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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十章
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六十三駅目 ミニSLと実験線

 地図を見ながら大体のルートを決めた後、誠斗とマーガレットは実験線の選定に入っていた。

 一番理想的なのは様々な状況において、鉄道の安全を保障できるような場所……険しすぎず、だからと言って穏やかすぎない場所が一番いいかもしれない。


 こればかりは少し出歩いてみた方がいいのだろうか?


 実際に線路を敷く用地もそうだが、このまま地図とにらめっこしていては分からないことが余りにも多すぎる。


「……実験線と言えば、一つ大切なことをお忘れではありませんか?」


 誠斗とマーガレット、二人そろって思考に夢中になっていたせいでまったく、気づかなかったのだがいつの間にか大妖精のシノンが訪れていたようである。

 彼女はまるで最初からいたかのように二人の間に座り、小さく息を吐く。


「森の外での実験線も大切ですが、森の中でのあれこれも結局進んでいないのではないですか? 今のところ一列車が往復するだけという非常に単純な動きをしていますし、信号についても線路が伸びた時を想定できていません。もう少しこちらの改良も必要なのではありませんか?」

「えっあぁうん。そうだね……というかいつからいたの?」


 誠斗は彼女の存在に全く気付かなかったことに動揺しつつも疑問を投げかける。

 しかし、彼女は誠斗の様子になど気に留めることはなく、首をこくんと小さく傾げた。


「先ほどですが何か?」

「えっと、そうなの?」

「そうです」


 シノンは表情一つ変えることなく、平然と答えを返す。

 もとより、表情の変化が少ない方であることは確定的なのだが、なんというか少しやりづらい。


 誠斗は小さく息を吐いて思考を切り替える。


 そもそも、つい先ほどというのもいつからかわからないのでどこから聞かれていたのかというところも非常に気になる。もっとも、聞かれて困ることなどまったく話していないのだが……


「シャルロの森の中の鉄道ね……でも、それって雪解けしてからじゃないと厳しくない?」

「確かにそうかもしれませんが、このままでは少し作られたというだけで終わりそうなので……計画上はいろいろありましたよね?」

「まぁそうだけど……」


 実際、このシャルロの森にひくミニSLの路線は現在全線開通している環状線と部分開通の南線を含めて五路線ある。

 確かにシャルロッテ家のこと等々があってかなり事業が鈍足になっている感覚は否めないが、これぐらいなら許容の範囲内だと誠斗は判断していた。


 しかし、妖精たちは誠斗たちが想定していた以上に待ち遠しいと思っていたようだ。妖精の活動があまりないという冬だというのに大妖精の彼女がわざわざこんなところまで訪ねてきたというだけでもそれは十二分に考えられる。


 誠斗はどうしたモノかと思考を巡らせる。


 妖精の協力は今後も必要なのであまりむげにはできない。かといって、多少の雪とはいえこの中でミニSLの線路を建設するというのはなかなか厳しいものがある。せめて、建設予定地の調査ぐらいは雪がないときにやりたい。


 誠斗が色々と思考している横でマーガレットが口を開いた。


「……春まで待ってくれるかしら? それまでじっくりと路線について検討しましょう。森の外の鉄道についても、もちろんこの森の中の鉄道についても。あなたたちなら旧妖精国内の地形に詳しいはずだし」

「それは認めますが、何百年という時間がどれほどの変化をもたらしているかわかりかねますね」

「でも、根本的なことは変化してないはずでしょう? それに今は上に何か作っていたとしても、昔はそこに何があったのか、またそこで何があったのかというのはある意味重要だと思うわ。たとえば、“あの場所は長雨だと崩れやすい”とかそう言うのは長年住んでいた妖精じゃないとわからないと思うわ」


 マーガレットの提案に誠斗は内心、困惑した。

 いくら、妖精たちが旧妖精国に詳しいからと言ってこの要求はどうなのだろうか?


 妖精たちからすれば、旧妖精国という場所は人間たちに奪われた地なのであり、その人間たちに協力しろというのは何とも酷な話ではないだろうか?


「分かりました。協力しましょう」



 しかし、誠斗の予想を大きく裏切りシノンはあっさりと協力の意を示した。

 誠斗としては多少の抗議ぐらいは想定していたのであまりにも予想外だ。


「えっ?」


 だからこそ、少しの時間差を置いて間の抜けたような声が出てしまった。

 その反応が予想外だったのか、少々意外そうな表情を見せながらシノンがこちらを見た。


「どうかしましたか?」

「えっと、いや……なんでも……」


 これに関してはあまり首を突っ込まない方がいいかもしれない。

 誠斗は現状をそう判断して答えをはぐらかす。


 この世界に来てからそこそこ経つが、いまいち要請が考えていることは理解できない。

 現状に対して、マーガレットがさほど驚いた様子を見せないのは、前々から妖精がそのような態度を取っていたからなのかもしれないが、それでも彼女たちの関係を理解することは難しい。


「……そうですね。それでは近いうちに第二回会合を持ちましょうか。そこで森の外の実験線の候補地提案とミニSLの路線について話し合うということでどうでしょうか?」

「そうね。それがいいかもしれないわ」


 誠斗が困惑している横でマーガレットとシノンは早々に話を取りまとめ、シノンが帰り支度を始める。


「えっあの。状況が呑み込めないというかなんというか……」


 さすがにこのままわけのわからないまま終わりたくないとシノン達に声をかけるが、彼女は気にする様子もなく立ち去っていく。


「ちょっと!」


 シノンに声をかける誠斗をマーガレットが制止する。その表情はあとから説明するから黙っていてほしいとでも言いたげだった。


 結局、そのままシノンは帰ってしまい、家のなかにはマーガレットと誠斗だけが残される。


「結局、どういうことなの?」


 一瞬、静まった室内の空気を打ち破るようにして誠斗が口を開く。


 マーガレットは小さくため息をついてから誠斗に座るようにうながして、自身も席に座った。


「……そうね。あなたが聞きたいことはシノンに対する私の要求をなぜ、妖精があっさりと飲むことができたか。かしら?」

「まぁそうだね。だって、いくらミニSLのことが大切だとしてもあの内容は……」

「まぁ並の妖精だったら受け入れないでしょうね。でも、私は彼女が大妖精だからこそあの要求をしたのよ」


 彼女の物言いに思わず首をかしげてしまう。

 おそらく、彼女がいう並の妖精の反応は誠斗が危惧したような反発ということなのだろう。だが、大妖精ならば問題ないというのはどういうことだろうか?


 そんな誠斗の疑問に答えるようなタイミングでマーガレットは続きを話し始める。


「まぁそもそも、これは可能性の話を出ないけれど一つの仮説があって、それに基づいて行動しているのよ」

「仮説?」


 誠斗はマーガレットの言葉に思わず眉をひそめる。

 もっともな反応であろう。単なる仮説で妖精の協力が得られなくなりそうなことを言ったのだから当然だ。


「……そう。これは単なる仮説。でも、限りなく真実に近いと思っているわ。その証拠もいくらか持っているしね」


 そういうと、マーガレットは自信ありげに妖精に関する自身の仮説を話し始めた。

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