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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第九章
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五十二駅目 不思議な戸棚

 朝、誠斗はいつになく冷たい風で目を覚ました。


「おはよう」


 早朝にも関わらず、机に向かってなにやら作業をしているマーガレットに声をかけた後、誠斗は窓枠に手をかけて外の風景を見る。


「これは……」

「夜遅くから降り始めたみたいで気づいたらそのありさまだ。せっかくだから、ミニSLを動かして見るのもいいかもしれないわね。雪の降った後の走行データを取るには十分すぎるぐらい積もっているし……」


 言いながらマーガレットが誠斗の横に立つ。


 彼女の右手には先ほどまで作っていたとみられるいくつかの魔法薬があり、左手には少し厚手の外套を持っていた。

 要するに出かけるからついでにミニSLを動かそうという発想なのだろう。


 まぁいずれにしても雪の中での走行にも興味があるし、ついでに彼女について町に出るのもいいかもしれない。


「うん。そうしようか。出発は朝食の後でいい?」


 誠斗はそのことに対して何も言わずに笑顔を浮かべる。


「それもそうね」


 マーガレットはそう言って作業台の方へと戻っていく。


 彼女はその裏にある棚からいくつかの食料を取り出してそれらを部屋の中央にある机の上に並べる。

 誠斗はその様子をジッと眺めていた。


「どうかしたの?」

「いやね。前々から気になってはいたんだけど……作業台とかその戸棚とかどういう仕組みになってるの? 何かいろいろ入ってるみたいだけど……」

「……どうって? 別に不思議な要素なんてないとないはずだけど?」


 マーガレットは誠斗の疑問が理解できないらしく、困ったような表情を浮かべて首をかしげている。


「いや、だからさ……なんというか、大体ボクたちって森の中にいるでしょ?」

「えぇそうね」

「それで食料は定期的に町に行って魔法薬を売った代金で買ってきてるんだよね?」

「えぇそうよ」


 まぁここまでは問題ない。それは誠斗もマーガレットも共通認識だろう。

 しかし、誠斗にとっての問題はここからだ。


「それで町に出る頻度ってボクの記憶が正しければあまり高くないよね? それに食料をそんなに買ってるところを見たことないし……その戸棚からは薬品とかも出てくるし……戸棚の大きさに対して物が入りすぎてないかって思ったわけなんだけど……どれだけ入るの? それ」

「あぁそういうことね……まぁ確かにそろそろ疑問に思っても不思議じゃないころかもしれないわね」


 そこまで言ってようやくマーガレットは納得したような表情を見せる。


「説明しろと言われると難しいけれど、容量だけでいえば無限と言っても過言じゃないわ。魔法による空間拡張……シャルロッテ家の屋根裏に施されていたものとほぼ同質と見てもらえば構わないのだけど、くわえてこの戸棚は少し中は冷えているから食品も薬品も状態を維持できるようになっているわ」

「うんまぁやっぱり魔法かそれにしてもいくらでも入るんだ……」

「えぇ。ただ、ちゃんと整理していないと何がどこに行ったのかわからなくなるから、過剰に入れないようには気を付けているんだけどね……」


 そう言いながら彼女は戸棚の方に戻りそれに手をつっこむ。


「まぁもっとも、私もこれについては把握しきれていないところがあるから何とも言えないんだけど……」

「把握していないって、マーガレットが作ったわけじゃないの?」

「えぇ。作ったのはシルクよ。なんか、新しい魔法を覚えたいから練習させてくれとか何とかでここに来たのよ。それで一ヶ月かけた結果がこれよ」

「へぇ一ヵ月も……」


 マーガレットと話をしながら誠斗は戸棚の方へと歩いていく。


「そう。一ヵ月散々いじくりまわした挙句、広げたはいいけれど狭めれなくなったとか言って帰って行ったのよ。まぁ有効には使わせてもらっているけれど」

「狭めれないって……」

「まぁ仕方ないんじゃない? 魔法の練習にちょっとした事故はつきものよ。まぁ結果的に彼女は自分の店の倉庫を適度な大きさに広げられたんだから無駄になったわけじゃないと思うわ」


