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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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六十八駅目 シャルロの東へ(前編)

 シャルロの森にあるマーガレットのツリーハウス。

 第二回会合が開催された翌日であるにもかかわらず、そこには第二回会合に参加したのと同じメンバーが顔を突き合わせていた。


「相変わらずというか準備が早いわね。議会の承認とかは済んだの?」

「はい。臨時で議会を招集しまして、第900回妖精議会にて今回のノノン派遣が正式に決定いたしました」


 マーガレットの素朴な疑問に答えたのはシノンだ。


 彼女の横に座るカノンも満足げな表情を浮かべていることから、おそらく議会をうまくまとめることに成功したのだろう。

 ノノン自身も大して不満そうではないので議会自体は大きな波乱を生むことなく終わったのだろう。


 誠斗とマーガレットはその迅速すぎる決定に感心してよいのやら、あきれればいいのだかよくわからないといった表情を浮かべる。


 しかし、カノンたちはそんなことは気にする様子もなく、ノノンの背中を軽く押す。


「いってらっしゃいノノン。結果を楽しみにしていますよ」


 シノンがそういえば、カノンは首を大きく何度も縦に振る。


「そうそう。楽しみにして待っているから。そう。待ってる」


 二人から声をかけられたノノンは笑顔を浮かべる。


「はい。ご期待ください」


 それに答えるようにノノンもまた、笑顔でうなづく。

 そのやり取りを見て、マーガレットは小さくため息をつく。


「まったく。早い決断感謝痛み入るわね。でも、足だけは引っ張らないでよ」

「えぇ。それはもちろんですよ。マーガレットさん」


 ノノンはマーガレットと誠斗の前に歩み出て頭を下げる。


「どうか。よろしくお願いします」


 そんな彼女を前にマーガレットは今一度ため息をつく。


「わかってるわよ。ほら、マコト。さっさと出発するわよ」


 マーガレットはそういうと、いつの間にか用意してあった荷物をもって立ち上がる。

 誠斗もまた、それに同調するように立ち上がり、ノノンは目を輝かせた。


「それじゃ出発!」


 ノノンは右手を高く上げて全身で喜びを表すようにそういった。


「はいはい。それじゃ行ってきます」

「行ってきます」


 誠斗とマーガレットはそれぞれそう言って家を出る。

 そして、マーガレットは玄関の扉を開けてから振り向いた。


「そうそう。あなたたち。この家の中には侵入者撃退用のトラップを仕掛けて置いたから。私が家を出た瞬間に発動されるから気を付けてね」

「えっ!」


 カノンの抗議の声を聴くまでもなく、マーガレットは扉を閉める。


 その直後にカノンとシノンのモノと思われる悲鳴が聞こえてきたが、マーガレットは薄笑いを浮かべるのみではしごを降りていく。


「マコトさん。あの二人なら死にはしないと思うからさっさと行こうよ」


 ノノンもその状況に対して大して気にする様子を見せずに誠斗の服の袖を引っ張る。

 誠斗としては大妖精二人が心配だったが、ノノンはこう言っているし、心配したところで何かできるわけでもないので誠斗もノノンとともに家の玄関から離れる。


 ツリーハウスの下に降りる頃にはボロボロになったカノンとシノンが窓からはい出てきて、こちらのほうを恨みがこもっている目で射貫く。


「カノン様。今のは私たちではなく、マーガレットさんに向けるべきでは?」

「そうだね。うん。そうしよう。シノン! 今すぐセントラル・エリアに帰って第901回妖精議会の準備をするよ! そう。しちゃうよ!」

「昨日、臨時で議会を招集したのにまだ物足りないんですか?」

「とにかくやるの! すぐやるの!」


 そんな会話をしながら二人は空へと飛びあがり消えていく。

 その背中を見送った誠斗とノノンはお互い顔を突き合わせてクスクスと笑い声をあげてからマーガレットが待っているであろうミニSLの駅に向かって歩き始める。


「それで? 最初はどこから行くんですか?」

「うん。まぁシャルロシティの近くと妖精の森の近くはとりあえず、行ったことあるからまずは一番遠いところにある東端の場所に行こうと思ってる。これは、マーガレットも了承済みだよ。もちろん、時間の余裕があればほかの場所も見るけれど」

