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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第六章
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三十二駅目 南線建設開始

 第一回会合の次の日。

 誠斗たちはさっそく南線の敷設を始めていた。


 ただ、この日やることは環状線の南側に分岐を作るというだけで本格的な工事はまた明日以降となる。


 その分岐を作った後、誠斗はマーガレットやマノン、シノンとともに線路を作るルートを実際に歩くという話になっているのだ。

 この目的は線路を作る上で危険となる箇所の確認等が主となっている。


 地図上で確認しているし、何度か歩いているような場所なのだが念には念をということだ。

 見落としている危険などいくらでも考えられるし、これまでそういった視点で見ていなかったというのが一番大きいかもしれない。

 だからこそ、ちゃんとした現地調査が必要なのだ。


 誠斗はマノンに手伝ってもらいながら手早く分岐器を組み立てて環状線南側の線路を分岐に置き換える。

 その作業が済むとミニSLで実際に何度か分岐を通過してから実際に何度か切り替える。


「とりあえず、問題はなさそうかな……」

「そうね。実際に分岐方向に切り替えたまま列車を通過させたいけれど、それはもう少し後ね」

「まぁ分岐の先にまったく線路を作ってないからね……実際、こんなことをしたら問題なんだろうけれど……」


 誠斗は線路を見つめて小さくため息をつく。

 分岐だけ先に作った目的は分岐器の動作を確認するためだというのが大きい。


 実際、修理記録に書いてある通りに作ってあるのだろうが、だからといって必ず動くとは限らない。


 設置してみていざ動かすと動かないという可能性もちゃんと考えるべきなのだ。


 無事に動作テストを終わらせたので誠斗は周辺を軽く片付けてから、南線建設予定地へ行く準備をするためにマーガレットたちと一緒にいったん、ツリーハウスへ戻った。




 *




 シャルロの森は全体的にうっそうとした森であり、手つかずの自然が多く残る場所だ。

 それ故にずっと続く平らな面というのは少なく、歩くだけなら問題のない場所でも木の根や石などでデコボコしている場所がとても多い。


「んーこれは建設方法を考える必要があるわね……」


 それを見て、マーガレットがポツリとつぶやいた。


「確かにそうだね……平らな地面が作れればいいと思うんだけど……」

「そのあたりは魔法で何とかできるか考えてみましょうか」

「うん。お願い」


 こういったことはマーガレットに頼むのが一番確実だ。

 誠斗は早々に思考を線路をどう引くかということへシフトさせる。


「問題は駅と信号所をどこに作るかだよね」

「そうですね。ただ、開けた場所がないというわけではないので不可能ということはないでしょう」

「そうなの?」

「はい。一応、それぞれの予定地近くに広間があったのを覚えています」

「なるほど。だったら、そこを少し確認してみようか……」


 シノンやマーガレットと会話を交わしたり、森の中から飛び出してくる妖精にあいさつをしたりしながら森の中を歩いていく。

 そうして歩いているうちに南森駅建設予定地に到着した。


「確かに結構広い場所ね……して、ここにどのくらいの大きさで駅を作るの?」

「そうだね……ここは中間駅になる予定だから線路を二本でその間にホームを置くぐらいの規模にしようと思っているんだよね」

「なるほどね……でも、もう一本ぐらい線路を作ってもいいんじゃないの?」

「でも、それだと資材が少し足りないかな……分岐器の数も限られているし、暫定的にこのぐらいの規模でいいと思うけれど……場所さえあれば増築もできるし」


 そう言いながら誠斗は地面に線をひいていく。


 そこに異世界の言葉でゆっくりと線路、ホーム、一番線、二番線と記していき、それが書き換わらないようにマーガレットが魔法をかける。


 最後に大きく南森駅予定地と書かれた看板をたてたら作業は終了だ。


 その後、誠斗たちは再び行きに歩いてきた道をたどるように家路についた。




