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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第六章
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三十四駅目 南線建設中

 南森駅の建設予定地を確認した次の日。

 誠斗たちはさっそく南線の建設に乗り出した。


 昨晩、マーガレットが徹夜で魔導書などをあさった結果、地面の土をまとめて硬化する魔法があったとのことなのであまりにも安定性が悪い場所にはそれを使って対処をすることになった。(できれば全面的に使いたいところだが、マーガレット曰く消費魔力的に全面は無理だとのこと)

 それをしない地点は環状線同様に地面をできる限り平らにして、線路を固定していくという方式をとっていくことになった。


 この線路のひき方について、ゆくゆくは土を硬化させる魔法以外の方法を使い安定させていくことが必要になってくるだろう。

 しかし、現状のところ他の方法が思いつかなかったため、この方式を採用することになった。


 誠斗は昨日作ったばかりの環状線南分岐点(仮称)から南森駅方面へと線路の建設を開始する。


「少し線路を引いたらミニSLで分岐を曲がれるか確かめてみようか?」

「そうね」


 マーガレットとそんな会話を交わしながら、誠斗はてきぱきと線路を敷設していく。


 その横でマノンは資材を運んできたり、地面を平らにするのを手伝ったりしている。

 マーガレットはというと、誠斗の作業している横で時々会話に参加しながら魔法の準備を着々と進めていた。

 興味を持った誠斗が彼女の手元をのぞきこんでみるが、そこには誠斗には到底理解できそうにない複雑な術式が組まれていて、すぐにやめた。


 作業開始からしばらくしてミニSLが十分入れるだけの長さになると、作業をいったん中断して、誠斗とマノンは魔法陣を組むマーガレットに背を向けてマーガレット家前駅に向かった。




 *




 マーガレット家前駅に到着すると、二人はさっそくそこに止めてあったミニSLに乗り込んだ。

 いつも通りにミニSLを出発させて、環状線南分岐点へと向かった。


 起点であるマーガレット家前駅から環状線南分岐点までは環状線をほぼ一周する必要がある。

 マーガレット家前駅から列車は北向きに走りすぐに東へ針路を変えて池の北側に出る。そこから池の周りを半周して環状線南分岐点に到着するのだ。

 頭の中で行き先を整理しているうちにガコンッという大きな音がして、それを合図に木々の合間から池が現れる。


「あっマーガレット!」


 池のすぐ横に来た途端にマノンが対岸を指差した。

 その指先を見ると、確かにマーガレットが何やら準備をしているように見えた。


「っていうか前見てて運転してよ!」

「えっ? あぁごめん。わき見は危ないよね。さすがに……」


 そう言って、マノンは前を向き直る。


「さて、これで半分まで来たね」

「そうだね……」


 マノンと話をしながら誠斗は視線を空に移す。


 昨日知った、アイリスの失踪はいまだに誠斗の中で尾を引いていた。

 そのことをごまかすように線路を作っていたのだが、いざこうやってミニSLに乗っていると彼女のことを思い出した。


 いったい、彼女はどこへ姿を消してしまったのだろうか?


 探そうにも誠斗はこの世界のことを知らないし、ミニSLのことがあるからシャルロの森をそう簡単に離れることができない。

 だから、ここで待っていることしかできない。


 彼女が見つかったっていう報告を……


 シルクからその報告を聞くのが待ち遠しくてたまらないのだ。


 それにアイリスの代わりに手紙を書いているのかという疑問も付きまとう。しかし、これに関しては今のところ弊害はないので何も知らない体を装って資材の発注は今まで通りにしても問題ないとはずだ。


 何にしてもこれらすべてが解決する日は来るのだろうか?


 来るのだとしたらそれはいつなのだろうか?


