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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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六十九駅目 シャルロの東へ(後編)

 シャルロの森を発ってから約一週間半。

 外周街道を抜けて、そこに接続する東シャルロ中央街道に入り、大きな町を経由して目的地のあるシャルロ東街道へと入った。

 外周街道から東シャルロ中央街道へ至るまではたくさんの旅人や行商人の姿を見ることができたのだが、シャルロ東街道と東西街道の接続点にある町を出た途端、それは一変し、街道を移動する人の数は一気に減った。


 どうやら、第二回会合で聞いた東端の方はあまり人が行かないというのはあながちウソではなかったのだと今頃ながらに実感する。

 シャルロ東街道は町を出てすぐに山岳地帯へと突入し、これまでの街道とは全く比べ物にならないような顔を見せる。

 道に大きな石が転がっているせいで馬車はおおきく揺れ、時折馬車の端まで飛ばされる。カーブも多く、右へ左へと何度も馬車は曲がり続けた。


 そうしているうちに標高は徐々に上がっていって、崖沿いの場所を通ったときに見えた町はすでにかなり小さくなっていた。


 マーガレットが手綱をもって馬車を正しい方向へと前進させ、誠斗とノノンは馬車の中に入って実験線候補地に到着してからのことを話し合っていた。


「……それで? どういった調査をしたらいいの?」


 先ほど立ち寄った町で買った地図を広げながらノノンが尋ねる。


 誠斗は少し空を仰いでから羊皮紙とガラスペンを取り出した。


「あっそれはガラスペンよね? シルクあたりから買ったの?」

「そうだけど……どうしてわかったの?」

「だって、森のあたりでそれを売ってるのは彼女ぐらいしかいないもの。それはエルフしか作れない代物よ。まぁたまにエルフから買ってそれをさらに転売している人たちもいるみたいだけど」

「そうだったんだ……」


 誠斗は改めてガラスペンを見る。

 透明なガラスで作られたその一品は確かに良質なモノなのだろう。しかし、これがエルフにしか作れないというのは意外に思えた。

 おそらく、エルフ独特の魔法を使った結果ということなのだろうが、人間でも技術次第では作れるはずだ。


 誠斗はそんなガラスペンの先をインクにつける。


「まぁガラスペンの話はまた今度するとして、現地に到着したらどんな調査をするか。だったよね?」

「そうそう。あっちについてから決めていたら時間がもったいないし」

「うんそうだね……というか、よくよく考えてみると、調査のための道具って持っているの?」


 調査をするという具体的なことを考えた途端に誠斗はふと、道具を持っていないという可能性にたどり着いたのだ。

 もしかしたら、すべて魔法で何とかするのかもしれないが、それでも使える手段は事前に知っておかないとどうしようもできない。


「道具はないようね。マーガレット。魔法で何とかするつもりなの?」


 誠斗の疑問にノノンは軽く馬車の中を確認した後にマーガレットに話しかける。


 マーガレットはノノンの問いに小さく首を振ってから答える。


「道具も魔法を使わないわ。この辺りに詳しい奴らに聞くのよ」

「この辺りに詳しいって、住民はおろか通過する人もほとんどいないこの場所で?」

「そうよ。だから、聞いておきたいことだけリストにまとめておきなさい。土木についての知識も多いし、技術も確かよ。そのあたりのことを聞いてみるのもありかもしれないわね」


 彼女はそういうと、再び手綱を握ったまま口を閉ざす。

 ノノンはマーガレットの返答に首をかしげながらも誠斗の方を向き直る。


「どういうことかしら?」

「まぁマーガレットがあぁ言っているんだから何か考えがあるんじゃないのかな? ボクたちは彼女に言われた通りに聞きたいことだけ整理しておこうか」

「まぁそれもそうね」


 そうした会話を交わして、誠斗とノノンは再び地図と羊皮紙を挟むような形で座る。


「それで? 聞きたい事はなにかな?」

「そうだね。まずはこの土地の詳細な地形。どの程度の勾配なのか、どこが斜面でどこが平面なのか……あとは線路の建設が可能なぐらいの面積を確保できるか、このあたりの天候等々実験に必要な条件、それとあとはこの世界ではどの程度の規模のトンネル及び橋梁が建設可能か……」


