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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十二章
96/324

七十五駅目 シャルロシティの路地裏

 シャルロシティの中心にある中央広場から少し外れた場所にある路地。

 中央広場や大通りの活気に比べると、それらは一気に失われてとても静かな空間が広がる。


 時々、表通りからの活気ある声が聞こえてくるが、基本的には馬車が進むと音とマーガレットたち三人の話声以外はあまり音は存在していない状態だ。


 あまり整備されていない道はところどころ石が飛び出ていて、そこを通るたびにがたんと馬車が揺れる。


 この道は少なくとも馬車は通れるぐらいの広さはあるのだが、それでも表の通りに比べるとかなりの格差があるように感じてしまう。

 もっとも、この町のすべてがあの表通りのように活気づいているなどそうそうありえないのである意味では当たり前のことなのかもしれない。


 日本の東京だって、東京都内がすべてビル街というわけではないのと同じだ。


 この町も全体が同じように活気づいているわけではない。


「もうすぐ馬車を降りるわ。準備をしてちょうだい」

「わかった」


 マーガレットに声をかけられて誠斗とノノンは降りる準備を始める。

 一応、エルフ商会のすぐ目の前まで馬車で行けるのだが、そのあたりの道は狭く入り組んでいるため、徒歩で行く方が確実だ。

 だから、この路地裏にある宿に馬車を預けて、あとは徒歩での移動となるわけだ。


「マーガレット。何か特別に持っていくものとかある?」

「特には必要ないでしょうね。メモやなんかは全部私が持っているわけだし」

「まぁそうだよね」

「えぇ。それにあいつらを相手にするなら下手にいろいろ持っていかない方がいいと思うわよ」


 過去に何かあったのか、平然とした顔でマーガレットが注意する。

 いや、なにかあったと見て間違いないだろう。


 マーガレットの性格からして、何もないのにわざわざ注意するとは考えづらい。


 誠斗はその忠告をしっかりと聞いて、余分と思われる荷物はすべて馬車の中に置いておくことにした。


「それで? 馬車を預けたらすぐにエルフ商会に向かうの?」

「そうね。カシミアがいないならいないで適当にほかのエルフを捕まえればいいわけだし」

「捕まえるって……まぁ表現的に間違っていないのかもしれないけれど……」


 この辺りで行商をやっているエルフならこの辺りの事情にも詳しいだろう。


 ただ、先ほどからマーガレットが時々ぶつぶつと何かを言っているのが気になるが……


 残念ながらそれをしっかりと聞き取ることはできなかったのだが、少なくとも普通の状態でないことはなんとなくわかる。

 前にエルフ商会に行ったときはなんともなかったあたり、何か別の要因があるのかもしれない。


「ねぇマーガレット?」

「……なに?」


 誠斗が話しかけると、彼女は手綱を握ったまま口を開く。

 彼女の声色はいつも通り平坦なものだが、なんとなく若干の焦りというか動揺の色を持っているような気がするのは気のせいであろうか?


「どうかしたの?」


 誠斗が尋ねると、マーガレットは小さく息を吐いてから答える。


「そうね。さっき、頼りになるかもしれないけれど、会いたくない人がいるって言ったわよね?」

「うん。そうだね」

「その人……あいつは普段はシャラ領の中心街シャラブールを拠点に世界中を飛び回っていて基本的に所在不明なんだけど、この町に入ってからあいつの気配をちょこちょこ感じるのよ。気のせいであってほしいのだけどね。まぁどうしようもない時はこちらから会いに行くしかないのかもしれないけれどね……」


