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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十章
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五十九駅目 シャルロッテ家との交渉(前編)

 シャルロシティから帰路につき、誠斗たちはすぐにシャルロッテ家へと向かった。

 片道三日の旅は二人を疲れさせるには十分だったが、サフランに急ぎで手紙を出してみたところこの日をを逃せば、あとはしばらく都合がよくないとの返答が帰ってきたため、急いで帰ってきてその足でシャルロッテ家に向かっている。


 誠斗としては文句のひとつや二つ言いたいぐらいの気分だが、先方にも都合があるし、こちらの事情もまったく書いていないので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。


 馬を急がせてシャルロッテ家に到着すると、その入り口で使用人を伴ったサフランの姿があった。


「………………お待ちしておりました」


 少し時間に遅れたせいか少し不機嫌なサフランはこちらの姿を確認するなりそう言った。


 マーガレットは馬車から降りてサフランの前に歩み寄る。

 誠斗もそれにならってマーガレットの斜め後ろに立った。


「遅れたことは申し訳ない。少々込み入った事情がありまして……」

「…………別にそこまで気にしてはいません。ただ、あとが詰まるといけないから話は手短に頼みますよ」

「それはもちろん」


 そんな短い会話ののちにサフランに招き入れられてシャルロッテ家の中に入る。

 何でも今日は特別な客が来ているとのことでいつもの本館の執務室ではなく、別館にある客室に通されるのだという。

 そこは普段あまり人が立ち入らない関係で使用人の中でも中の構造を熟知している者が少なく、それを知っている熟練は客の接待に回しているとのことでサフランが自ら出迎えたのだという。


 何もそこまでしなくてもと思ったが、そこらへんは彼女個人の考え方の部分なのであまり言及しない方がいいかもしれない。


 別館は本館に比べると少し遠い場所にあるようで今はサフランと使用人も馬車に乗り込み、使用人が手綱を握っている。


「…………時間があまりありませんのでさっそく聞きますが本日の用件はなんでしょうか?」


 わざわざ彼女が門まで出向いたのは時間の短縮という意味もあったようで彼女は静かな口調でそう切り出した。

 それに対して真っ先に返答したのはマーガレットだ。


「鉄道関連で来たのよ。この場で話し初めて問題ないかしら?」

「…………はい。それを見越してこのメイドを連れてきましたので」


 サフランの返答を聞いたマーガレットは一瞬、誠斗の方を見た後に口を開いた。


「それじゃさっそく話し始めるけれど、今日あなたに話したいのは鉄道の運営をする組織についてよ」

「……現実的には組合制組織の採用で“シャルロ鉄道組合”といったところでしょうか?」


 いつも、言葉の前に妙な間を置く癖がある彼女にしてはかなりの即答だった。


 やはり、この世界ではそれが常識だということなのだろう。

 サフランもそれが当然だといわんばかりの顔をしている。


「いえ、組合制組織ではないわ」


 しかし、マーガレットがそれを否定した途端にサフランの表情は一変した。

 一瞬、驚いたような表情を見せた彼女はすぐに険しい顔になる。


「………………何をたくらんでいるのですか? 議会の手を借りたいというのなら考えますが?」

「そうじゃないわよ。私が提案するのは誠斗が元いた世界にあった会社の仕組みをもとにした新しい枠組み……前の世界で株式会社と名乗っている組織を参考にした制度よ。どう? 興味はある?」

「…………一応は。内容次第ですね」


 サフランが一定の興味を示したことを受けてマーガレットはゆっくりとした口調で説明をし始めた。


 主な内容としては、株式会社は株券を発行して、それを出資者が保有することで成り立つ会社であるということということを始めとして、株式の保有については一個人の所有に上限を設けるということ、重要事項の決定には株主本人もしくはその代理が出席する株主総会で決定するということ、出資者については何人たりとも拒まないということなど元の世界の株式会社に則しながらもこの世界に合わせて改良されたモノだ。


 サフランは終始興味深そうに話を聞いていた。


 彼女が一通りの話を聞き終わる頃には馬車は別館の入り口に到着し、サフランを先頭にそこへ入っていく。


「…………株式の発行は一口100Gぐらいで一人当たりの上限は2割ほどでどうでしょうか?」


 別館の廊下を歩く途中でサフランが口を開いた。


「株式会社のこと?」

「………………えぇ。話を聞く限りではそのぐらいがいいんじゃないかしら? もっとも、それはいつまでも一定とはいかないけれどね。これで必要な資金を調達して、重要な決議は出資者に伺いを立てる。大体理解したつもりです」


 彼女はそういいながら客間の扉を開けて二人を招き入れた。


 そこの机上にある何枚かの羊皮紙にはかなりの数の文字が書かれていた。

 マーガレットはそれを見るなり、少し驚いたような表情を見せた。


「自動筆記ペンね。久しぶりにみたわ」

「……………………はい。先日ようやく入手できまして。早速、使っている次第です。一応、門をくぐってからの会話が記録されています」


 彼女やマーガレットが話すのにあわせてペンが動く。


 どうやら、会話の内容に応じて、書くか書かないかと言う判断ができるわけではないらしい。


 誠斗はせわしく動くペンを見ながら、席につく。


「…………それで先程の提案についてですが、どうでしょうか? 私としては悪くないと思うのですが」


 彼女の質問に今度は誠斗が答える。


「そうだね。悪くはないと思うけれど、莫大な初期投資を考えると、それだとなかなか資金が集まらないんじゃないかな?」

「…………一口あたりが高くても集まらないと思いますけれど?」

「それはもっともだと思うよ。だから、もうひとつ提案がある」

「……………………もうひとつですか?」


 誠斗の言葉にマーガレットは眉をひそませた。


「そう。莫大な建設費用をどうするかということについてなんだけれど、ボクとしては上下分離方式を提案する」

「………………上下分離方式? それもあなたがもともといた世界の話かしら?」

「まぁそうなるね。といっても、あまり詳しくないから正確にこうだとは言えないけれど……」


 誠斗は少々自信が無さそうな口調でそう告げた。


 もっとも、これまでここぞという交渉はマーガレットがやってきたのだ。

 それを今回は自分がやるのだから、それは仕方ないのかもしれない。


 誠斗は手元のメモに一瞬目線を落としたあと、この世界に合わせた上下分離方式についての説明を始めた。

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