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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十一章
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六十五駅目 第二回会合に向けて

 統一国歴の暦においても新年である1260年を迎え、サフランが提示した期限まで一ヵ月を切った。

 マーガレット曰く人間たちには妖精とは違い新年を祝うような祭りはないとのことでどこもいつもと変わらない様子だ。

 食料の買い出しを終えた誠斗はそれを戸棚にしまい、シルクの店で買ってきた羊皮紙を机の上に広げる。


 その横には市場で買ってきた周辺地図が添えられていて、戸棚の中に大切にしまわれているガラスペンとインクを取り出せば準備完了だ。


「失礼します」


 そこまでの準備が終わると、まるでタイミングを見計らっていたかのように大妖精のシノンが姿を現した。

 彼女は軽く家の中を見回すと、誠斗のすぐそばまでやってきてイスに座る。


「マーガレットの姿が見えないようですが、彼女はどうしたんですか?」


 どうやら、マーガレットの姿を探しているらしいシノンは今一度家の中を見回している。


「あぁマーガレットなら、帰りにちょっと薬草を採りたいとかで別行動だよ。確か冬にしか取れないスノーホワイトドロップス……だっけ? を取りに行くんだってさ。ボクも手伝おうとしたんだけど、今回の準備があるから先に帰っていいって言われたから。そっちこそカノンはどうしたの?」


 スノーホワイトドロップスというのは冬の間……新年が明けてから数日の間だけ開花する花で凍傷に有効な薬が作れるそうだ。

 さすがに森の中に住んでいるというだけあって、シノンもその花のことは知っているようで、どこか納得したようにうなづいた。


「なるほど。そういうことですか……まぁ確かに私がきたタイミングで誰もいなかったら困りますからね。それと、カノン様は少し遅刻します」

「わかった」


 一応、時間的には会合の開始時間なのだが、出席者四人のうち半数がこの場にいないので今は準備した資料と話し合いの内容の確認ぐらいでいいだろう。

 そんなことを考えている誠斗の前でシノンはなにかを思い出したような表情を見せた。


「あーそういえば……」

「何かあるの?」


 誠斗の質問にシノンは小さくうなづく。


「えぇ。実をいうと、ある大妖精からこの会合に参加したいという申し出がありまして。あとでカノン様が連れてくると思いますが、構いませんか?」

「うん。ボクは構わないけれど、それって誰なの?」

「私の古くからの友人であるノノンです。おそらく、年越祭の際に会っているかと思いますが」

「……あぁあの妖精か……」


 ノノンと言えば、先日の年越祭でミニSLと蒸気機関車について疑問をぶつけてきた大妖精だ。

 その話をした後も二人で年越祭を楽しんだので彼女については比較的好印象だ。


「彼女なら問題ないでしょう?」


 彼女からしてもノノンは信頼する対象であるらしく、堂々と問題ないと言い切る。


「うん。そうだね……そういえばさ、妖精たちってこの森にずっといるんだよね?」

「えぇ。そうですけれど」

「一応、聞くけれど外部との接触というか……今の外界の様子とかってわかる?」


 誠斗は彼女の質問に答えるとともにちょっとした興味本位からそんな疑問をぶつけてみた。

 もちろん、ただ単に気になったというだけではなく、先日のマーガレットが話した仮説の真意を探る鍵になるのではないかという考えもはらんでいる。

 もちろん、シノンが単純に吐くとは思えないが、それでも何かしらの糸口は捕まえるかもしれない。


 そんなことを思案している誠斗の前でシノンは口を開く。


「……おそらく、あなたはこれから実験線について考えるうえで外の現状を知っているのかという不安を持っているのでしょうけれども、それでしたら問題ありません。表向きには確かに妖精族は森の中で排他的な生活を送っていますが、大妖精としては外とのかかわりを完全に断ち切ろうなどという考えはありませんので……時々森を訪れるエルフ商会のシルク殿などから多少なりとも情報は聞いています」