 彼女はそう言いながら笑みを浮かべる。

 恐らく、シルクはこの戸棚に向けて一生懸命魔法の練習をしていたのだろう。それを思い出したからこそのこの笑顔なのかもしれない。


「まぁ彼女としては多少の失敗なら私が何とかしてくれると思っていたんでしょうね。じゃなかったら、ここまで大胆に空間魔法は使おうなんていう発想には至らないはずよ」

「まぁそうだろうね」


 戸棚の中をのぞきこんでみると、確かに戸棚の中はかなりの奥行が確保されているようだ。


 別に何か道具が浮いているとかそういうわけではなく、戸棚の壁が見えないぐらい遠くにあるように見えるだけだ。

 一番手前側には長い棒が置いてあるので遠くにある道具を取り出すときにはそれを使うのだろう。


「というか、これって奥においてあるモノは見えなさそうだけど、どうしているの?」

「あぁそこはほら、魔法よ。遠見の魔法を使ってその棒で道具をこっちに持ってくるの。だから、その棒が届くのより奥にやっちゃうと取り出せなくなるのよね……まぁ不可能じゃないけれど」

「どっちなのさ?」

「訂正するわ。取り出しにくいのよ」


 マーガレットはそう言いながら誠斗の隣にやってきて扉を閉める。


「ほら、さっさと朝食食べましょう。ついでに魔法薬を届けに行くからあまり時間がないのよ」

「あぁやっぱり魔法薬届けに行くんだ」

「あら、なんでわかったのかしら?」


 彼女はそう言って首を傾げたすぐ後に納得したような表情を浮かべた。


「そういえば、あなたに話しかけたときに薬を持ってたわね。まぁそういうわけだから急いで頂戴。相手がちょっと時間にうるさいから遅れると厄介なのよ」

「遅れると厄介ね……どんな人なの?」

「エルフ商会会長カシミヤ。亜人追放令の直後にエルフ商会を立ち上げて今でもその会長の座に君臨し続けているエルフよ。昔、私も少しお世話になったことがあるけれど油断ならない人であることは間違いないわね。何よりも話し方という口調がものすごく癖があってね……私としてはすごく話しづらい亜人の一人といっても過言ではないわ」


 マーガレットは話をしながら何かを思い出したようで暗い表情を浮かべながら長く深いため息をつく。


「まったく、いろいろ思い出したら行くのが嫌になったじゃない」

「思い出したらって……何があったのさ?」

「……気が向いたら話すわ。ほら、遅れたら厄介だからさっさと食べて頂戴」


 彼女がそうせかすので誠斗はテーブルに置かれたパンを食べ始める。


「それで? どこに行くの?」

「この森から見て南……シャルロ領の中心街シャルロシティよ」

「シャルロシティ?」


 誠斗が聞き返すと、マーガレットは小さくうなづいた。


「えぇ。シャルロ領で一番大きな町よ。いずれ、鉄道を引くのならそこを通らないわけにはいかないから一回ぐらいは見に行ってもいいかもしれないわね。エルフ商会ともつながりを持った方がいいかもしれないし、せっかくだから町までついてくる?」

「……うん。そうだね。せっかくだから着いて行こうかな」

「そう。だったらなおさら早く朝食を食べないといけないわね。あなたの準備もあるでしょうし……私はちょっとだけ出かけるから帰るまでに準備を終わらせておいてね」


 彼女はそういうと、小さなカゴを持って出て行った。


 おそらく、追加で持っていきたい薬草でも思いついたのだろう。


 誠斗は彼女の背中を見送った後にパンを口に含んで水でそれを流し込む。

 そうして、パンを食べ終わるとためてあった水で顔を洗い、軽く身なりを整えた。


「うん。これなら大丈夫かな」


 そう言いながら、ベッドの横に畳んでおいてあった外套を身にまとい玄関から家の外へと出て行った。

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