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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第九章
67/324

五十六駅目 エルフ商会本部

 シャルロシティに到着してからしばらく。

 中央広場のすぐそばの路地裏に建つエルフ商会本部の応接室に誠斗とマーガレットの姿があった。


 おとなしくソファーに腰掛けているマーガレットに対して、誠斗はもの珍しそうに室内の調度品や机の上の菓子を眺めている。

 全般的にガラス細工などが多く置かれているその部屋はシャルロッテ家の執務室等とはまた違った趣がある。


 シャルロッテ家の執務室兼応接室が非常にシンプルで片づけられていたのに対して、このエルフ商会本部の応接室はとても豪華だという印象を受ける。

 もちろん、豪華だからいいというわけではないが、なんとなくこの組織は力をもっているのだなと感じてしまう。


 部屋に入ってから約十分。コンコンという控えめなノックとともに扉が開かれた。


「失礼するなりよ。久しぶりなるねマーガレット」


 そんな言葉とともに姿を現したエルフは笑顔を浮かべて頭をさげたあとにマーガレットと向かい合うような形で座る。

 誠斗はそれとほぼ同時にマーガレットの横に座った。 


 エルフは誠斗が座るなり、じっと誠斗の目を見据える。


「あなたがシルクが言っていたマコトなりけりね。私はカシミア。エルフ商会の会長なるのよ。どうぞよろしく」

「えっと、ヤマムラマコトです。よろしくお願いします」

「えぇ、よろしく。まぁ本題に入りけりよ」


 彼女は何枚かの羊皮紙を机上に広げる。


 それにはかなりの量の文章が書かれていて、少し横から見たぐらいでは何が書いてあるのか理解できない。

 さっそく、その書類の話に入るのかと思ったその時、カシミアは何かを思い出したように手をたたき立ち上がった。


「おっと、私としたことが一つ大切なことを忘れていたなりよ」


 彼女はそういうと、誠斗の背後へと移動し、頭の上に手を置いた。


「シルクから話は聞いているし、マーガレットの知り合いなら問題ないと思いたいなるが、少々確認はする決まりになっているのでな。少し頭の中を覗かせてもらうだけだからおとなしくしていてほしいなりな」

「えっ頭の中って!」

「大丈夫なりよ。実害はないし、あなたが人に見られたくないと思っている記憶なら見ないでおくけりから……さてと……おとなしくしていることよ」


 彼女がそういった直後、頭の上に置かれた手が淡い光を帯び始めた。


「えっ」

「おとなしく」


 カシミアから鋭い声が飛ぶ。

 おそらく、彼女たちエルフとしても亜人追放令がある現在においてはこういったことをせざるを得ないということだろう。

 誠斗は静かに目を閉じて、極力体が動かないように気を遣う。


 そうして、数分が経過した時、頭の上に置かれた手が離された。


「……ふむ。まぁ問題はないみたいから問題ないなりよ。ささっ時間の無駄であるからさっさと商談にはいりましょう」


 彼女はそう言って改めて羊皮紙を広げ直した。

 それを改めてみると、ところどころに数字や“魔法薬”といった文字が書いてあるのが見受けられたため、魔法薬の買い取りの値段に関する書類なのかもしれない。

 誠斗はマーガレットの手元を見ながら少しばかり思考を巡らせる。


 何枚かの書類にマーガレットがサインを終えると、それで取引終了なのかカシミアは机上の書類を片付け始め、マーガレットも帰り支度を始めた。

 誠斗は一瞬、どうするべきか迷ったが、マーガレットに従って帰り支度を始めることにする。


 支度も終えていよいよ帰ろうかというその時、カシミアが声をかけた。


「そうだ。マコト、そなたに少し尋ねたいことがある……あまり、時間を取らせるつもりはないけりから座ってほしいなりよ」

「えっ? あぁはい」


 自分に何の用があるのだろうか?


