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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第九章
66/324

五十五駅目 シャルロシティの現状

 シャルロの森を発ってから二日。

 誠斗とマーガレットをのせた馬車は予定通りに進み、シャルロシティのすぐ近くにあるという町を先ほど通過したところだ。

 時刻はまだ朝で昼過ぎの約束には余裕で間に合うぐらいの時間である。


 マーガレットは手綱を握りながら誠斗に話しかける。


「もうすぐ、シャルロシティの外壁が見えるわ」

「外壁?」

「そう。シャルロシティは本国と旧妖精国の境目にあたる町だから、警備上の理由から高い壁に囲まれた町なのよ。この丘を登れば、それが見えてくると思うわ」

「なるほどね……ということは、その町が旧妖精国の一番端になるわけか」

「そういうこと」


 マーガレットの答えを聞きながら誠斗は視線を馬車の外へとやる。

 先日の雪がまだ残っている街道にはたくさんの行商人や旅人が行き来しており、思いのほかにぎやかだ。

 そんな光景を眺めているうちに馬車は丘の頂上へ到達し、下り坂に入る。


 マーガレットが言っていたシャルロシティの城壁が視線に入ってきたのはそれとほぼ同タイミングだった。

 高い城壁に囲まれているシャルロシティの周りには川が流れていて、そこを渡る橋を越えないと町に入れないような構造になっている。

 橋はここから目視できるだけで二つか三つほどだが、交通の便を考えると本国側……つまり、こちらから見て逆側にも橋が架けられているはずだ。


 橋を越えた先にある大きな扉の向こうにはシャルロシティの町があるのだろうが、残念ながら城壁があまりにも高いため、外から確認できるのは大きな時計台が一棟だけだ。

 誠斗は確認の意味も込めてマーガレットに話しかける。


「あれがシャルロシティ?」

「えぇ。そうよ……まったく、しばらく来ない間にまた城壁が立派になっているわね」


 マーガレットもまた、視界に城壁が入ってきたのだろう。

 彼女は手綱を握ったままそう答えた。


「そうなの?」

「えぇ。かれこれ十年ぶりぐらいね……前に来た時はもう少し城壁が低かったのよ……まったく、戦争がない時代だっていうのに何に備えているのかしら?」

「そうなんだ……」


 平和な時代だというのにどんどんと高くなる城壁……ある意味で未知の脅威とやらに備えているのかもしれない。

 話を聞く限りでは、現在この世界では直接的に戦争を禁じる法律はなく、十六翼議会がそれを抑えているだけのはずだ。仮にそれが何かしらの理由で崩壊して戦争が始まれば、何の備えもないところから崩壊していくという考え方なのだろう。


