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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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幕間 慣れない家捜し(後日談)

 シャルロの森の中に建つツリーハウス。

 自分たちが侵入したありとあらゆる証拠を隠滅したカノンはマーガレットが家に張った結界の修復とカノン自身がかけた結界の解除を試みていた。


 もともとこの家にかけてあった魔法はすぐに修復できたもののカノンが重ね掛けした魔法の解除の方に手間取っていた。

 普通に結界の解除をするだけなら簡単なのだが、そうするとどうしても魔力がその場に残ってしまう。なので魔力が残らないギリギリのところを見極めながらカノンは慎重に魔力を注いでいく。


「ふぅやっと終わった。うん。終わっちゃった。で、なにか用事? そう。用事なの?」


 カノンが声をかけると、ツリーハウス近くの茂みからサフラン・シャルロッテが姿を現す。


「…………やはり、ごまかしは効きませんね」

「それはもちろん。うん。当然。それで? 私に何か用? ううん。それともマーガレットかマコトに用事なの?」

「………………今日はあなたに用事があってきました。少々お時間はいただけますか?」


 茂みから出て、カノンの前へと歩み出たサフランが問いかける。

 サフランは少しの間をおいてから小さくうなづいた。


「うん。いいよ。別に大丈夫。そう。問題ない。せっかくだから、この近くで話す? うん。話しちゃう?」

「………………そうですね。場所を移しましょうか。そのあたりはあなたに任せます」

「うん。わかった。そう。大丈夫。それじゃ、早速行こうか。うん。行っちゃおうか」


 カノンは喜々としてサフランを誘導しながら歩き始める。

 どうやら、彼女には既に考えがあるらしい。


 おそらく、ツリーハウスの魔法の修復を試みる前であったらどうせならマーガレットの家の中でいいという考えに至ったのだろうが、残念ながらサフランの存在に気付いたのは結界の修復中だったためそれはあきらめることにした。

 いや、別に話しかけてもよかったのだが、それをしていて魔法を失敗したら損失が大きいからだ。それにサフランに関してはある程度放っておいても何かをすることはないというある種の信頼もあっての判断だ。


「それにしてもあなたが来るなんて珍しいね。うん。珍しい」

「………………えぇ。あまりあなたのところに用事はありませんので」

「つれないね。そう。つまらない。まぁ私としてもあまりしょっちゅう来られたら困るんだけどね。そう。困っちゃう」


 サフランの訪問目的がいまいち理解できない。

 現状、森にはマーガレットもマコトも不在だ。それはサフランだって把握しているはずである。


 彼女たちの行動を監視するためにちゃんと監視役もつけているし、サフランもまたそうしているからだ。


 もともと、ツバサ以外にもカレンと翼下準備委員会の委員長も出てくる予定だったあたり、マコトとマーガレットがしばらく帰宅しないという確かな確証がなければ動けない。

 その状況でサフランがシャルロの森を訪れるということは何か問題が起きたとみて間違いない。それも、わざわざこんなところまできて処理しなければならないような案件だ。


 今から八百年前に亜人追放令が発令された後もシャルロッテ家をはじめとして十六翼議会とかかわりの深い旧妖精国の領土を治める領主一族と各亜人との間には密約のようなものが存在していて、古くから両者は互いに問題があれば手を取り合って解決してきた歴史がある。あくまでも妖精のような排他的種族を除けばであるが……


 彼女もそのあたりをわきまえているし、妖精でなければ何ともならない事案など限られているので領主代理、それも十六翼議会の中でも上位の存在である十六翼評議会の議長代理を務めているサフラン・シャルロッテがわざわざ一人でこの森を訪れたのだ。しかも、つい先ほどまで十六翼評議会の直下に存在する下部組織の翼下準備委員会のツバサが来訪していたにもかかわらずだ。


「……あくまで訪問目的を話すつもりはないみたいだね。そう。全然なさそう」

「………………目的地に着けば話します。ただそれです」

「そう。少しお話ししない? うん。話そうよ」

「………………お断りします」


 淡々と答えを返すサフランを見て、カノンは急激に彼女に対する興味を失う。

 本当に堂々と話すわけにはいかないような内容なのかもしれないが、どうせなら少しぐらいヒントを与えてくれてもいいと思う。

 彼女が話す内容がある程度把握できればこれから話をするにあたって有利にことを進めることができる可能性が高まるし、お互いの立場を考えればそうでなければならないからだ。


 それに彼女が話す会話から用事の内容を推測することほど楽しいことはない。なのに彼女は会話を拒否したのだ。

 カノンからすれば、これほどまでにつまらないことはない。


「まったく、勘弁してよね。うん。本当に勘弁して」


 カノンの口から放たれたそんな言葉は森のざわつきの中でかき消される。


 そんな彼女の頭上を一体のドラゴンが通過していった。




 *




 シャルロの森上空。

 そこを飛ぶドラゴンの背中に二人の人影があった。


「それにしてもよかったんですか? 森の妖精との会談をすっぽかした挙句、委員長をシャルロに置き去りにしたりして」


 ドラゴンを操るカレンに抱き着くような形でドラゴンに乗っている飛翔が口を開く。


「あなたが何か心配するようなことがあるのですかー? あの子はーちゃーんと自分で帰ってきますよー今頃適当に北へ行く行商へと声をかけているんじゃないですかー? そーれーにーさすがに三人乗って荷物まで載せたら、この子がかわいそうなのですよー」


 飛翔の不安にカレンはドラゴンの背中を撫でながら答える。

 ドラゴンは移動手段である前に生物であり、確かに意思を持っている。

 今の荷物の量を考えると、人間三人を乗せることはギリギリ可能だ。

 しかし、大量の荷物と人を乗せた自動車が走るためにより多くの燃料と機動力を必要とするようにドラゴンもまたより多くの力を必要とし、生物であるゆえに疲れも生じてくる。


 だからこそ、限界ギリギリではなく、ある程度の余裕を持たせることが大切なのだ。

 そんなことを考えている間にドラゴンはシャルロの森上空を通過し、シャルロ領の北部に隣接するカルロ領の上空に到達する。


 ここに来て、休憩を挟むらしくカレンは速度を緩めるようにと指示を出した。


 ドラゴンはそれに素直にしたがって速度を落とし始める。


 実に従順なドラゴンだ。


 このドラゴン、名前をロッソというのだがカレンが小さなころから一緒にいるらしく、ドラゴンとドラゴン使いというよりは幼少期からの知り合いの友達という感覚に近いらしい。

 それはおそらくドラゴンも一緒であり、ドラゴンからすれば小さなころから見守ってきた存在なのだろう。


 ドラゴンという生物は人間よりもはるかに長命で生命力も強い。

 その力を発揮すれば町一つが一晩で壊滅するとも言われている。


 古くからドラゴンは恐れられてきたのだが、それを操る術を見出してドラゴンが移動手段として確立したのが今から約八百年前。

 ちゃんと調教さえして、無理をさせない限り事故というのはあまり起こらないので比較的安全な交通手段とされる。


 ただ、シャルロ領をはじめとして特に最初期に大きな事故を起こした地域ではいまだに忌み嫌われ、受け入れられていないのもまた現状であるが……


 そのことをドラゴン使いや調教師は必ず知っているはずなのだが、それを知ったうえでシャルロ領までドラゴンで行くあたり、本当に彼女はドラゴンが好きなのだろう。


 ロッソはぐんぐんと降下してカルロ領の中心街カルロフォレストの近郊に到達する。


「もうすぐカルロフォレストに到着ですよー」


 カレンのそんな声が聞こえる頃にはカルロフォレストはすぐ目の前に迫っていた。

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