 そんな疑問を抱きつつも誠斗は席に戻る。

 それを確認するなり、カシミアは柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。


「前々からあるところから少し聞いているのなりけど、鉄道なるモノの計画があるなりよね?」

「えっ? あぁはい」


 一瞬、どこからの情報かと聞きたくなったが、シルクが情報屋という顔を持っているようにエルフ商会も独特の情報網があるのかもしれない。

 いずれにしても、話だけは聞いておいた方がいいだろう。


「……その存在について少々疑問を抱いていたなりけれど、そなたの頭を覗いたらよーくわかった……まぁ私が興味があるのは……鉄道よりも、その動力……電気なるけりけれど……まぁいずれにしても、話を聞きたいというわけなるよ」

「……えっと……はい」


 頭の中の記憶をのぞかれたことについてはおそらく抗議したところで意味はないだろう。彼女は“人に見られたくない記憶”を見ないといったわけであって、それ以外の記憶を見ないとは言っていないのだから。


「まずは……」

「待って」


 誠斗が話し始めようとしたタイミングでマーガレットがそれを制す。

 カシミアは少々不機嫌そうな表情を浮かべてマーガレットの方を見た。


「なんでありけりか?」

「……これから真剣な話をするんだから、その変な話し方をやめて頂戴。なんというか、前に会った時よりもひどくなっているわよ」


 マーガレットのその言葉の後、少しの沈黙を挟んでカシミアが口を開く。


「…………はぁ仕方ないわね……まったく、あなたにそれを言われるとは何十年ぶりかしらね?」

「さぁ? いちいち何年たったとか数えるほど暇じゃないわ」

「まぁいいわ。話を続けましょうか……私が聞きたいのは商売に重要になってくる将来の鉄道ルートについて、そして電気という存在について。この二つだけでいいわ。できるだけ手短に話してちょうだい」


 カシミアは誠斗の方を向き直ると、先ほどとは打って変わって、畳みかけるような早口で誠斗に語りかける。

 誠斗は突然の変化におどろきつつも小さくうなづいた。


「はい。わかりました……まずは……」


 誠斗は一つ一つなるべく簡略して電気と鉄道のルートについて自分が知りうる情報を話す。

 そもそも、鉄道路線についてはこれといった計画はないため、マミ・シャルロッテの修理記録に書かれていた路線について、かつてはこんな案があったようだというニュアンスで話していく。

 カシミアは終始その話に聞き入り、時々うなづきながら話を聞いている。


 彼女は誠斗の話を一通り聞き終えると、羊皮紙に軽くメモを残してから話し始める。


「ふーむ……その記録にはシャルロ領内のことしか書かれていなかったのよね?」

「はい。まぁ……」

「だとしたら、あまり成功はないかもしれないわね……最初はもの珍しさが専攻するでしょうけれど、将来的なことを考えると、シャラの港あたりまではほしいわね」


 彼女はそう言いながら、旧妖精国の範囲を示していると思われる地図に線を引く。


「まぁ資金も必要でしょうから、シャラとシャルロの間の線路はエルフ商会がいくらか出資するわ。その代わり、エルフ商会の貨物を積んでほしいのよ……私たちはより速く荷物を調達できて、あなたたちは線路を敷く負担が減る……もちろん、貨物を積むときは相応の使用料を払うし、必要以上の便宜を図れとは言わない。それぐらいの常識はわきまえているよ。まぁ今すぐ返事を出せとは言わない。でも、シャラとシャルロを結ぶ北大街道を通る馬車はかなりの量でそのうちのほとんどが貨物を積んでいて、そのうち何割かが鉄道にシフトすればと考えれば結論は出ているようなものかもしれないけれど……そういうわけだ。返事は手紙で構わないわ」


 彼女は一方的に言いたいことだけ言って立ち上がった。


「待って」


 しかし、それを制すようにマーガレットが声をかける。


「まだ何か?」

「……何をたくらんでいるの? 純粋に貨物のことだけを考えて言っているの?」

「いまいち意図がつかめないなりね……」


 カシミアは、最初と同じように独特の口調で話しながらこちらを振り向く。


「あなたの行動には裏があることが多かったからにきまってるでしょ? 質問を変えましょう。あなた、何か裏で何かをしようなんて思っていないわよね?」


 二人の間に重い沈黙が訪れる。

 その中で最初に口を開いたのはマーガレットだ。


「まぁでも、仮にあなたが何かをたくらんでいたとしても、こちらに不利益がない限りは利用されてあげるつもりではいるけれどね……」


 マーガレットのその言葉を聞いたカシミアは踵を返して退室していく。


「マコト。帰りましょう」


 彼女はそういうと、今度こそ荷物を持って立ち上がり、扉に向かって歩き出す。

 誠斗は彼女を追うような形で自分の荷物をまとめて部屋から出て行った。

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