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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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六十六駅目 第二回会合(前編)

 第二回会合はとても穏やかな雰囲気で始まった。

 円卓を囲むのは誠斗、マーガレット、カノン、シノン、ノノンの五人である。


 円卓の中央にはシャルロシティを中心とした周辺地図が広げられ、すでにいくつかの赤い線が書き込まれている。


「まず、赤い線を引かせていただいたのは比較的広い土地がある場所で直線的に線路を引けるであろう場所です」


 赤い線を引いた本人であるシノンが説明する。

 その赤い線が引かれている場所の中で一番近いのはシャルロの森を出てすぐのところにある宿場町との間にある平原で一番遠いところはシャルロ領の東端にあたる場所だ。

 ほかにもシャルロシティに近い場所やシャルロッテ家の屋敷の裏など誠斗が知っている場所もいくつかあり、東端以外にも西部や南部などそこそこ距離もありそうな場所も候補として挙がっているように見えた。


 誠斗とマーガレットはゆっくりとその地図を眺める。


「……なるほど、マコト。実験線に必要な条件って広大な土地以外に何かあるかしら?」


 それを見たマーガレットは誠斗に向けて質問をぶつけた。

 誠斗は少し天井を仰いだ後に答えを返す。


「そうだね。できればただ走らせるだけじゃなくて、いろいろと条件をつけたいかな。たとえば、急勾配や曲線、分岐……それと雪や雨みたいな天候による変化、気温の急激な変化による影響等々……そのあたりをじっくりと見れる場所がいい気がする」


 これをすべて満たせる場所を探すつもりはない。

 できる限り……曲線と勾配ぐらいはクリアしたいが、しばらくはシャルロを走らせるのだから、条件的にはとりあえずシャルロに合致したことがらだけでもいいだろうし、いずれにしても地域の状況によって線路も列車も多少の変化は余儀なくされると思うし、考えれば考えるだけ条件など次々出てくるのですべてをカバーできる万能の路線というのはある意味不可能に近い。

 だからこそ、せめて必要最低限の条件をそろえたシャルロシティの気候を代表するような場所。これがある意味で一番求めるべき場所なのかもしれない。


「……なかなか難しい条件ね」


 すべてを満たさなくてもいいというあたりを口に出していなかったためか、マーガレットが難色を示す。

 当然と言えば当然だろう。そんなもの、考えなくても不可能だとわかる。


「まぁいろいろと見てみないとわからないことが多いからね。さすがに全部を満たしてなんて言うつもりはないよ」

「そりゃそうでしょうね。大規模な魔法で持つかなわない限り、ありとあらゆる条件に適合する実験線なんて私一人じゃ不可能よ」


 完全に不可能とは言い切らず、魔法を使っても大規模すぎて手におえないというあたり、魔法って魔力と技術さえあればなんでもありなのかもしれない。

 そんなことを考えながら誠斗は再び地図に視線を落とす。


「そうだね。最低限の条件って考えると曲線と急勾配、分岐とかそのぐらいかな?」

「そうね。実験線用の乗車場設置のための土地とかも考えると、広大な土地は外せないから、結構数が絞られてくるわね」

「うん。転車台も設置したいからその分も考慮しないと……」


 誠斗とマーガレットの言葉を受けて大妖精三人はひそひそと話し合いを始める。

 おそらく、どの場所を勧めるかという話をしているのだろう。


 別段、何か交渉事をしているわけではないのだから、その議論に普通に混ぜてもらってもいい気がするのだが、あちらにはあちらの事情があるだろうから、そこについて言及はしない。


「どう? そちらの意見はまとまりそう?」

「はい。そろそろですね……ただ、こちらとしては過去の記憶と人から聞いた現状だけから整理しているので少しかかるかもしれません」

「そう。わかったわ」


 シノンの返答にマーガレットは特に何も言うことなく納得する。


「さて、マコト。いったん席を外しましょう」

「えっ? うん」


 マーガレットに促されて、誠斗はともに席を外す。


「何かあったの?」


 円卓から離れるなり、誠斗はマーガレットに声をかける。


「えぇちょっと……あなたに聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「そう。ちょっとね……いったん、家の外に出ましょか」


 そう言って、マーガレットは玄関の扉を開けて家の外に出る。

 誠斗が続いて外に出ると、マーガレットはいったん妖精たちに視線を送った後に扉を閉めた。


「それで? 聞きたいことって何?」


 このタイミングでここまでするということはそれなりに重要なことなのだろう。

 マーガレットは今一度家の中の様子を見てから口を開く。


「あなた……あの大妖精と……ノノンと知り合いなの?」


 慎重に慎重を重ねたようなことの運びなのに出てきた質問がそれだったため、誠斗は一瞬思考が停止してしまった。


「はい?」

「だから、知り合いなのかそうじゃないのか答えて頂戴」

「えっ? あぁうん。この前の年越祭のときに話しかけられたんのが最初で今日で会うのが二回目っていう感じかな」

「そう。大体把握したわ……」


 彼女はそう言いながらあごに手を当てる。


「でも、不思議ね。あのノノンが自ら出てくるなんて……普段はセントラル・エリアから出ることなんてないはずなのに……少し、注意しておく必要があるかもしれないわね」

「そうなの?」

「えぇ。今回の会合も少し話す内容には注意した方がいいかもしれないわ」


 マーガレットはそれ以上何も言わずに家の中に戻った。

 彼女は何も言わなかったが、ノノンから何かを感じ取ったのだろうか? しかし、それが何か誠斗には理解できない。

 彼女は“自ら出てくる”などという言い方をしていたが、カノンやシノンは自らここにきているのだから、大妖精がセントラル・エリアから出るということ自体は異常だとは思えない。いや、それとも自分が妖精のことを知らないだけでその行動は実は異常だったりするのだろうか?


 加えて、先ほどのマーガレットの言葉……まるで彼女が……ノノンが普段は誰かを矢面に立たせて、自身は裏で手を引いているようなそんな構図を思わせるような言い草だ。

 もっとも、仮にそうだったとしてもノノンが自ら出てくる理由などうかがい知ることなどできない。


 結局のところわからないのだ。


 何もわからないというのは歯がゆいが、どうすることもできない。

 飛翔が今どこにいるのかも、大妖精たちや十六翼議会の思惑も……まったくわからない。


 ただ一つ、誠斗が理解できる何かがあるのだとすれば、それは様々な者の思惑の上に現状が成り立っているというぼんやりとした現実だけである。

 その現実が誠斗の人生にそして、鉄道建設という目標にどのような影響をもたらすかわからない。少なくとも、現状ではことがいい方向に進んではいるが、それもいつまで続くだろうか?


 勝手に未来を悲観して絶望するつもりはないし、すべてがいい方向に進むと決めつけるつもりもない。


 しかし、現状を知れないというのはその判断すら付けれないということだ。


 誠斗は当事者であるはずなのに知らないことが多すぎる。そんなことをつくづく痛感させられた。


「マコト。戻って着て頂戴。あっちの話しがまとまったみたい」

「うん。わかった」


 誠斗の思考を中断させるようにかけられたマーガレットの声で誠斗は現実に引き戻される。


「マコト! 早く戻ってきて! そう早く!」

「すぐ行くよ!」


 カノンの不満に背中を押されるようにして誠斗は家の中に戻った。家の中では先ほどと変わらないメンバーが先ほどとは変わらない雰囲気で座っている。

 誠斗は先ほど考えていたことはいったん頭の隅へと追いやって、再び再開した会合に集中することにした。

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