「まぁそれは当然だよね。できれば、全部見たいところかな?」

「それはそうさ。全部見れるものなら見ておきたい。前訪れたときはそういう目で見ていなかったからね」


 そんな会話をしているうちに二人はマーガレットの家前駅に到着し、すでに準備を終えて待っていたマーガレットに迎らえた。


「まったく。ただでさえ時間がないのにあまりゆっくりされると困るから早く行動してくれないかしら?」

「あーごめん。というか、カノンたちは大丈夫なの? 一応、無事には見えたけれど……」

「大丈夫よ。人間がかかったら知らないけれど、妖精は死なないから」


 そんな恐ろしいことをさらりと言って、マーガレットはミニSLの運転席に座る。


 誠斗とノノンが荷物を貨車に載せてから、客車に乗ったのを確認するとマーガレットはミニSLを出発させた。


「そういえばさ、今頃かもしれないけれど、除雪とかはしなくてもいいの?」


 久しぶりに乗るミニSLは特に問題を感じさせることなくゆっくりと走り始めた。


「それなら問題ないはずよ。あの日以降、雪は降ってないし、風も穏やかだったから……それに先の年越祭で妖精たちが多くの雪をセントラル・エリアに持って行ったしね」

「なるほど。そういうことか」


 確かに年越祭で見た雪像は立派なものばかりだった。あれほどのモノを作るとなれば多くの雪が必要だというのもうなづける。

 ミニSLはマーガレットの言葉通りあまり雪に邪魔されることなく、ところどころ茶色い大地が見える白銀の森を進んでいく。


 ふと、後ろに座るノノンに視線を移し見れば、彼女はきらきらと目を輝かせて周りの風景を見ていた。


「すごい! 動いてる!」


 そんなある種当たり前のような感想を述べたノノンはせわしく視線を動かし続ける。


「これって確か魔力で動いているんだよね?」

「そうだよ。だから、ボクは動かせないわけだけど……」

「魔力だけでこの速度、快適さ! これはぜひとも森中にほしいぐらいだと思うな。うん。カノン様が気に入っているのもよくわかったわ」


 彼女はそのあと、南森駅につくまで終始興奮気味で次から次へと誠斗やマーガレットにミニSLに関する疑問をぶつけてきた。

 南森駅で列車を降りるとき、彼女は非常に名残惜しそうな表情を浮かべていたのだが、歩き始めた途端に一変。今度は誠斗に興味を抱いたようで次から次へと質問をぶつけ始める。


 どうやら、彼女は興味のあるものは徹底的に追求したような性格であるらしく、これは別の意味で骨が折れそうだと誠斗とマーガレットは二人笑いながら、三人そろってシャルロの森を出て外周街道へと躍り出た。


 外周街道へ出れば、いつかの青年が前の時と同様に馬車を引き連れて待っていて、マーガレットの姿を見つけるなり手を振った。


「お待たせしました。急だったので馬車の用意が少し遅れてしまいまして……」

「それでも私たちが森から出るのとほぼ同時だったから文句はないわ」


 この時点でノノンは魔法を使って外見を人間の少女と同様にしているのだが、青年からすればマーガレットや誠斗と一緒に森から出てきたノノンに興味を示したようでじっとその姿を見ていた。


「あの……この子は?」

「あぁ。森の中で迷子になっていたようだから近くの町まで送ってやるところなんだ。気にしないでくれ」


 マーガレットはそういうと、青年にチップを渡して馬車に乗り込む。

 それに続くようにして誠斗とノノンも馬車に乗った。


 それを確認したマーガレットは手綱を引き、馬を東に向けて歩かせ始める。


「いってらっしゃい! よい旅を!」


 そんな青年の声を背に誠斗たち一行はシャルロ領の東端へ向けて出発した。

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