもここはエルフ商会の建物の中で水色の少女はエルフ商会の行商とともにここを発つ予定なのだ。

 水色の少女は結果的にエルフ商会にいる必要があるし、マーガレットもまた勝手に姿を消す理由はないので最悪、勝手に宿に戻っている程度のことしか起きないだろう。


 現状を楽観視しているとは思うが、それはマーガレットなら大丈夫だという安心感とそれなりの根拠から来ているものだから問題はないはずだ。


 誠斗は心の中ではっきりとそう結論付けてシルクの背中を追いかけていく。


「ねぇねぇ! この話が早く終わったら二人でシャルロシティの町を観光してみない?」

「ダメ。あくまでマーガレットも加えた三人で行かないと。それにどうせ街を見るなら観光とかじゃなくてもっと、別の視点でもう一度この町を見てみたいと思ってる。そのためにはボクたちより確実にこの町のことを知っているマーガレットの存在が必要不可欠だ」


 誠斗の反論にノノンは頬を膨らませて不機嫌そうな表情を隠そうとしない。


 誠斗はそんな彼女の頭をポンポンと軽く抑える。


「はいはい。また、今度ノノンが森の外に出るような機会があればそうしようか。残念ながらボクはシャルロシティまでたどり着ける自信がないからマーガレットと一緒になるかもしれないけれど」

「……どうせなら、マーガレットと一緒じゃないとダメっていう状況を抜け出す意味でも一緒に地図を見ながらいかない? どうせ、将来的には自分一人であっちこっち行く必要も出てくるかもしれないし」


 ノノンは上目使いで誠斗の姿を見ながら訴える。

 おそらく、彼女としては理由の内容はともかく、本当の意味で観光をしてみたいのだろう。

 いずれにしても、この世界に来てからある程度時間も経過したが、誠斗が一人で出歩けるのはシャルロの森の近くにある町ぐらいまでだ。それを解消する意味でもマーガレットと別行動でどこかに行くというのもありかもしれない。


「まぁそうだね。いろいろと落ち着いたら考えてみようか」


 誠斗はノノンの頭を軽く撫でながらそう語りかけた。

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