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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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幕間 慣れない家探し(中編ノ一)

 妖精の森の中心部に位置するセントラル・エリアと呼ばれる場所。 

 特殊な結界に守られ、外からは知覚すらできないその空間に飛翔はいた。


 十数分にわたるアクロバット飛行を強制的に体験されられた飛翔はこみあげてくる吐き気を抑えながらカノンの後ろについていく。

 事前にセントラル・エリアは妖精の聖域だと聞いていたので、何かあるのかと期待したのだが、残念ながら目の前に広がるのはどこにでもありそうなありふれた森だ。


「もうすぐ着くよ。うん。すぐ着くよ」


 しかし、そんな感情はカノンのそんな言葉とともに吹き飛んだ。


「なにこれ……」


 森を抜けて見えてきたのは遥か上空の雲を貫くようにしてそびえ立つ巨木だ。

 その枝はかなりの広範囲に広がり、その太い根は大地にしがみつくかのように張り巡らされている。


 そんな中をカノンは少しだけ浮遊して飛翔を先導する。


「会場はあの巨木の下ね。そう。あの根本。今日は一人欠席だけど、他は大妖精はみんな揃っているよ。うん。そろっているの」

「一人欠席って……どうかしたんですか?」

「あぁ諸事情でちょっと森の外へね。そう。出ているの。まぁ気にしないで、そのあたりの処理は勝手にやっておくから。そう。やっちゃう。それと、今更思い出したみたいに敬語使う必要はないよ。うん。必要ない」


 彼女は終始笑顔を崩さないままだ。

 妖精というのは相当なことがない限り、森から出ない種族だと聞いているのだが、そんな妖精……それも大妖精が不在というのは妖精たちの中で何かが起きているということなのだろうか? それとも、ただ単純に外のモノを調達したいということだけで偶然、いなかっただけという可能性もある。


 いずれにしても、今回の参加者は飛翔一人に対して大妖精十五人という構図になるのだろう。

 本来なら、カレンと翼下準備委員会の委員長も同行する予定だったのだが、突然、行けなくなったという連絡があり、その上でツリーハウスの調査をしてほしいという依頼をされたのだ。

 まったくもって憂鬱である。カレンからはかるくあいさつをしてくる程度でいいと聞いているのだが、実際問題、カノンが会談という言葉を使っている以上、単なるあいさつで終わるとは考えづらい。


「あの……ところで今日は何の話を?」


 だから、多少失礼だとは思うが会談が始まるより前に内容だけはきっちりと確認しておく必要がある。

 カレンは妖精側にも今回は飛翔だけでの出席に変更になったと通達してあるといっていたので相手側もある程度事情は察せられるはずだ。


 前を軽く飛んでいるカノンは二度ほど小さくうなづいてから口を開く。


「そういえば、あなたは今回の目的知らないんだっけ? そう。知らないよね。本来は妖精と議会の間でちょっとした調整をする予定だったんだけど、それもできそうにないし……そう。できないし……本当にあいさつだけで終わりそうだね。うん。終わっちゃう」

「となると、話す内容はちょっとしたあいさつとさっき言っていた条件ってやつのこと?」

「覚えていてくれたんだ。そう。覚えていたんだね」


 彼女はそういいながらあいまいな笑みを浮かべる。

 飛翔がその意味を図りかねていると、カノンは目の前の地面に降り立ってこちらを振り向いた。


「……とりあえず、そのあたりの話は会談が終わってから。そう。終わっちゃったあと。それと、さっきは忘れていたけれど、今回の会談であなたに聞くべきことが一つ残っていたからそのことについて聞くね。うん。聞いちゃうから」

「そうならいいけど……」


 一瞬、彼女が見せた表情が気にはなるが、それは今追求したところで意味のないことなので気にしないでいいだろう。


「うん。それじゃもう少しまっすぐ歩けば到着だからね。そう。着いちゃうの。だから、私は先に行っているね。そう。行っちゃうから」

「えっ?」

「それじゃね! 大丈夫だよ! うん。大丈夫! 迷っているみたいだったら、他の妖精が迎えに来ると思うから。そう。来るはずだから!」


 彼女はそういうと、ぴょんと軽く飛びあがり、森の木々の中へと消えていく。

 一人森の中に取り残された飛翔は少しその場にとどまった後、カノンが消えて言った方向へ向けて歩き出す。

 どうして、彼女はあんなことを言い出したのだろうか? まさかとは思うが、飛翔との話の中で“聞かなければいけないこと”を思い出して、その準備をするために急いで行ってしまったようにも見えなくはない。


