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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十章
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六十二駅目 世界地図

「世界地図?」


 帰宅するなり、誠斗の要望を聞いたマーガレットは眉をひそめた。


「うん。そういうのってないのかな?」

「あることにはあるけれど……どうしたの急に?」


 誠斗の要求にマーガレットは心底不思議そうな表情を浮かべる。

 その反応を見る限り、この世界ではそういったものが一般的ではないのかもしれない。


 マーガレットはしばらく考えるような様子を見せたあと、例の戸棚に向かい、中に手をいれた。


「確か、このあたりだったと思うけれど……」


 彼女はしばらく、戸棚の中を探り数分後、その奥から一枚の紙を取り出した。


「これね……少し前に買ったものだけどいいかしら? まっ世界地図と言っても当然ながら未開の地があるから何とも言えないけれど……」

「えっ? 未開の地ってあるの?」


 誠斗が聞くと、マーガレットは小さくため息をついて地図を目の前に置く。


「世界は広いのよ。全部を解明するなんてできるわけないじゃない。現在、人類が到達できていない地域は北が旧妖精国地域北部……シャラ領と海で隔てられている海峡の向こうにある半島の付け根の山岳地帯の向こう側、東がこの大陸最東部の港町から東に広がる海の向こう、西が西大陸の西に浮かぶ諸島の最西端の島の西の海、南は南大陸の最南端の町の背後にある山脈から向こうがそれぞれ未開の地とされていて、多くの調査隊が向かうも帰ってこなかった地域よ。一応、地図は人類が現在調査できてるその範囲になっているわ。まぁ大陸の形と大まかな地域、国しか記されていない地図ではあるのだけど……」


 彼女はそう言いながら世界地図を広げる。

 誠斗がそれを覗くと、そこには三つの大陸といくつかの島が描かれていた。


 マーガレットはそのうちの北東にある大陸を指差した。


「ここが帝国の本国が置かれている大陸でシャルロ領もこの大陸にあるわ。そして大陸の北東部および、ここにある半島がいわゆる旧妖精国」


 彼女はそう言いながら大陸の北東部とその北にある狭い海峡を挟んだ先にある半島を赤い丸で囲む。

 さらに今度は青いインクを付けたペンで旧妖精国の最南端にあたる場所に丸を付けた。


「そして、ここがシャルロ領。私たちが住んでいるシャルロの森はここの中央にあるわ」


 彼女はそう言いながらシャルロ領の中央にあたる場所を指差した。


「それで? このぐらいの情報しかわからないけれど、これがどうかしたの?」


 いつの間にか手元に出していた紅茶に砂糖を入れながらマーガレットが尋ねる。


「まぁ鉄道を敷くとなると、大体の地図も見てみたいなって思っただけだよ。たとえば、シャルロ領とシャラ領をつなぐ線路っていう話があったけれど、それも地図を見て初めて具体性を帯びる。仮にそこまで行くのならどこを通るべきなのか、逆にどこを避けるべきなのかもね。もちろん、地図を見るだけじゃわからないことは多いけれど、それでも地図上で計画を考える意味というのは十分すぎるぐらいにあると思うよ」


 誠斗はそう言いながらマーガレットからもらったガラスペンでシャルロシティとシャラ領の海岸沿いの場所を北大街道に沿って線を引いていく。

 鉄道を引くうえで大切なのは人の移動が多い場所を結び、物流が盛んな場所を通る……つまり、需要のあるところに敷設するということだ。


 いくら鉄道が実現しても、そこに乗る人も貨物もなければ、赤字が膨らみ続けて失敗した事業となってしまう。

 だからこそ、最初は収益の確保という意味でも確実に大動脈を造る必要がある。


 エルフ商会からも提示されたことからこの北大街道にそうルートは相応の需要があるだろうから、一気に全部とはいかなくても、少しずつ部分開業という形で建設を進めて行けばいいだろう。


