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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第七章
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四十一駅目 目が覚めたら……

 シャルロッテ家でアイリスの捜索を行った次の日。

 誠斗が目覚めると、なぜかベッドに腰掛けるような形でサフランの姿があった。


「わっ!」


 そんな彼女のあまりにも唐突な登場に誠斗は思わず飛びのいてしまう。

 その様子が面白いのか、サフランはクスクスと笑い声をあげ、誠斗の頬に手を伸ばした。


「…………おはようございます。マコトさん。いい夢は見られましたか?」

「えっ? なんでいるの?」

「………………なんでですか? それは昨日お話しした、蒸気機関車のことですよ。そうそう。マーガレットさんは妖精たちに呼び出しを受けて出かけていますよ」


 彼女は人の悪そうな笑みを浮かべながら誠斗の頬をなでる。

 その怪しげな雰囲気に誠斗は体が動かせないでいた。


「…………それで? お話しいただけますか? これは、シャルロッテ家当主代理ではなく、十六翼評議会議長代理としての要求です」


 凄みをもった声で要求しながらサフランが顔を近づけてくる。

 ハッと我に返り逃げようとするが、彼女は左手でしっかりと誠斗の体を押さえていてそれはかなわない。


 おそらく、この家の周りにも結界を張るなどして簡単に中に入れないようにしてあるのだろう。


 いずれにしても蒸気機関車のことを話さない限り、この状況から脱するすべはないと考えた方がいいだろう。

 誠斗はいったん思考を落ち着かせて大きく深呼吸する。


「それで? 何を話せばいいの? 蒸気機関車のこと自体はマミ・シャルロッテの修理記録で把握しているはずでしょ? わざわざ回収したんだから、中身は読んでいるはずだよね?」

「…………はい。それはもちろん。あれは蒸気機関車の仕組みを知るだけではなく、この世界に現存する数少ないマミ・シャルロッテに関する文献という意味合いもございますので……」


 彼女はそう言いながら懐から修理記録をだし、それをちらつかせる。


「だったら、なぜわざわざ?」

「………………確かにある方法を使って解読不能とされていた部分を含めて詳しく読み解いていけば、マミ・シャルロッテの修理記録には実に詳しく蒸気機関車の仕組み、それを走らせる設備について詳しく記されています。しかし、それだけでは足りない部分というのが存在しているのもまた、事実です。数多くの線路や分岐器、保安上の注意などが記されている一方で列車を安全に運行するための設備や路線をどこからどこへと走らせる程度にしか書かれていない運用計画……彼女が修理記録を書いたのはその内容から亡くなる数年前には現在の最終部分に到達していたと考えられます。そこから導き出される答えは、“彼女が意図的に書くことをやめた”という事実です。彼女はなぜ、夢を半ばであきらめなければならなかったのか……念のために言っておきますと、当時の議会の権限を使えば鉄路を世界中に張り巡らせるなんて簡単なことですよ? あくまで“当時は”ですけれども。ですから、そこから導き出される可能性は蒸気機関車を動かすうえで何かしらの弊害または危険が発生する可能性があると判断をしたから。そして、修理記録を隠したのは蒸気機関車の再整備がなされないようにするため……もっとも、数代ほど前まではそれとなく手入れはされてきたみたいですけれども……」


 随分と長々と話しているが、要は彼女は蒸気機関車がもたらすメリットとデメリットどちらが大きいか知りたいということなのだろう。

 ところどころ引っ掛かるようなところがあるが、それはいったん忘れた方がいいのかもしれない。


「それで? 蒸気機関車の運用上の弊害もしくは危険性について知ってどうする気なの?」

「…………………………必要ならばあなたごと排除します。もちろん、この世界からです。当然ながら、話さないという選択肢はありませんよ」


 一瞬、何かの冗談かと思ったが彼女の目は本気だった。

 おそらく、誠斗の返答次第では本気でこの世からすべてを葬り去るようなそういった勢いだ。


「……わかった。だったらまずこの世界独特の事情である可能性を考慮して一つ聞いてもいい?」

「…………なんでしょうか?」

「この世界には“石炭”はある? もしくはそれに該当するような……そう。火を付けたら燃える鉱石とでもいえばいいのかな? そういうものの存在は?」

「…………鉱石としぼるとそういったものの発見の報告はございませんが、燃えるモノなんていくらでも存在していますよ?」


 それはもっともな返答だろう。蒸気機関車は石炭を燃やして、その蒸気で水を沸騰、そこから出る蒸気で進む。それは、修理記録にも書いてあったことだ。

 別に燃やすモノが石炭でなければならないという決まりはない。さすがにマミがそれを理解していないということはないだろう。


「………………専門家じゃないから何とも言えないけれど、ボイラーが爆発する危険とかはあるかもしれないな……もっとも、そういった事故に関してボクは聞いていないから列車自体の安全性は大丈夫だと思う。他のリスクは他の交通機関……馬車やなんかと大差がないとみていい。強いて言うなら、線路の上しか走れないから線路上に障害物があっても避けることができないとかそのあたりだと思う」

「…………それだけですか?」

「さっきも言ったとおり、専門家じゃないからね。具体的にどこがどうとか言えないよ。これは本当。それにボクがもといた世界だと蒸気機関車は過去の技術と言っても過言じゃないからね」


 誠斗がそういうと、彼女は納得したのか小さく息を吐いた。


「……わかりました。ウソをついている様子もないですし、そういうことにしておきましょう。もっとも、彼女が蒸気機関車から離れた理由など候補がまったくないわけではありませんので……」

「これで満足ですか?」

「…………えぇ。そうそう。最後にもう一つ。あの修理記録のあるページに書かれていた一文。“ニホンジンのトモナガマミ”と。あなたも出身は同じところという認識でいいのでしょうか?」


 サフランの質問内容が意外すぎて少々誠斗は固まってしまった。それと同時に彼女が日本語の部分も読み解いているのだという事実が付きつけられる。

 誠斗はベッドに寝た態勢のまま手で頭をかいた。


「どうだろうな……一言で日本と言ってもかなり広いから、出身地が同じかと聞かれると微妙なところかな……同じ日本という国の出身だとしても冬場は雪に閉ざされる大地から雪がまったく降らない南国、山脈や数えきれないほどの島々と言った国土で構成されているような国だから……ただ、同じ国の出身という意味では間違っていないと思うよ」

「…………そうですか。理解しました」


 彼女はそう言って、ベッドから立ち上がる。


「えっ? 理解したって……何を?」


 誠斗の疑問に答えることもなく、サフランはそのまま姿を消してしまう。


 おそらく、幻影魔法の類を使っていたのだろう。

 もっとも、前の時と同様に自分自身の映像を送っていたのか、はたまた誠斗にサフランの幻影を見せていただけなのかは定かではないが、そこは重要ではない。


 サフランがここに来たという事実が一番大切なのかもしれない。


 彼女の目的はまったく持って不明のままだから、しばらくは警戒するべきだろう。


 そんなことを考えているうちに玄関の扉が開く音がして、マーガレットがツリーハウスに帰ってきた。

 読んでいただきありがとうございます。


 実をいうと、当初サフランは今回の話のような形で初登場する予定でした。それをリサイクルしたのが今回の話です。


 これからもよろしくお願いします。

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