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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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幕間 慣れない家探し(中編ノ二)

 シャルロの森のセントラル・エリア。

 そこの中心部にある大木の根本におかれた机は大妖精十五人と人間一人にという構成で回りを固められている。

 相手は妖精たちを取りまとめる立場にある大妖精たちでこちらも一応、十六翼議会に所属する組織の一メンバーとしてあいさつにきているわけだら、多少なりとも重苦しい空気は想定していたのだが、そんなことは全くない。


「カノン様。会談中ぐらいは食事はお控えください」


 カノンの横に座り、彼女に注意するのはシノンという大妖精だ。

 ソノンいわく、彼女はカノンの側近中の側近であり、秘書的な役割をしているそうだ。


 当のカノンに目を向けてみると、彼女の目の前にはどこからか取り出された果物がおいてあって、彼女はリンゴに似たような実をおいしそうにほおばっている。


「まったく。シノンも硬すぎるって。そう。硬いの。もう少し優柔不断で柔らかい対応をしてもいいんだよ? うん、した方がいい」

「いえ、カノン様が緩すぎるのです。こういう時ぐらいはご自分の都合よりも済ませるべき用事を優先させてください」

「えーでも、ちゃんとやってるよ。そう。やっている……とそうだ。質問をしないと意味がないよね。うん。全然意味がない」

「……まったく、あなたという人は……」


 カノンのあまりにもあっけからんとした態度にシノンは頭を抱えてしまっている。

 いや、まぁこんな状況につき合わされればそうもなるだろう。


 しかも、何よりもたちの悪いことにシノンをはじめとした一部を除くほとんどの大妖精はむしろこの状況を楽しんでいる。

 今のカノンの態度に不快感を示しているのはシノンとソノンぐらいだ。


「おいおい。シノン様。硬すぎるって、いやほんとに。食事しながらの会談だっていいだろ? お客さんや私たちにも食べ物を配れば平等でしょ?」

「いや、あのそういう問題ではなくて……あぁもう。マノンさえいれば……」


 別の大妖精の発言にシノンはさらに頭を抱える。

 彼女がいうマノンというのは今日欠席しているという大妖精のことだろうか?

 彼女がどんな役割を持っているか知らないが、こういった場で名前が出るということは何かしらの調整役を務めているということなのだろう。


 マノンがいなくなった代わりをシノンが務めていると見れば、この状況はある意味で納得が行く。

 つまり、シノンはこのような仕事に不馴れであり、今回だけの代行だからうまいことこの場をまとめられていないのだろうということだ。きっとそうだ。


「……すみません。たぶん、もう少しすればちゃんと会談に入れると思うので……カノン様はどうしても切り替えというかなんというか……そうですね。区切りをつけて行動するというのが少々苦手でして……もう少し待っていてください」


 ソノンが申し訳なさそうに話しかけてくるが、飛翔は“気にしないで”とだけ言って、再びカノンの方へと視線を向ける。

 手に持っていたリンゴのような果実の残りを口の中に入れると、彼女は改めて飛翔の方へと視線を向ける。


「さてと……おなかも満たされたし、話を始めようか。うん。始めちゃうよ」


 その一言にシノンとソノンがほっとした表情を浮かべる一方で残りの大妖精たちは若干残念そうな表情を浮かべる。

 しかし、カノンはそんな周りの様子など気にすることなく、羊皮紙とガラスで作られたペンを取り出して、それをシノンに渡す。


「……というわけで、事前に言った通り私たちがウミバラツバサ君に聞きたいのはただ一つ。うん。一つだけ……あなたの知り合いについて。うん。お友達」

「知り合い?」

「そう。知り合い……あなたから見たヤマムラマコトについて話してほしいの。そう。話しちゃって」


 カノンの口から出てきた意外な名前に飛翔は目を丸くする。

 彼女がいうヤマムラマコトというのは間違いなく自分の友人で同様にこちらの世界に飛ばされてきている山村誠斗についてで間違いないだろう。


「どうして彼のことを?」


 断片的な情報から最近になってシャルロ領にいることはわかったのだが、妖精と関りがあるなんて言う話は聞いたことがない。


「えっ? だってほら、あなたが家探ししようとしていた家の住民だよ。そう。住民」


 平然とした顔でカノンが答えを提示する。

 その答えを聞いて飛翔はこれまで以上に驚いた。


 まさかの展開である。飛翔はただ単に上に言われたからという理由で家探ししていたのだが、まさかそれが知り合いだの家だったとは驚きの展開だ。

 それがわかったうえでやっていたのか、はたまた飛翔同様に異世界から来た人間がどんなものなのか調査したかったのか定かではないが、今度はもう一つ別の疑問が浮上してきた。


「……確か、カノンはあの家に魔法がかけられているみたいなこと言っていたけれど、誠斗は魔法が使えるの?」


 飛翔は魔法が使えない。カレンが背後につくことにより、疑似的に魔法を使うことができるが、根本的に飛翔は魔力を持っていないため、カレンからの魔力の供給が切れればただの人間になる。いや、正しくは魔法が使えない異端になってしまう。

