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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第六章
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三十五駅目 南線第一信号所

 南線建設開始から数日。

 毎日、朝早くから夕方まで作業を続けていたせいもあり、南線は順調に南第一信号所(仮称)の予定地に迫っていた。

 ちょうど中間点にあたるこの信号所を過ぎれば、南森駅まではあと半分だ。


 誠斗は南森駅の予定地を決めたとき同様に配線を示す線を南線第一信号所にもひいていく。

 南線第一信号所は本線と待避線がそれぞれ一本ずつの単純な構造で基本的に環状線方面から南森駅方面へ向かうときは本線に入り、この際に待避線に南森方面からの列車が確認できるか、南線上にほかの列車が運行していないときはそのまま通過する。

 反対に南森駅から環状線方面へ向かう場合は基本的に待避線に入り、環状線方面からの列車が信号所を通過したら出発する。この際も南線上にほかの列車が運行していない場合は本線をそのまま通過することになる。


 今のところは以上のように第一回会合よりも少し踏み込んだルールで進行しそうだ。


 こうなった理由というのは単純でその時々によって進入する線路が変わるということにより発生する御進入や勘違いを防ぐためだ。

 もともと、先に信号所に到着した列車が待避線に入り、本線に反対側から来た列車が入るという予定だったのだが、それだと信号所の手前で停車し、その中の状況によって分岐方向を切り替える必要がある。


 それをするぐらいなら、列車の運転状況に応じて進入する方向を決めておいて分岐方向を固定しておく方が管理しやすいのだ。


 もう一つ付け加えるのなら分岐器にどうしても速度制限がかかるということもあるし、分岐側の曲線がきつい分、思い資材を運ぶ際に脱線のリスクもあるからだ。

 現在使っているミニSLは構造上、速度があまり出ないのでほとんど関係のない話なのだが、分岐器はどうしても曲線がきつくなるので進入前に大きく減速する必要が出てくる。

 もちろん、分岐器の曲線を緩めて長い距離を使って分岐すればもっと速い速度でも通過することができるのだが、現状そこまでの高速走行を想定していないし、そうする予定もない。


 ただ、より安全に運転するために他の列車が運行しないときは、本線を通過した方がよいという判断した結果だ。


 誠斗は構内にあたる場所に線をひいていき、南線第一信号所の構造を確認すると、南線の建設現場に戻り順々に線路を作っていく。


 マノンの協力もあり、その日のうちには南線第一信号所の構内に到達した。


 南森駅予定地程ではないものの二つの列車が行き違うには十分な広さの広間に入ると、事前に発注し、昨日到着していた分岐器を使って本線と待避線を分岐させる。


 その先はマノンと手分けしててきぱきと信号所を作っていく。


 南線第一信号所は資材の運搬を想定して現在走っているミニSLが倍以上の長さになっても余裕で停車できるような長さで作っている。

 線路を引き終えると、信号所の両端に信号所名を書いた立て看板を立て、本線と待避線にそれぞれて停止位置を示す看板を立てた。


「……とりあえず、こんなもんかな」

「そうね。って言ってもよくわからないけれど」


 マノンはもの珍しそうに信号所を眺め、誠斗の後について信号所を一回りする。

 とりあえず、見た限りは問題はなさそうだ。


 空を見上げると、すでに茜色に染まっていたため、その日の作業はこの日で中断した。


「明日は試運転も兼ねてミニSLでここまで来てみようか?」

「そうだね。ここまで歩いてくるだけでも結構時間かかるし」


 誠斗とマノンは、今一度信号所を確認した後にマーガレットが待っているであろうツリーハウスへ向けて歩き出した。




 *




 次の日。

 マノンが運転するミニSLの客車には誠斗とマーガレットの姿があった。


 線路に問題ないか確認しながらの試運転ということもあり速度はいつも以上に低速で各所で停車しながら木と木の間の感覚やら硬化魔法で土台を作った地点の線路の状態の確認等をしながら進んでいる。