 飛翔は小さく息を吐いてからひたすら前へ前へと進む。


 それにしても、先ほどとは違い薄暗い森の中を一人で歩いてみると何とも心細い。

 足元に生えている草はしきりに足をなでるし、風が吹けばガサガサと木々が音を鳴らす。


 妖精たちが張った結界の中だからか、時々上空を飛ぶ鳥以外に動物の姿は見えない。きっと、その鳥たちもこの結界の中に存在する空間に気付くことなくそれぞれの目的地へ向けて飛んでいくのだろう。

 この森に到着する少し前に妖精たちと十六翼議会の関係についてカノンはじめ大妖精が重要な役割を担っているとカレンから聞かされていたが、とてもじゃないが、あの姿を見た後だとあの妖精がそこまで重要な役割を担っているようには見えなかった。

 いや、見せないからこそなのかもしれない。


 能ある鷹は爪を隠すという言葉があるように彼女はあえて、有能に見えないようにふるまっているように見えるだけ……と信じたい。

 まぁとにかく、なんにしても彼女が大切な会談の相手ということには変わりない。あまり待たせてしまっては失礼だと飛翔は少し歩調を早める。


 向こうに見える巨大樹は徐々に近くなってきて、目的地へ近づいていると実感できる。


 飛翔は真っすぐと巨木を見据えながらセントラル・エリアの中心へ向けて歩いていった。




 *




 セントラル・エリアの中心部。

 あの後、約三十分の時間をかけてここまで到達した飛翔は木の根元でこちらに背を向けて立つ大妖精の姿を見つけた。

 もしかしたら、彼女がカノンが言っていた案内係かもしれないと思い彼女の方へと歩いていく。


「……ふむ。ようやくの到着ですか。まぁカノン様が途中で放り出したそうですし、多少時間がかかっても仕方ないですね。まったく、カノン様も準備が悪い。外から人を招くのだからしっかりしてほしいと進言したばかりだというのに……あなたもそうだとは思わないかね? ウミバラツバサ君」


 まるで背中に目がついているかのように絶妙なタイミングで話し始めた妖精はゆっくりと飛翔の方を向く。

 流れるような金髪は腰のあたりまで伸びていて、頭には赤のカチューシャがつけられている。瞳は青と赤のオッドアイでそれぞれが独特の輝きを放っている。

 身長はほかの妖精同様に人間の子供ほどで手には木の枝を持っている。


 きれいだ。


 それが飛翔の抱いた感想である。

 別段、小さな子供を恋愛対象にするような趣味を持っているわけではないのだが、森の中にきれいに溶け込んでいる彼女はそれ自体が一つの芸術のようである。


「何かしゃべってくれないとこちらも反応が困る。何か言ってくれ」

「あぁすみません。えっと、知っていると思うけれど海原飛翔です。よろしく」

「これはご丁寧に……私はソノン。大妖精だ。よろしく頼む」


 ソノンと名乗った彼女は飛翔の目の前まで歩いてきて手を差し出す。

 飛翔はその手をとって、二人は握手を交わす。


「それにしても、結果的には予想より早い到着だったな。もう少し迷うか、森の風景に見とれると思っていたのだがな」

「えっと、そうなの?」

「えぇはい。以前には大樹に見とれてずっと足を止めていた人の話を聞きいたこともある。もっとも、彼の場合はその時に同行していた妖精がそこにとどめていたんだがな。まぁそれほどまでにあの大樹は人を引き付ける力があるのさ。だからこそ、我々はここを聖域として守っているんだ。さて、話が長くなった。会談の会場まで案内するからついてきてくれ」


 彼女はそういうと、飛翔を誘導するような形で歩きだす。


「さて、まぁツバサ君が思ったよりもいい方向に行動してくれたおかげで会場はすぐそこだ。なんて言っている間にほら、ついた」


 彼女はそういいながら立ち止まる。

 飛翔がその横に並ぶと、大樹の根っこに囲まれるような形になっている場所に丸太を切り出して作られたと思われる長机と、それを囲む丸太の椅子に座る十四人の大妖精たちの姿が見えた。


「待っていました。ウミバラツバサさん。どうぞこちらへ。ソノンもご苦労様でした。着席してください」


 一番木のそばにあるカノンの横に立った妖精が飛翔とソノンに声をかける。

 ソノンは真っすぐと一番近くにある椅子に座り、同時に飛翔に対してカノンのちょうど対面においてある椅子に座るように促す。


「うん。これで全員そろったね。そう。そろっちゃった。早速始めようか」


 カノンは満面の笑みを浮かべながらそう告げた。

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