 飛翔としてはそれぐらいどうとは思わないのだが、この世界の住民からすればかなり都合の悪いことらしく、魔法が使えないとわかればあまり顔をされないことが多いそうだ。


「いや、マコトは魔法が使えないって聞いているよ。うん。聞いている。でも、あの家のもう一人の住民……家主が魔法をすごく使えるの。そう。使えちゃう」


 だからこそ、カノンから提示された答えはある程度予想通りのモノだった。

 おそらく、家にかけてある魔法はその魔法使いがかけたのだろう。


「そんなことよりも、マコトについて話してくれる? そう。話しちゃって」

「えっとはい……わかりました」


 質問したことに対しての答えの提示がないからか、カノンが少しだけイライラしている様子で飛翔をにらむ。


「あっえっと……誠斗の話ですよね……えっと、誠斗は……」


 だからこそ、飛翔は求められるままに誠斗について話し始める。


 自分と誠斗の出会いから学校でのこと、彼の性格、好み、家族構成等々を次々と話していく。

 一体全体、彼らは何をしたいのだろうか? その疑問をじっくりと考える暇さえ与えずに間髪入れずに質問が飛んでくる。

 飛翔はその質問に必死になってこたえていく。


「……うん。なるほど……そういうことね。うん。そういうことか……」


 一通り話を聞いたカノンは納得したようにそんな声をあげた。

 これまでの話ははっきり言ってしまえば、どれも重要ではない他愛のない話ばかりだったのだが、どこで何を納得したのだろうか?

 そのあたりは本人にしかわからないかもしれないが、とりあえず会談自体は終わった。


 この後は再びカノンがあの家まで連れて行ってくれるとのことで彼女を除く大妖精たちはそれぞれ自分たちの住処へと戻っていく。

 飛翔はその様子を見ながら、小さく息を吐いて肩の力を抜く。


「疲れたの? そう。疲れちゃった? うん。仕方ないよね。そう。仕方ない。私としてももうちょっと穏やかにやりたかったんだけど、時間がなさそうだったから。そう。なかったから」

「……時間がなかったからね……ところで、会談前に言っていたあの家の家探しをする条件って聞いてもいい?」

「あれ? もしかして、あなたはせっかちさん? そう。せっかちなの? それとも、疲れたら早く帰りたいってこと? うん。そうなの?」

「いや、そうじゃないけれど……さっき、時間がなかったって……」


 恐る恐る飛翔が指摘してみれば、彼女は今思い出したといわんばかりに手をポンとたたいた。


「そうだ。そういえば、このあとシルクに会うんだった。そう。会わなくちゃ。それじゃ、あのツリーハウスにつくまでの間に話すからちゃんと答えてね。そう。答えちゃって」


 カノンは笑顔でそう告げてから歩き始める。


 飛翔はおいて行かれないようにとすぐに彼女の背中を追いかけ始めた。


「さてと……まぁ私があなたに頼みたいことって言うのはすごく簡単なことなの。そう。すごく簡単」

「簡単なこと?」

「そう。簡単なこと」


 先ほど、質問は一つだといった上で細かい質問で集中放火されたので少々警戒しながら話していると、彼女は念を押すように今一度、“本当に簡単なことだよ。そう簡単”と付け加える。


「アイリス・シャルロッテの居場所……あなたなら、知っているでしょ? うん。知っているはずよね」

「えっと……まぁそれは……」

「うん。やっぱり、そうなんだね。うん。思った通り。私が頼みたい事っていうのは、彼女に手紙を届けてほしいの。そう。届けちゃって」


 そういいながらカノンはどこからともなく封筒に入った手紙を取り出して、それを右手でもってひらひらと振る。

 飛翔はアイリスの監視係であり、シャラ領に戻ればその任務に戻れるはずなのでそれぐらいなら簡単にできるだろう。

 そう考えて、飛翔は小さくうなづいてから返事をする。


「それぐらいなら大丈夫だと思うよ……アイリス・シャルロッテに直接手渡せばいいの?」

「おぉわかっているね。うん。わかってる。そうだよ。彼女に直接持って行ってね。そう。持って行っちゃって」


 カノンは立ち止まってから振り返り、飛翔に手紙を渡す。

 パッと見ただけでは白い封筒に手紙を入れて軽く封をしているだけに見えるのだが、実際は魔法などをかけていて第三者が勝手に中身が見れないようになっているのだろう。


 飛翔はその手紙を受け取って懐にしまう。なくしては大変だからと、しっかりと奥の方へと詰め込んだ。


「さて、それじゃ順番が変わっちゃったけれど、家探しと行きますか……あんまり気は進まないけれど」

「あははははははははっ知り合いの家だって知った瞬間にやる気がなくなっちゃった? そう。なくしちゃったの?」

「いや、別にそんなことはないけれどさ……」


 飛翔とカノンはそのあとも雑談をしながら先ほどのツリーハウスへと向かっていく。

 なお、セントラル・エリアを出たところで本日二度目の恐怖のジェットコースター飛行があったことは言うまでもない。

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