 誠斗はそう考えながら自らが引いた線を目で追って行く。


「まったく、これだけ街道がある中でよく北大街道を見つけたわね。まぁわかりやすいルートではあるけれど」


 彼女が指摘する通り、この地図には主要な街道と町しか書かれていないとはいえ、旧妖精国内だけでも無数の線が走っている。

 しかし、その中でシャルロ領を通る街道は六つで中央にある環状線が外周街道、シャルロ領の東西の端を通っているのが、それぞれシャルロ西街道、シャルロ東街道として見てみると、そこを大きく避けるようにして引かれている線を見つけるのは簡単だ。


 さらにその線をずっと線を描きながら追って行って、最終的に北側の海岸……港町と思われる場所にたどり着いたのでこれで答え合わせは完了である。


 その途中にいくつか大きな町とみられる場所があるのでそのあたりを経由しながら北をひたすら目指すことになるだろう。


 そうなってくると、先にサフランが提示した実験線もこの線のひかれている場所のうちどこかにひくということになる。

 活動拠点がシャルロ領内なので理想としてはシャルロ領を出た列車が北へ針路をとりつつもシャルロの森を避けるようにカーブしているところがいいかもしれない。


 実際に線路を引くとなると、もう少し場所の精査が必要になるのは事実だが、現状この地図を見る限りではそれが一番現実的に思えた。


「さてと、これから考えることが多そうだ……」


 これまで何度も感じてきているが、これからの道は容易ではない。でも、このまま地図を広げているだけのような机上の空論で終わらせるのはもっとごめんだ。

 そんな思いから誠斗は真剣なまなざしでその地図を見つめていた。


「……そうね。仮にそうやって北大街道にそうなら避けるべきではない町が存在するわ」


 そんな誠斗の思考をさえぎるようにマーガレットの声が聞こえてくる。


「避けるべきはない街?」

「カルロ領中心街カルロフォレスト……シャルロシティと港町シャラハーフェンの間を結ぶなら外せない町ね。あまり大きくはないけれど、中心街であるからには通らないわけにはいかないわ」

「なるほどね……」


 誠斗はマーガレットが示した場所を見ながら納得したような表情を浮かべる。


 シャルロシティとシャラハーフェンのちょうど中間地点にあたる場所に存在するその町からはカルロ領内を通るいくつかの街道が伸びていることが確認できる。


「まぁ町自体はあまり大きくないけれどね。ただ、新メロ王国、シャラ領、シャルロ領等々旧妖精国内の主要な町や国に囲まれているからたとえば、シャラ領からカルロフォレストまで行って、そこから馬車で新メロ王国を目指すなんて言うのもありかもしれないわね」


 彼女は具体例を出しながらカルロ領から新メロ王国の方に向けて指を動かす。

 あとから聞いた話によると、新メロ王国はシャラ領のすぐ西側に位置する国でかつてのメロ州が独立した国で旧妖精国内で唯一の独立国だそうだ。


 その国自体は国土こそ小さいが、かなりの人口を抱えている国なのだという。


 旧妖精国内の帝国領とも交流は活発だそうで人の往来もそれなりにあるのだという。その話を聞く限りでは将来的にない頭の形で鉄道需要が発生しそうな地域だ。


「……そう考えると、ターミナル駅……要所になるような駅はシャルロシティ、カルロフォレスト、シャラハーフェンかな?」

「そうね。その考えで行くのなら、シャラ領中心街シャラブールも大きな駅が必要かもしれないわね。この町はシャラハーフェンのすぐ隣にある町だけど、あの港町に行くのなら避けては通れない場所にあるから鉄道が町の中、もしくはすぐ近くを通るのはほぼ確定でしょうし……」


 マーガレットはそう説明しながら誠斗が引いた線の上に丸を付けていく。

 そのそれぞれがシャルロシティ、カルロフォレスト、シャラブール、シャラハーフェンを示している。


「そうだね。それじゃ、暫定的にこのルートで検討してみようか」


 誠斗は地図にひかれた線を見つめながらそうつぶやいた。

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