 彼女はそういってもう一度ため息をつく。

 それほどまでに会いたくない相手というのが少し気になってしまうが、これに関しては首を突っ込まない方が安全なのかもしれない。


「さてと……宿に到着したし、さっさと馬車を預けてエルフ商会へと向かいましょう」

「わかったよ」

「えーもっとゆっくりがいい!」


 マーガレットの言葉に素直に応じる誠斗にたいして、ノノンは口をへの字に曲げて反論する。いや、反論というよりはわがままという表現の方が適切かもしれない。

 しかし、マーガレットはそんなノノンの様子など気にすることなく、馬車を裏路地にある宿屋の前に止めるとさっさと手続きをするために降りてしまった。


「まったくもう……マーガレットったら焦りすぎじゃないの?」


 確かにいつもよりも少し焦っているような気がするが焦りすぎということはないだろう。

 そんなことを考えて誠斗は苦笑いを浮かべえる。


 彼女が手続きをしている間どうしようかとノノンから視線を外すと、道端に先ほど慰霊碑の前で手を合わせていた水色の髪の少女がこちらをじっと見つめながら立っていた。


「……あの子って確か……」


 誠斗同様に彼女の存在に気付いたらしいノノンが誠斗に耳打ちする。


「ノノンも気付いた?」

「えぇ。あの子って、あの慰霊碑の前にいた子よね……なんで覚えているのか自分でもわからないけれど」

「それはボクも思ったけど、それよりも……」


 誠斗は再び少女に視線を向ける。

 彼女は相変わらずこちらをじっと見つめている。


「えっと、あのさ……」


 誠斗が声をかけると、少女は逃げるようにして路地裏へと姿を消した。

 ノノンと二人して、呆然と彼女が去っていた方向を見ていると、宿屋から手続きを終えたらしいマーガレットが戻ってくる。


「二人してどうしたの? さっさと行くわよ」

「えっあぁうん。わかった」


 呆然としている二人に対して、マーガレットはどこかあきれているような態度で接する。

 もっとも、彼女からすればただでさえ急いでいるのに二人してボーとしていたのだから当然かもしれない。


「あぁごめん。ちょっと、考え事してて……」

「本当にそれ多いわね。考えることも大切だけど、ちゃんと体を動かして目標へ向かって進むことも大切なのよ? ただでさえ、人間は短い時の間しかいきれないのだから」

「そうだね」


 この言葉は彼女のあまりにも長い人生からきた言葉なのだろう。

 彼女のそんな言葉を聞きながらも誠斗は再び少女が消えた路地裏に視線をぶつける。


 誠斗の記憶が確かなら少女はエルフ商会とは真逆の方へと消えていったはずだ。

 なら、この先で再び会うということはないだろう。


 おそらく、いやきっとそうだ……


 なんだか得体のしれない気配も感じながらも誠斗は踵を返して路地裏を歩き始める。


 ここからエルフ商会の建物までは大体、歩いて十分程度だ。


 目的地が目の前ということもあり、ノノンも誠斗も先ほどの少女についてはとりあえず考えないことにした。

 つくづくな不思議な少女だった。彼女は何者だったのだろうか?


「マコト。また考え事?」


 先ほどの少女のことを思い返していた誠斗にマーガレットが声をかける。


「うん。まぁそんなこところ」

「そう……それよりも、一応伝えておくけれど、これから会うエルフはあくまで行商であって、土木の専門職じゃないから、ドワーフのレベルは期待しない方がいいわよ」

「わかってるよ。それにシャルロシティの周りは開けているし、土地の確保さえできればある程度は何とかなるんじゃないの? それにここら辺だったら、開業時に営業する線路の一部にできるかもしれないし」

「それもそうね。そういう意味ではシャルロの東端を除けばシャルロシティ付近もシャルロの森付近も同様に強力な候補なのかもしれないわね」


 マーガレットは納得したような様子でつぶやく。

 確か、前にもどうせ実験線を作るのなら営業用の線路の一部にできればいいという話をしたような気がしないでもないのだが、それはいったん置いておいた方がいいかもしれない。

 それよりも、今は目の前のエルフ商会の方が大切だ。


 カシミアと会う以上、油断するわけにはいかない。


「エルフ商会ってどんなところかな。すごく楽しみ」


 ただ一人、物事をかなり楽観的にとらえてるノノンを除いたマーガレットと誠斗の二人は改めて気を引き締めながらエルフ商会の建物が建つ路地裏へと入っていった。

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