 客車の後ろには余っていた台車と木の板を作った簡易的な貨物車が連結されており、そこには少量ではあるが資材が積んである。

 いくつもの曲線を経て列車は低速のまま南線第一信号所に進入する。


 分岐を直進したのち、マノンは前日に立てた停車位置表示を確認しながら徐々に列車をさらに減速させていく。

 止まるか止まらないかぐらいの速度まで落とすと、位置を少しずつ確認しながら停車位置を示す看板のすぐ横にミニSLの先頭が来るように列車を停止させた。


「よし! 到着!」

「……ここまで来たところだと、問題なさそうね」

「そうだね。まぁこの調子で続きからも作って行こうか」


 三人が客車から降りると、誠斗はミニSLを持ち上げて向きを反転させる。

 その後ろに運転台つきの客車を連結させてマノンが南森駅方面へミニSLを後退させる。


 その間に誠斗とマーガレットで貨物車に積まれた資材をおろす。


 ミニSLが南森駅方面の出口まで行くと、今度は分岐器を分岐方向に切り替えて今度は待避線を環状線方面へと動かし始めた。

 そのまま環状線方面の出口まで行くと、分岐を本線方向へ切り替え貨車の目の前までミニSLを後退させ始めた。


 ゆっくりと後退したミニSLはやがて貨物車の目前で停車する。


 運転台付きの客車の後ろに貨物車をつなげると、列車の方向転換が完了する。


 本来なら、方向転換には転車台を使うべきなのだが、この信号所に設置する予定もないし、暫定的に作るにしても構造が複雑であまり気軽に作れるものでもないのでこのような方式をとることにしたのだ。


 それは南森駅も同様で終点の南森口駅まで転車台を設ける予定はない。


 現状、マーガレット家前駅にも転車台は設置できていないのでしばらくは、この光景を多々見ることになるだろう。


 そうしている間に運転手はマノンからマーガレットに変わり、ミニSLは環状線方面に向けて出発した。


 それを見送ると、誠斗とマノンは昨日の続きから作業を再開する。


 南線第一信号所は広場の形の関係で環状線方面から進入すると東向きの緩い曲線となっている。

 そのため、信号所を出て、入替に使った直線部分を過ぎると直ぐに南方向へ針路を修正する。


 線路はその後も森の中を曲がりくねりながら確実に南方向に進行して行き、信号所わきのわずかなスペースにツリーハウス近くに置かれている資材をミニSLで運んできて、おいていく。


 それを使い、南線を確実に建設していく。


 それからまた、南第一信号所までと同様に数日という時間をかけて線路は南森駅建設予定地まで到達した。


 また、環状線南分岐から南線第一信号所の間でもマーガレットの手を借りて土台を必要とする地点がいくつか存在する。

 そういった場所ではマーガレットが資材を運んできたタイミングで彼女に頼み、例の硬化魔法で土台を作ってもらう。


 そういった形で工事は順調に進んでいき、大きな問題が起こることもなく無事に南森駅建設予定地に到達することができた。




 *




 空が茜色に染まるころ、南線第一信号所から環状線方面へ帰る列車の客車には誠斗たち三人の姿があった。


 誠斗はマノンの背中からその空に視線を移す。


「まさか、こんなふうにみんなでミニSLに乗って森の中を移動する日が来るなんてね……」

「まぁそれもそうね。ここまでうまくいくなんて思っていなかったわ」

「いやいや、まだまだこれからだよ……いくらここでの経験をもとにいつかは多くの人や貨物を乗せる大きな機関車を走らせないといけないんだから」

「わかってるわよ」


 マーガレットはかすかに笑みを浮かべて誠斗と同様に空を見上げる。


「きれいな空ね……」

「まぁな……そういえば、季節的にそろそろ寒くなってくる時期だけど、この辺は雪とか降るの?」


 誠斗の質問にマーガレットは少しの沈黙を置いてから返答した。


「そうね……多少は降るわ。もっとも私の場合、生まれが年中雪に閉ざされているような場所だったし、昔、マミと暮らしていた町が割と雪深いところだったから感覚がずれているかもしれないけれど……」

「そうなんだ」

「えー私たちからすると結構、雪が多くて厄介だと思うんだけど……」


 マノンがいかにも困っていますという口調でそういうと、マーガレットは小さくため息をつく。


「何を言ってるのよ。あなたたちはもっと北の出身でしょうが……」

「残念ながら妖精国の首都近郊だけは冬でも暖かいの。理由はよくわからないけれど……それに羽に雪がつくと重くて仕方ないわ」

「そう? それぐらい外套でも羽織っていればいいんじゃにないの?」

「上に何を着ようとも羽だけは外に出さないといけないの。まったく、これだから空を飛べない人間は……」

「大体の人類は空を飛べないと思うけれど?」


 誠斗を間に挟んで始まる二人の口げんかに誠斗は苦笑いを浮かべることしかできない。


 二人の口げんかはマーガレット家前駅にミニSLが到着するまで続いていた。

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