 *




 南森駅予定地へ行って帰るころにはすっかりと日が暮れはじめていた。

 夕暮れに包まれてるツリーハウスの窓際には誠斗の姿があった。


 彼の視線の先にあるのは池の周りを回る環状線の線路だ。


 恐らく、将来的にはここから四方向に向けて線路が伸びていく。

 現在作っているのはそのうちの一路線だ。


 しかし、こうしているといくつかの疑問が浮かび上がる。


 それは、シャルロッテ家の屋根裏で見つけたあの蒸気機関車はいつになったら走らせることができるのだろうという疑問だ。

 一ヵ月やそこらでどうにかなる問題ではないという自覚はあるが、そのあたりの見通しについてまったく聞こえてこないというのは誠斗を不安にさせる十分すぎる材料だ。

 アイリスとの手紙のやり取りでも話の内容はシャルロの森のミニSLが中心で蒸気機関車については全くと言っていいほど話がない。


 どれくらい進んでいるのか、または滞っているのかということすらわからないのだ。


 そのあたりのことを手紙にしたためて聞いたこともあるが、それに関してはちゃんとした返答が帰ってきていない。


『……コト……おい、マコト』


 しかし、誠斗の思考はマーガレットの声とは違う……しかし、聞き覚えのあるその声にさえぎられた。


「えっ?」

『私だ。シルクだ。少し話したいことがある。家の外に出てきてくれないか?』

「うん。わかった……」


 マーガレットに声をかけようと思い家の中に視線を戻すが、彼女はどこから出してきたのか、大量の書物に囲まれて調べごとをしていた。


 そんな彼女に対して、声をかけるのがなんだかはばかられたので誠斗はそのまま玄関の方へと歩き出す。


「……外から妖精にでも呼ばれたの? それともシルクでも来た?」


 なるべく静かに行こうとしていたのだが、その気配を察したらしいマーガレットに声をかけられた。


 恐らく、彼女はシルクの裏の商売を知っているのだろう。もしかしたら誠斗が彼女に何を頼んでいるのかも察しているのかもしれない。


「うん。まぁちょっとね……」


 誠斗が彼女の方を向くと、相変わらず本の山に埋もれていて、視線は手元の本に落とされていた。


「そう。気を付けて行ってらっしゃい……」

「うん。行ってきます」


 マーガレットと短い会話を交わして、誠斗は家の外へと出ていく。


 急いでツリーハウスから降りると、シルクは木の根元で腕を組んで待っていた。


「やっと来た……」


 彼女はそういうと、根元から離れて森の方へと歩き出す。

 誠斗は置いて行かれまいと彼女のあとをついて行った。


 しばらく歩いて、ミニSLが置いてあるあたりにつくと、シルクは足を止めた。


 彼女は誠斗の方を向くと、前と同様周りに結界を張り机といすを出現させる。


「さてと……急に呼び出して悪いね。どうにも急に話がしたいことがあったもんで……」

「いや、それは全然かまわないけれど……」


 シルクは深刻そうな表情を浮かべて誠斗を見る。


「今日話したいのはアイリス・シャルロッテについてだ」

「彼女の所在が分かったの?」

「いや……そうじゃなくてだな……事態は思ったよりも深刻みたいでね。実は先日、ある依頼が入った」

「依頼?」


 誠斗が聞くと、シルクは首を小さく縦に振る。


「本来なら、依頼の内容を他人に話したりするのはご法度なんだが……今回は特別だ。もちろん、口外するなよ?」


 シルクの問いに今度は誠斗が首を縦に動かした。


「依頼主は伏せさせてもらうが、依頼者はシャルロッテ家の人間……それもそれなりの立場の人間だ。そこからな、アイリスに関する依頼が来た」

「依頼? それってまさか」

「そのまさかだ。アイリス・シャルロッテの捜索依頼……いや、目撃情報を集めてほしいというものだよ」


 彼女の口から告げられたそこの言葉に誠斗は大きな衝撃を受けた。


「話はそれだけだ。今後はシャルロッテ家に彼女がいないという前提で話を進める。それと、もう一方の方はもうしばらく待ってくれ」


 シルクはそれだけいうと早々に片づけて立ち去ってしまい夜の森には呆然とした様子の誠斗だけが取り残されていた。

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