 そんなことを考えながら誠斗はしばらく、シャルロシティを眺めていた。




 *




 丘を下り始めてからは早かった。

 あっという間にシャルロシティの眼前まで迫り、馬車はシャルロシティへ入る検問の列で停止している。

 ただ、そうはいってもずっと止まっているわけではなく時々ゆっくりと前進しているので思っているほど時間がかからないかもしれない。

 マーガレット曰く届け先はともかく、積荷は妙なものではないので検問自体は無事に突破できるだろうとのことだ。

 その列の中で周りの様子を見てみると、並んでいるのはほとんどが商人のようだ。


 やはり、マーガレットの言う通りこの街道は交通の要なのだろう。


 交通という存在で一番に考えなければならないのは物流だ。


 旅客需要というのももちろん大切なのだが、物流というのもとても大切だ。


 ものの行き来は経済の活性化を促し、人々の生活を豊かにすることができる。

 もちろん、現状ではそれがないとは言わないが、鉄道ができればそれを今以上に活発にし、なおかつ人の移動を活発にすることもできるだろう。

 そうなれば、この世界はもっとよくなるのかもしれない。


 ただ、現状のシャルロシティ……もっとも、町の中には入っていないが、ここに鉄道を通すのはかなり難しいかもしれない。

 もともと、この町は高い城壁に囲まれていてそれを囲むように川が流れている。


 そうなると、鉄道を町の中に入れるには橋を造りさらに壁に穴をあけなければならない。


 町の中に入ってもどの程度土地があるかわからないし、下手をしたら鉄道を敷設できるような用地はないかもしれない。


 そんな予感は町に入ってすぐに現実となってしまった。


 検問を終えて町に入ると、大通りのすぐそばまで迫るような勢いでところ狭しと家々がならび、それらが複雑に重なって複雑な町並みを形成している。

 所々に川が流れ、かつての城壁だと思われる低い壁もたくさんある。


 町はこれまでに見たどの町よりも活気に溢れていて、日との往来もとても激しい。

 マーガレットは馬車の速度を抑えて町の中を進んでいく。


「ねぇ約束の場所ってどのあたりなの?」

「そんなに遠くはないわ。町の外から見えてきた時計塔……あれがかつての砦を利用したシャルロ南魔道学校の校舎の一部なんだけど、そのすぐ近くにある商会の中で待ち合わせになっているわ。まぁこのペースで行けば間違いなく間に合うわね」


 マーガレットの話を聞きながら誠斗は町の中の様子に目を移す。


 常に人の往来が絶えない通りのわきには時々露店が見られ、何かしらの商売をしている。

 そこまでの数でないところを見ると、この町の市場は別のところにあるのだろう。


 先ほど、時計塔が見えた方に視線を送ってみると、それが町の中で抜きんでて高いことが分かる。


 時計台を熱心に見ていることが分かったのか、マーガレットは誠斗に話しかけた。


「あの時計台はもともと、砦の見張り台だったんだけど、砦の跡地を利用してシャルロ南魔道学校を開校するときにそれを町のシンボルとして時計台にしたのよ。確か、それを言い出したのは六代目領主のマリナ・シャルロッテだったかしら? 彼女、たびたび出奔するくせにそう言うところはちゃんとしているのよね……砦の廃止自体彼女の考えだったし……」

「ふーん。そのマリナ・シャルロッテっていう人とも知り合いなの?」

「直接の知り合いではないわ……大体、友人の知り合いぐらいね」

「そうなんだ……」


 知り合いの知り合い……その言葉を聞いてかなり失礼かもしれないが、“マーガレットに友人と呼べる人間がいたのか”という衝撃の方が大きかった。

 もちろんこれは口に出さない。出した瞬間に何を言われるかわかったものじゃない。


 下手をしたらシャルロシティに置いてけぼりを喰らうかもしれない。


 だがしかし、誠斗の中にあるマーガレットのイメージとしては“森の奥に住んでいるゆえに知り合いは少ない”である。

 もちろん、魔法薬を売るという行為をしている以上、その手の知り合いは多いだろうし、人脈もそれなりにあるのだろう。


 しかし、誠斗の中でのマーガレットのイメージではそのような様子がなかなか想像できないのだ。


 アイリスあたりと会話をしている姿を知ってもなおである。


「マコト? どうかしたの?」


 急に黙り込んでしまったためか、マーガレットが心配そうな声を上げる。


「いや、なんでもない」


 誠斗は考えを悟らせないように少しばかり笑みを浮かべて返答する。


「そう。ならいいけれど……とりあえず、もうすぐ中央広場につくわ」


 マーガレットは特に気にした様子もなく、話題を別の方向へ持っていく。

 いや、本当に気にしていないということはないかもしれないが、彼女の中で追及しても無駄という考えが発生しているのかもしれない。


 本人がそれを言わない以上、確かめようがないが何だかそんな気がした。


「そっか……だとすると、目的地もすぐそこってこと?」

「えぇそうよ」


 そんな風に短い会話を交わす頃には馬車は、北大街道の始点にもなっている中央広場に到達した。

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