 誠斗はそう言いながら手元の羊皮紙に日本語でメモしていく。

 ノノンはその手元を興味深く観察していた。おそらく、見たこともない言語で書かれたメモに興味を示しているのだろうが、誠斗はいまだにこちらの世界の言語が完全には書けないため、メモをするときは日本語を多用する。

 そうするのが一番わかりやすいからであるが、マミ・シャルロッテの修理記録の一部と同様に自身以外に読めないことが欠点になるのだが……


 このメモの場合、自分の中での確認用も兼ねているため、とりあえずはこれでもいいだろという判断から日本語で書いている。

 もちろん、手紙や記録などを書くときはこちらの言語を使っているので早いうちに覚えたいところなのだが……


「興味深い言語を書くのね。確認しただけでもかなりの種類があるわ。これじゃ話をするのも大変ね」


 ひたすら誠斗の手元を覗き込んでいたノノンがそうつぶやいた。


「そう? まぁ確かに見た目はたくさんあるけれど、五十音って言って発音する音自体はそこまで種類が多くないよ。同じ読みでも意味によって書く文字が違うからこういう風になっているだけだよ」

「なるほど、意味を誤解させないための配慮ですか……これは奥が深い」

「まぁそういうところかな」


 そのあとも誠斗はメモを取り続け、聞きたいことをきれいにまとめる。


 それがちょうど終わったぐらいのタイミングで馬車はゆっくりと減速し、停車した。


「ついたわよ」


 マーガレットはそういいながら馬車を降りる。

 それに続いて馬車を降りてみると、そこは山の中腹ほどにある街道から少し外れた場所で目の前には大きな洞窟が口を開けていた。


「えっと、ここは?」

「シャルロ領の最東端にある町の入り口よ」

「えっ? 町の入り口ってここ洞窟だよね?」

「えぇ。そうよ」


 マーガレットは表情一つ変えることなくそう答えて、洞窟の中へと足を踏み入れる。


 洞窟に入ってから少しすると、マーガレットは側面の壁を何度かトントンと叩いた。


「ヤレイ。いる? 私よ。マーガレットよ」


 マーガレットがそういうと、ゴゴゴッという大きな音が鳴り、洞窟の奥の壁が動き始めた。


「わっ!?」

「なにあれ!」


 誠斗とノノンがそろって飛び上がる。

 目の前の壁はゆっくりと動き続けて、やがて完全に開ききったところで音が止まった。


「よう。久しぶりだな。それにしても、恐ろしいほど見た目が変わんないよな」


 奥からひょっこりと初老の男性が姿を現す。

 ただ、その身長は誠斗よりも低く、マーガレットよりもやや低いぐらいだ。


 さすがに大妖精であるノノンに劣ることはないが、それでも人間の子供ぐらいの大きさだ。


 彼はマーガレットの姿を見た後にこちらに視線を向けてぎょっとしたような表情を浮かべた。


「おぅ今日は一人じゃないんだな」

「えぇ。でも信頼に値する人たちよ。こっちの男の子は私の家に居候しているヤマムラマコトでそっちの小さいのがシャルロの森に棲む大妖精のノノンよ」

「おう。そうか。俺はヤレイ。ドワーフだ。ここで立ち話というのも申し訳ないから町まで案内する。ついてきてくれ」


 ヤレイと名乗ったドワーフはこちらに手招きをしてから後ろを向き、洞窟の奥の方へと歩き始める。

 どうやら、この状況からしてマーガレットが言っていた町というのはドワーフの町だったようだ。


 誠斗たちが先ほどの扉をくぐると、先ほどと同様に大きな音を立てながら扉が閉まる。


 誠斗たちは時々おいてあるたいまつの明かりを頼りにヤレイの背中を追いかけて洞窟の奥へと進んでいった。

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