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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第八章
61/324

五十一駅目 市場の中で

 シャルロッテ家の屋敷の近くにある町の市場。

 誠斗はまわりをきょろきょろと見回しながら昨日の店を探していた。

 

 マーガレットからちゃんと地図を渡されているものの、この町の市場は相当の規模を誇っており、食料品や道具類の買い物は適当に歩いていればすぐにできるのだが、特定の店を探すとなるとかなり骨が折れる。

 そもそも、この市場の店はある程度場所が決まっているものの毎日のように場所が変わるし、露店はどれも似たような店構えだ。


 そんな市場の中を誠斗はマーガレットの地図と自分の記憶だけを頼りに歩いていく。


 途中で何人かの商人に声をかけられるが、それをやんわりとかわして誠斗は目的地を目指す。


 とりあえず、市場の奥を目指せばつくだろうと歩いているとようやく、昨日の店が見えてきた。


 誠斗は自分が思っていたよりもあっさりと見つかったことに安心しつつそこへ向かう。


 それにしてもだ。昨日は誠斗の意の介さない形で話が進んでいった。

 マーガレットはあっさりと引き下がるし、これから引き取りにいく商品の話にしても、強引に決められてしまった。

 マーガレットとしても、何かしらの意図があるのかもしれないが、彼女がなにも語らない以上、誠斗にそれを知るすべはない。


「すいません」


 声をかけながら露店に近づく。


「おう。昨日の兄ちゃんか。入りな」


 その声に答えるような形で露店の店主が声をかける。


 誠斗が店に入ると、そこには昨日と同様に奇妙な道具が並んでいた。


 店主はゴソゴソと店の奥の木箱を探り、昨日と同じモノを取り出した。


「ほい。これが昨日、マーガレットの姉貴に頼まれた商品だ。約束通り金は後日マーガレットの姉貴に請求させてもらうよ」

「えっはい。ありがとうございます」

「まったく、マーガレットの姉貴も自分で取りにくりゃいいのに……マコトだっけか? あんたもそう思わないかい?」


 彼の質問に誠斗は苦笑いを浮かべる。

 まさしく、自分が思っていたことを言い当てられたような形になるのだが、そこで素直にイエスと答えてしまうのもどうかと思ったのだ。


 店主は何度かうなづいてから商品を布で包む。


「ところでだ。あんたさんは今、マーガレットの姉貴の家に住んでいるのか?」


 商品を包みながら店主が尋ねた。


「えっ? はい。そうですけれど……」

「そうか。そうなると、納得がいくな……あいつが人に取りに行かせるなんてよっぽどのことだろうからな。いや、まぁそれはうちの店限定かもしれんけどな」


 そう言って、店主は豪快に笑い声をあげた。

 しかし、話についていけない誠斗は首をかしげるばかりだ。


「どういうことですか?」

「んっ? あぁこの店は見ての通りというか、まぁ魔法薬を調合するための道具を売っているわけだ。もっとも、本物はほんの一握りだがな。ともかく、こう言った商品を売っている店はかなり少ないうえにうちは本物さえ見分けられれば相場よりかなり安く買えるわけだ。ただ、これまで偽物を避け続けられる客もかなり少ない……正直、マーガレットの姉貴以外は毎回のように偽物をつかまされて帰って行くね」


 日本だったら明らかに詐欺で捕まるであろう商売の内容を店主は満足げな表情で話している。おそらく、その言葉通りに本当にうまくいっているのだろう。

 彼は笑うのをやめると真剣そうな表情を浮かべて鋭い視線を誠斗に向けた。


「まぁマーガレットの姉貴はそもそも専用の道具を滅多に使わない。おそらく、あんたに本物の道具に触れてほしいってぐれーだろうな。わざわざこんなの買わなくてもいいのによ」

「そうなの?」

「お前さんだって、すこしぐらいマーガレットの姉貴のそばにいるんだろ? それなのにここの道具は初めて見るようなモノばかり……そうなんじゃないか?」


 店主の言葉に誠斗はコクコクと首を縦に動かす。


「まったく、相変わらず回りくどいんだな。まぁ人格なんて、そうそう変わるもんじゃないし、そういう人間だって納得するしかないな」


 言いながら店主は布に包まれた商人を手渡す。

 それと同時に500Gと書かれた紙を渡された。


「その領収書に書かれている金額を布に包んで持ってくるように伝えてくれ。それじゃまたのお越しを待ってるよ」

「ありがとうございます」


 誠斗は頭を下げて、露店を後にする。


 とりあえず、これで用もすんだのであとは森の中にある家に帰るだけだ。

 どうせなら、帰りにシルクのところにでも寄っていこうかと思いつつ、人がごった返すメインの通りに出た。


 昼前ということもあり、食料を求める人で通りはすし詰め状態だ。

 この町のどこからこんなに人が溢れてくるのだろうかと思うぐらい人が多いのだが、誠斗はその中にある人物の姿をみたような気がした。


「さっきのって……」


 まさかと思いながら人混みを掻き分けて進む。


 もう一度、見えたその後ろ姿は間違いなく、誠斗の友人である海原飛翔のモノに間違いなかった。


「待って!」


 誠斗は彼の方へと向かおうとするのだが、人ごみに阻まれてそれはかなわない。


「飛翔! ボクだよ! 誠斗! 気づいて!」


 必死に声を上げるが、市場の雑踏にかき消されてしまっているのか、飛翔がそれに気づく様子はない。


 人の波は誠斗の動きと逆行するようにして動いているため、なかなか前に進めない自分に対して、飛翔は前に進んでいき、再び人ごみの中に姿を消してしまう。


「飛翔!」


 数分して、ようやく人ごみを抜け出すが、そこにはすでに飛翔の姿はなかった。


 誠斗は肩で息をしながら周りを見るが、まったくもって彼の影を見ることはできない。


「どうして……」


 誠斗は息を整え近くの壁に背中を預けながら思考する。


 おそらく、彼もまたあれから逃れることができずにこの世界に飛ばされたのだろう。そして、何かしらの事情により、シャルロのこの町を訪れた……もしくは、これまで会わなかっただけでこのあたりに住んでいたのかもしれない。


 そんなことを考えながら誠斗は青い空をあおぐ。 


 彼もまた、突如として異世界へ放り出されて不安だったのだろうか? 彼はどこで何をしていて、どうしてここに来たのだろうか?


 考えても結論はでないし、考えても仕方のないことなのだが、考えざるを得なかった。


「また、会えるかな……」


 それは心からの純粋な願いだ。


 今度はこんな形ではなくて、ちゃんと会話ができるぐらいの余裕をもって会うことが出来るのだろうか?


 誠斗はそんなことを考えながら笑みを浮かべる。


「よし! とりあえず、早く帰らないと」


 このまま飛翔のことを探そうかとも思ったがあまりマーガレットを待たせすぎるのもよくないだろう。

 誠斗は小さくうなづいてからシャルロの森へ向けて歩いていった。

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