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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第八章
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四十五駅目 マノンの行方

 シルクの店での出来事のあと、誠斗がシャルロの森に帰るとマーガレットがツリーハウスの前で待っていた。

 彼女は入り口のはしごに体を預け、腕を組んで立っていたのだが、誠斗の姿を確認するなりすぐに駆け寄ってきた。


「マコト!」

「マーガレット? どうかしたの?」


 彼女にしては珍しくかなり動揺しており、誠斗はそのことにおどろきつつも冷静に状況をつかもうとする。


「どうかしたのじゃないわよ。いないのよ」

「いないって?」

「マノンよ。あの子がどこにもいないの。私がこの森に移住してからはずっとこの家のあたりにいたのに……それで気になってほかの妖精たちに聞いてみたら行方が分からないっていうから……」

「えっマノンが?」


 誠斗の頭の中によぎったのは前に彼女と会ったときに見たあの表情だ。

 あの質問の裏にどんな意図があったのかわからないが、あの時点で彼女が何かしらの覚悟を決めていたのは確かだろう。

 あの時、彼女を止めることができなかったことがどうにも悔やまれた。


 しかし、ここでそんなことを考えていても仕方がない。


「マーガレット……マノンが行きそうなところに心当たりは?」

「……わからない。何せ、妖精は神出鬼没だから……だからと言って、彼女の性格からしてミニSLをまんま放置していなくなるとは考えづらいのよね……だから、これだけの期間姿を現さないっていうのは異常なのよ」

「なるほどね……」


 マーガレットの様子からして、彼女がこのあたりから離れたのはあまりないのだろう。


「とりあえず、手分けしてこの周辺を探してみようか?」

「そうね。そうしましょう」


 その後、二人でいつどこで合流するのか決めた後、誠斗はツリーハウス周辺、マーガレットは南森駅周辺といった具合にそれぞれ分かれてマノンを探し始める。

 途中であったシノンを始めとした妖精たちにもマノンを見なかったかと尋ねてみたが、皆が皆知らないと首を横に振る。


 ここまで見られていないというのが不思議でならないが、彼女は文字通り姿を消してしまったのだろう。

 誠斗は森の中にあった切り株に腰掛けると深く息を吐く。


「いったいどうなっているんだか……」


 マノンがどこに行ったか、以前にマノンに何があったかわからない。


 いずれにしても、誠斗と別れた後マノンの姿は誰にも目撃されていないし、誰もマノンに何が起きていたか知らない……


「いや、それっておかしくないか?」


 いくらなんでもおかしすぎる。

 確かにこの森の妖精たちは数が多いというわけではないが、だからと言って誰にも見られずに姿を消すことなどできるのだろうか?


 誠斗の中で別の可能性が浮上し始めていた。


 “妖精ぐるみで彼女の存在を隠している”という可能性を考え始めると、目的は別として、皆が皆行方を知らないと答えるのもうなづける。


「マコトさん。マノンは見つかりましたか?」


 いつの間に現れたのか、シノンが誠斗の背後から話しかけてきたのだ。


 誠斗はビクッと肩を震わせて、思い切り振り向く。


 その様子が楽しいのか、シノンはかすかに笑みを浮かべていた。


「……マノンのことは残念です。彼女にはある意味期待していたのですが、忽然と姿を消してしまうなんて……私たちの方でも探してはいるのですが……ご迷惑をかけてすいません」

「いや、気にしなくてもいいよ。それにしても、誰にも見られずに忽然と姿を消すなんて可能なのかな?」


 誠斗が疑問を呈すとシノンは小さく首をかしげた。


「といいますと?」

「この森の中には少なからず妖精がいる。そのすべてに見られずに姿を消すことは可能なのかって思ったからさ」

「あぁそういうことですか」


 シノンは納得したようにつぶやくと、誠斗が座るすぐ横に腰掛けた。


「あの子ならそんなのは簡単ですよ。彼女はすべての妖精の行動パターンを把握していますから、そこから誰にも見つからずに移動することはできると思います。ただ、こうして捜索をしているような時だと皆の行動を予想しきれないと思うのでことが発覚する前に森から出たという可能性が高いですね」

「そうなんだ。ということはマノンはこの森にいない可能性があるっていうこと?」


 誠斗の問いにシノンは少し空を仰いだ。

 それから数分して、シノンは小さな声で答えた。


「そうですね。可能性としては否定できないと思います。ただ、妖精がこの森を出てまともに生きていけるとは思いませんが……」

「そうなの?」

「えぇまぁ……あなたにはピンと来ないのかもしれませんが、この世界には亜人追放令があります。妖精ももちろんその対象です。昔ほどではないにしろ妖精が町にいれば何をされるか……」

「そうか……」


 亜人追放令。ついつい忘れがちになるがこの世界に存在するある意味絶対ともいえるルール。


 十六翼議会という巨大な存在が制定したそれは八百年にわたり維持されている。そのため、誠斗含めほとんどの人間は亜人は町にいなくてもそれが当たり前になっている。

 いまや、亜人と人間が共存していた時代を知るのは亜人だけだ。


 おそらく、この世界に人間は亜人はいなくて当たり前ぐらいの認識を持っていてそれを覆すのは容易ではない。


「それじゃ、マノンはこの森の中にいる可能性が高いってこと?」

「そうですね。可能性としては高いと思います。ただ、この森は広大ですし、彼女しか知らない場所があっても不思議ではありません。もっとも、彼女がこの森にいればの話ですが」

「えっでも、さっき……」

「あくまで可能性の話です。本人の姿を見ていない以上、たとえ一割一分一厘でも可能性があるのなら、それも疑うべきなんです。当分は捜索範囲を森の外に広げるつもりはありませんが」


 そう語るシノンの表情は真剣そのものなのだが、誠斗は何とも言えないような違和感を感じていた。

 最初に森の外に出た可能性はないときっぱり言った割には森の外にいる可能性も否定できないならそのうち探すべきだと言い出す。

 これではまるで何かを隠そうとしているようだ。


 仮にシノンがマノンについて何かを知っていて隠そうとしているのなら、それはなぜなのか?


 シノンとマノンの間で何かがあってその出来事自体を封殺しようとしている可能性すら考えられる。


 それはいくらなんでも考えすぎだろうか? 本当にマノンが上手いこと周りの妖精に見つからないように移動して、隠れているだけなのだろうか?


「えっと、マコトさん?」

「あぁごめん。ちょっと考え事してて……」

「そうですか。まぁこちらとしてもマノンの捜索には力を入れていくつもりです。それではこれで失礼します」


 唐突に何か用事を思い出したのかシノンは頭を下げて飛び去っていく。


 誠斗はその背中を見送ると、切り株から立ち上がりマノン捜索を再開した。


 その日の午後、予定より遅い時間にマーガレットと合流したのだが、彼女もまたマノンがどこにいるかつかめず妖精たちからの目撃証言も一切なしという結果を持ってきたため、マノンの行方に関する謎はますます深まっていく一方だった。


 ツリーハウス近くの池のそばで落ち合った二人はマーガレットと誠斗は顔を突き合わせて大きくため息をつく。


「……とりあえず、一週間はマノンを探すのを優先させましょう。そればかりをしているわけには行かないから」


 マーガレットはそう言い残して森の中へと消えて行った。

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