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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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七十一駅目 ヤレイの家へ

 地下五階に到達してからしばらく。

 地下空間という特殊な環境でありながらちゃんと屋根を持っている家が立ち並んでいるという不思議な光景に目を奪われながら誠斗たちはヤレイの背中を追いかけていた。

 ところどころ洗濯物が干してある家が見受けられるのだが、日光が届かないこの場所で洗濯物を干す意味があるのだろうか?


 日光が届ないということ以外については目に見えて解決しているのがうかがえるので、大きな問題という観点で見れば、これが唯一の問題点とみていいだろう。

 水に関しては町の中に用水路を引いてそこに地下水を流すことで解決しているし、大きな用水路は東西南北と中央のそれぞれの地区を分ける境界の役割も果たしているそうだ。

 この地域は雨がかなり降る上に水が浸透しやすい地質らしく、相当な干ばつや地質、地形の変化がない限り地下水が途切れることはないのだという。


 仮に地下水脈の流れが変わったところでこれほどの建築技術を持っているのならどうにかしてしまうのだろう。

 基本的にこの町の建築物に使われているのは石やレンガなので地下へ地下へと町を拡大していけば勝手に建築資材は増加していくのだろうし、昇降機の箱の部分等に使われている木材も少し外に出れば確保できないことはなさそうなので大きな苦労は伴わなはずだ。

 食料に関しては、先ほどヤレイに聞いたところ、当初はこっそりと人間の町に出て買っていたそうなのだが、ここ三百年ぐらいはエルフ商会の馬車が定期的にこの町にきて、各階層を回りながら生活必需品の移動販売をしているとのことでその時にしっかりと買い揃えておけばあまり困らないとのことだ。


 エルフ商会は人間向けに紙とペン、ドワーフに生活必需品といった具合にエルフ商会は誠斗が思っている以上に幅広く商売をしているようだ。この様子だと、他の種族や場所でもかなり手を広げて商売をしているのだろう。

 亜人追放令の世の中にありながら、そんな風に商売の手を広げていけたというのはかなりすごいことのように思える。一体、どれぐらいのころからこの商会が存在していたか知らないが、少なくとも一年や二年でこの成功はありえないだろう。


「もうすぐ俺の家だ」


 前を歩くヤレイが口を開く。

 それをきっかけに誠斗たちは彼が指さす方を向いた。


 そこにあったのは平屋建ての一軒家で周囲が二階建てばかりなので少し小さく感じる。

 ヤレイは玄関扉を開けて三人を家のなかに招き入れる。


「狭いところ……特に兄ちゃんにとっては余計にそうかもしれないが、我慢してくれ。俺たちはこの大きさで十分だからな」


 そう言いながらヤレイが豪快に笑う。

 確かに目の前にある玄関は誠斗の身長だと少し頭をぶつけそうなぐらい低い。高校生の平均身長からして小柄な方の誠斗でこれなのだから、大柄な人物が訪れた場合、常に頭を抱えながら家の中にいなければならないのだろう。