 シノンから帰ってきた答えはある意味予想通りのモノだった。

 確かにかつてのマノンの言葉からしてシルクが時々シャルロの森を訪れているのは事実なのだろう。


 もっとも、彼女の言う通り誠斗の言葉を実験線選定のための情報としてはそれで十分だろう。


「まぁそれなら大丈夫だね」


 これ以上追及して下手なことを言ってはおしまいなのでこれぐらいで控えておく。

 誠斗はマーガレットたちが到着するまでの時間をいかにしてつぶそうかと思案しながら窓の外に視線を向けた。

 窓の外に広がるシャルロの森は季節が冬だと主張するかのように白銀の雪がうっすらと積もっている。


「雪解けはまだまだ先みたいだね」

「……えぇ。我々妖精にとって大変な季節はもう少し続きそうですね。年越祭も終わったから、早く春になってほしいところですけれど……」

「まぁそうだよね。この寒さは応えるし、何よりも雪があると行動しづらいから」


 こどものころなんかは雪が降ると、宿題を放り出して家の近所の広場に遊びに行ったものだが、このぐらいの歳になってくると、どういったことはあまりなく、むしろ大雪になって学校が休みにならないかなどという淡い期待を抱きながら温かい家の中にいるぐらいだ。

 そして、現状においては量は少なくてもミニSLの運行に支障をきたす積雪は厄介なものだ。


 正直な話し、このことを踏まえて雪が多少積もっていても安全に走れる列車も作らなければならないななどと思うのだが、今のところ具体的な案は思いつかない。強いて言うなら、昔テレビで見たような雪かき用の機関車を仕立てることぐらいだろうか?

 それをするにしても、そのあたりの技術は修理記録にはかいていなかったし、材料や必要な条件もいまいちわからない。


 あの修理記録は最初こそたくましく思えたが、やはり個人が書いたということも大きく、意外と抜けている情報が多い。

 蒸気機関車の修理自体はあれで完璧にできるのだろうが、問題はその先にある。


 実際に使うためにはどうしたらよいのか。いっそのことマミ・シャルロッテ本人に確認したいレベルのこの問題は現状大きく立ちはだかっている。

 信号システムも今のままでは長距離や複数列車の運行は不可能だろう。


 そのあたりの改善を含めて、鉄道が実際にこの世界に走るまで年単位で計画を立てる必要があるだろう。もともと、鉄道というはとても長いスパンで計画を立てるモノだ。こればかりは仕方ないだろう。


「マコトさん。もうすぐカノン様が到着するとのメッセージが到着しました」


 そんな誠斗の思考をさえぎるように小さな札を持ったシノンが声をかける。

 誠斗には何も聞こえなかったあたり、通信方法は魔法の類だろう。


「そっか。どうやら、マーガレットも帰ってきたみたいだし、そろそろ会合が始められそうだね」


 誠斗が見つめる視線の先。ツリーハウスの窓の外に広がる森の木々の間から薬草が入ったカゴを持って白銀の森を歩くマーガレットの姿が見え始めていた。

 それとほぼ同時に上空の比較的高い場所に二つの小さな影が見え始める。


「えぇ。到着も同時になりそうですから、これ以上待つなんてことはないみたいですし」


 二人がそんな会話を交わした数分後、玄関からは薬草の入ったカゴを持ったマーガレット、窓からは遅刻している割には落ち着いた様子のカノンとノノンが姿を現した。


「シノン。マコト。お待たせ! そう。待たせちゃったね!」

「遅刻してきてその態度はないんじゃないかしら?」

「いや、あなたも間に合ってはないでしょう?」


 入ってきたカノンは悪びれる様子もなく、明るい声であいさつをする。それに対して、同じようなタイミングで入ってきたにもかかわらず、むっとした表情のマーガレットがそれをとがめ、シノンが二人に突っ込みを入れる。


「ごめんなさいね。私が急きょ参加することになったから遅れちゃって」


 そんな三人の横を通り抜けてノノンが誠斗の目の前に登場する。彼女はこのメンバーの中で唯一遅刻に対して申し訳なさそうな表情を浮かべてこちらを見ていた。


「あぁうん。まぁ気にしなくてもいいよ。それよりも早く始めようか」

「えぇそうですね」

「うん! そうしよう! うん。それがいい!」

「まぁそうね」

「えぇかまいませんよ」


 誠斗が声をかけると、それぞれ事前に決められた席に着く。


「それじゃ、第二回会合を始めようか」


 誠斗は全員が席に着いたのを確認すると、そう声をかけた。

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