 それとも……


 誠斗がそんなことを考えている間に列車は徐々に速度を落として環状線南分岐点の手前で停車する。


「どうしたの?」

「えっ? あぁあれよ。分岐器を動かしてないでしょ?」

「あぁそういうことね」


 マノンはミニSLから降りて分岐器の横にあるレバーを横に倒す。

 それと同時にカタンという小さな音を立てて分岐器が分岐方向に切り替わった。


 もっとも、ミニSLが大回りをしなければならない理由の一つにこの分岐器がある。

 “左片開き分岐器”と呼ばれるその分岐器は直進方向から見て左向きに分岐するモノでこれをマーガレット家前駅から入れる方向につなげると、線路は池の方向へ分岐してしまうのだ。


 どちらにしても環状線から四方向へ向かうと言うことを考えるとどこかの分岐点は遠くなるから遠からずそういった事態は発生するのは避けられないからこれは問題ないだろう。


 分岐方向を切り替えたマノンはミニSLに乗り込み、ゆっくりと出発させる。


「それじゃ行くよ」


 マノンがそういった直後に列車は左に曲がり始めた。

 後ろの客車まで分岐を曲がり終えるとマノンはすぐに列車を停止させる。


「うん。問題はないのかな?」

「そうだね。とりあえず、問題なしでいいのかな? それじゃ、後退して環状線まで戻ろうか?」

「わかった! マコト。一応、後ろ見ててね」

「はーい」


 誠斗が後ろを向くと、マノンは先ほどよりもゆっくりと列車を出発させた。

 列車が分岐の向こうまで行くと、分岐を直進方向にしてマーガレット家前駅に向けて列車を出発させる。

 マーガレット家前駅にミニSLを停車させた後にすぐに環状線南分岐点へと徒歩で向かう。


 誠斗とマノンが分岐点に到着するころにはマーガレットはすでに準備を終えたようでどこからか出したのか砂糖たっぷりの紅茶を飲んで一人でくつろいでいた。


「やっと来たのね。準備はとっくの昔にできてるわよ」

「その様子を見ればなんとなくわかるよ」

「そう。まぁそういうことだから、使いたいところで呼んでね。まぁ今日用意した分で魔法陣が足りないようだったら、明日以降に持ち越しやむなしだからそれだけは頭に入れておいてね」


 そういうと、彼女はカップを持っていない方の手をひらひらと振りながら家の方へと帰って行ってしまった。

 その背中を見送った誠斗とマノンは準備を再開する。


 もっとも、マーガレットにも手伝ってほしかったのだがおそらく、彼女も魔法の準備で疲れているのだろう。


 そう思い、誠斗は素直にマーガレットの背中を見送ったのだ。


 そこからは先ほどと同じで石をどかし、地面を平らにする。そして、安全だと判断できればそこに線路を引いていく。

 池の周りを出るとすぐに木々が生い茂る森に入っていく。


 木々の間をミニSLが走れるか測りながら慎重にルートを決め、線路を引いていく。


 それからしばらくすると……いや、しばらくと待たずにすぐにマーガレットの出番が来た。


 ゆるやかな坂でボコボコと地面に出ている木の根の上を通り抜けられるように土を盛っていき、そこにマーガレットが硬化魔法をかける。

 しばらくしてから土に触れると、それはコンクリートのように硬くなっていた。


「これは……」

「どう? 一応、言っておくけれど主成分は土だから下にある木の根にはあまり影響がないはずよ」

「へーすごいな……」


 これはさすがに感心するほかない。

 誠斗たちはマーガレットが固めた地面の上に線路を敷設していく。


 そこを超えると、しばらく獣道に沿って平らな地面が続き、比較的簡単に線路をひくことができた。


 その後も順調に南線第一信号所(仮)に向かい線路を伸ばしていく。


 そのルートはまっすぐと南へ一直線に向かうのではなく、木々や段差などを避けてくねくねと何度も曲がっていく。

 時々、マーガレットの手を借りつつ夢中になって線路を作っていくと気が付けばすっかりと陽がくれていった。

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