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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第九章
69/324

五十八駅目 利権と利権と利権

 喫茶店の地下の部屋。

 真っ暗な天井にあいた穴から紅茶が下りてくる。


 ボックスの中に入った紅茶と大量の砂糖を取り出すと、それぞれ誠斗と自身の前に置いた。


 その後、マーガレットは注文した時と同じようにヒモを二度引っ張る。すると、合図にボックスは天井の方へと上がって行った。

 前の世界でいうエレベーターのようなものかもしれない。ただし、動力は手動もしくは魔力なのだろうが……


 誠斗はボックスが天井に格納されたのを確認すると、マーガレットの方に視線を戻した。


「それで? 仮にさっき言っていたえっと……」

「組合制組織」

「そう。その組合制組織を立ち上げるとしたらどんな制約があるの?」

「なるほど……そうね。詳細を知らないで決定するのは危ういでしょうし、まずは組合制組織の詳細から話しましょうか……」


 マーガレットは紅茶に大量の砂糖を投下しながら説明し始める。


「まず、組合制組織の特徴はさっきも言った通り何人かの出資者で……あぁそうそう。大切なことを言い忘れていたけれど、ここでいう出資者は事業者本人を含めたその事業に何かしらの形でかかわる人のことね。たとえば、マコトは自身も出資者として直接鉄道会社を経営し、エルフ商会は出資をしたうえで貨物の運搬の依頼という形でかかわるといった具合ね。まったくかかわりのない人が出資すると違法になるから気を付けた方がいいわ」

「そうなの?」

「えぇ。そもそも、常識的に考えて自分に関係ない事業にお金なんて出すわけないでしょう」


 マーガレットはさも当たり前のようにそういった。

 おそらく、この世界ではそういうような考え方なのだろう。


 誠斗の質問に答えたマーガレットは続きから話し始める。


「まぁともかく、基本的に出資者はその投資が成功することで何かしらの利益を得ることができる者と考えるのが一番手っ取り早いから今回の鉄道会社の場合はエルフ商会からの出資を断ることができないし、経営への口出しも出資比率次第ではかなりのモノでしょうね」


 彼女はそこまで話して砂糖を入れるのをやめて、激甘紅茶を口に含んだ。


「それじゃ経営に口出しされないように組合制組織にしなかった場合についてはどうかな?」

「……つまりは個人の出資による会社の立ち上げね。それははっきり言って難しいわね。制度的にもそうだし、一番は資金面かしら……通常の商店等々ならともかく、交通に関する鉄道を走らせる会社となると、線路が通る場所の土地代、建設費、車両の購入費、停車場を始めとした関連施設の建設費や資産に関する税金等々を考えると莫大な額の資金が必要になるわ。それに制度上は運営できるだけの資金と事業内容を明確にすれば商売を始められるけれど、鉄道は新しい交通手段だから、シャルロ領を始めとして多くの団体がその利権を狙うのは必至ね……そうなると、シャルロ領側が簡単に認可を下ろすとは考えづらいわ。たとえ、認可者があの領主代理じゃなくてアイリス・シャルロッテだとしてもね。いや、むしろそのあたりの利権等々を無視してくれる可能性はサフラン・シャルロッテの方が高いかもしれないわ」

「えっ? それってどういうこと? まだ存在しないモノにそんなたくさんの利権が絡んでくるっていうこと?」


 誠斗としては前半はともかくとして後半の話しが意外だった。

 もちろん、鉄道という巨大な交通インフラに対して多少なりとも利権が発生するというのは考えていたが、どちらかと言えば鉄道というまったくもって新しいものに対する畏怖というか恐怖から資金を調達できない等の問題を恐れていたと言うこともあるかもしれない。


 呆けた顔をする誠斗の前でマーガレットは小さくため息をついて話を続ける。


「……一般的に新しいモノ、技術というのはそうすぐには受け入れられないわ。それの安全性の是非を問う反対運動が起きたり、その結果計画そのものが流れるということもないことはない。でも、それは一般市民の話。常に金儲けのことばかりを考えている行政の人間や商売人は新しい技術はすなわち新たに自分たちの懐を潤わせられる可能性を秘めた金の卵。今回のエルフ商会みたいに我先にとその利益を確保しようと動くのが普通よ。それはある意味シャルロ領を治めるシャルロッテ家にも言えるわ」

「そうなの?」


 誠斗が聞くと、マーガレットは小さくうなづいた。


「えぇ。付け加えるなら、サフラン・シャルロッテの背後にあるのは商会とか一つの領土とかではなくて、かつて統一国を思いのままに操っていた十六翼評議会という巨大組織。だからこそ、彼女からすればシャルロ領などというちっぽけな行政組織の収益がどうなろうと関係ない。どちらかと言えば、十六翼評議会の単独で資金を貸し付けてその利権を全部持っていこうと考えるでしょうね」

「うわぁ……」

「世の中そんなものよ」


 あまりの内容に少々ドン引きする誠斗に対してマーガレットはさも当たり前のように言い放った。

 彼女の語るところによれば、どこまで行っても“利権”の二文字が付きまとう。こればかりは仕方ないのかもしれないが、さすがにここまで来ると自由な経営など不可能なのではないかとすら思えてきてしまう。


 もっとも、何かしらの組織を運営してそれでいて利益を上げようという時点で完全な自由などないのかもしれないが……

 ともかく、この状況はまずい。


 組合制組織として立ち上げるにしても次から次へと何かしらの利益を求めて参入してくれば利権のぶつかり合いになる。かといって、単独での立ち上げは困難だし、仮にマーガレットが言っていたような十六翼評議会のバックアップなどと言ったらさすがに手に負えなくなってくる。


 これらをうまく切り抜ける方法はないだろうか……


 もちろん、なにをやろうと利権が付きまとうというのは当たり前だ。


 しかし、何をするにもすべて利権に振り回されるようなことはしたくない。


 しばらく考え込んだ結果、誠斗の中にある考えが浮かんだ。


「……そっか。だったら、別の方法で組織を立ち上げればいいのか」

「いきなり何を言い出すの? そんなの言うのは簡単かもしれないけれど、実現するのはかなり難しいわよ」


 誠斗の言葉にマーガレットはあからさまにあきれたような様子を見せる。


「大丈夫だよ。資金の調達と利権の介入のできる限りの阻止……たぶん、実現可能だと思う」

「たぶんって意外と自信なさげね。それにできる限りの阻止じゃ意味がないんじゃないの?」


 マーガレットの言葉に誠斗はゆっくりと首を振る。


「……いや、排除すべきなのは誰か一個人のための利権と現行の制度にこだわり続ける既得権益だけ。今回のエルフ商会からの話も貨物の優先利用の件は置いておくとして、海運や馬車といった他の交通機関との連携は不可欠だ。だからこそ、要望のあった中からこちらが選んで事業を進めることのできる組織を作る必要があって、今ちょっとした原案を思いついたっていうわけだよ。まぁいずれにしてもこの方式をまずは領主代理であるサフラン・シャルロッテに同意させる必要があるわけだけど」


 誠斗はそう言いながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

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