 それでもドワーフのヤレイからすれば大きめの玄関に見えるのでもっと玄関が小さい家があるかもしれない。

 そんな玄関をヤレイ、ノノン、マーガレットは難なくくぐり、誠斗も少しだけ頭を下げて家の中に入る。

 玄関を抜ければ、その先にある天井は誠斗が普通に立てるぐらいの高さが確保されていたので真っすぐと頭を上げて少し前を歩くヤレイの後ろについていく。


 ヤレイの家は玄関から入ってすぐに居間があり、そこから別の部屋へと続いているとみられる扉が三つ存在している。

 部屋の中央には四角い机が置いてあり、その周りにはデザインがちぐはぐな椅子が四つ並んでいる。


 ヤレイはそのうちの一つに腰掛け、マーガレットとノノンも続いて席に着く。

 一番後ろを歩いていた誠斗が最後の一つとなった椅子に座ると、玄関から見て左側に誠斗とノノン、右側にマーガレットとヤレイが座るような形になった。


「改めて久しぶりね。ヤレイ。前の百年祭以降だからかれこれ四十年ぶりぐらいか?」

「あぁそうだな。にしても本当に変わらないなマーガレットは」

「えぇ。それに対してあなたは私と出会ったばかりのころと比べて随分と年をとったようね」


 かなり古い知り合いらしいマーガレットとヤレイが早速雑談を始める。

 それにしても、さすがというべきかマーガレットという特異な存在と人間に比べて寿命が長いもしくはそんな概念自体が存在しない亜人との間だからこそ成り立つ会話だ。

 もっとも、誠斗の横に座るノノンもまた、寿命などない種族なのでこの場においてこんなことを考えているのは誠斗だけといっても過言ではないだろう。


 久しぶりの再会を遂げ、募る話もあるだろう二人の雑談はしばらく続く様子を見せていたので誠斗はそれに口をはさむこともなく天井を仰ぐ。

 すると、横に座っているノノンがトントンと誠斗の肩をたたいた。


「待っている間、私たちも少しお話ししない? 退屈しちゃうし」


 ノノンから出てきた提案はある意味で誠斗の予想通りのモノだった。

 誠斗としても彼女の提案を断る理由は持ち合わせていなかったので小さくうなづいて賛同の意思を示した。


「さて、どんな話をしよっか」


 ヤレイとマーガレットの会話を邪魔しないように誠斗は小声でノノンに話しかける。

 彼女は少しばかり考えるようなそぶりを見せてから、わざとらしく腕をポンとたたいた。


「そうだ。とっておきの昔話を聞かせてあげる。聞きたい?」


 彼女は純粋な子供のような笑みを浮かべながら首をこくんと傾ける。


「そうだね。だったら、ぜひとも頼んでもいいかな?」


 誠斗が答えると、ノノンは何度かうなづいてから誠斗のすぐそばまで寄ってきた。

 ほとんど抱き着いているような体制で誠斗に迫るノノンに対して、誠斗は少なからずどきりとするものがあった。

 そんな誠斗の心情など知ってか知らずか、ノノンは誠斗にしか聞こえないような声量でぼそりぼそりと話し始める。


「あれは今からそうね……八百年と二十年ぐらい前……それこそ、マーガレットが私たちの森にすみ着くよりもずっと前の話……当時は亜人追放令もなくて妖精国も存在していたからいわゆる旧妖精国地域は私たちの天下だった。大妖精議会で国の方針を決め、妖精たちの生活の向上を図ると同時に当時急成長を遂げて妖精国のすぐ手前まで領土を拡大してきていた統一国から領土を死守するために日々動いていたの。そんな日だったわ。彼女が“空から落ちてきたのは”……しかも、場所はあなたが落下してきたというあの池の付近……」


 人間が空から落ちてくるという表現に誠斗は思わず目を大きく見開いた。

 空から妖精の森……それも誠斗の落下地点に近い場所に別の誰かも落ちてきていたのだ。偶然とは思えないそれに驚かないはずがない。

 そんな誠斗の様子など気にも留めず、ノノンはゆっくりと話を続ける。


「まぁいきなり人間が落ちてきたものだから、森は大騒ぎだったわ。すぐに緊急の大妖精議会が招集されてその子の処遇を決めたのよ。結論から言えば、その人物はのちに初代シャルロ領領主に就任するマミ・シャルロッテだったのだけど、結果的に妖精たちはそれのおかげで今日も住処を完全に奪われることなく過ごしているの」


 ゆったりとした口調で語られるその話は割と衝撃的なものだった。

 それと同時になぜ、このタイミングでこんな話をするのかという疑問が浮かんでくるが、ノノンがそれに関して説明する様子はない。

 そのあともノノンは誠斗の感じている疑問に関することに全く触れずに補足説明をし、最後に誠斗の顔を真剣な表情を浮かべながら真っすぐと見据えた。


「……ねぇ。あなたは亜人と人間。それぞれが協力してお互いに同じ道を歩んでいけると思う?」


 言葉も口調も姿さえも違うのにノノンが一瞬、マノンと重なって見えた。

 その事実に誠斗の中で浮かんでいた疑問は一気に吹き飛んでしまう。


「……ボクは共存できると思っている。そうじゃないとボクはボクの夢をかなえられないと思う」


 だからこそ、誠斗はこれまでに比べてより本心に近い形で答えを提示する。

 それを聞いたノノンは満足げにうなづいた。


「そう。ならよかった。あぁそれと、この会話はちょっとした結界を通しているから、あっちの二人の耳に入ったとしても適当な別の話題に聞こえるようになっているから、そのあたりはちゃんと話を合わせてね。ちょうど、あちらの二人の話も終わりそうだし」


 そういいながらノノンが視線をマーガレットたちの方へと向ける。

 誠斗もそれにつられるようにして視線を移すと、確かにマーガレットとヤレイはちょうど話を終えようとしていた。


「おっと、ついつい話に夢中になってしまって……待たしちまったな」


 誠斗たちが待っていたことに気付いたヤレイが声をかける。


「いえいえ。こちらはこちらで勝手に話をしていたので」

「そうかい。まぁいいや、早速だけど本題に入ってくれるかい?」

「はい。わかりました」


 そんな会話を交わして改めてヤレイと誠斗が向かい合う。

 誠斗は机の上にいくつかの羊皮紙を置いてガラスペンを取り出した。


「それじゃ早速行こうか」


 誠斗はそう前置きをしてからこれまでの経緯について説明を始めた。

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