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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第五章
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三十一駅目 第一回会合(後半)

「南線か……確かに有用性は高いわね」


 最終的に誠斗が作ると決めたのは南線だ。

 路線自体は環状線から分岐し、シャルロの森を囲う外周街道へ最短距離で向かう。資材搬入のルートとなると同時に一番実現しやすい路線でもある。ただし、すべてをいっぺんに造ることは不可能なのでちょうど中間点にあたる場所に南森(みなみもり)駅(仮)を設置し、南線の終着駅は南森口(みなみもりぐち)駅(仮)として、場所としては森の外からほど近い場所とする。(なお、現状の停車場はマーガレット家前駅とする)


 また、実際に線路を敷設するのは明日からにするという決定がなされた。


「それじゃ南線を作るのはいいとして、他のことを決めて行こうか」

「ほかのこと? というと、ミニSLをどの程度の頻度で動かすかとかそのあたりかしら?」

「まぁそれもそうだけど。大切なのは行き違い施設をどこに作るか。馬車とかと違って列車は正面から別の列車が来た時に避けられないからね。列車は正面衝突しないようにどこかで行き違いができるようにしないと……」


 誠斗がそういうと、マノンとマーガレットは納得したようにうなづいた。

 しかし、ただ一人無表情のまま腕を組むシノンだけはそうではない。


「行き違いですか? ですが、それ以前に前方の線路にミニSLがすでに侵入しているか否かの判断はどうするのですか?」

「……どうしよう」

「考えてなかったのですか?」

「まぁその……思いつかなかったというかなんというか……」


 シノンに迫られておもわずたじろいてしまう。

 そもそも、誠斗とてまったく何も知らないわけではない。


 こどもの頃などは電車に乗ると運転席の後ろの窓に張り付いて前の風景などを見ていたが、わかることと言えば赤信号で止まり、青信号で進むというぐらいだ。

 ほかにも黄色だったり、緑と黄色の組み合わせだったりといろいろあったがその意味も分からないし、誰がどこで操作しているかなど考えたこともなかった。


「とりあえず、南森までの間にもいくつか待避する場所をいくつか設けてそこで確実に待避するようにしたらどう? そうすれば、正面衝突は回避できると思うけど? たとえば、分岐から南森の間に二つぐらい設置したらどうかしら?」

「なるほどね……」


 マーガレットの提案はかなり有意義なものだ。

 確かに多くの本数を走らせるわけでもないし、信号所で行き違いさせるという方法は一番安全かもしれない。

 これなら、信号の操作は向こうからの列車が来たかどうかの判断で済む。


「うん。とりあえず、それで行ってみようか。だとすると、次にどの程度の頻度で列車を走らせるかだけど……」

「これは厳密に決めなくてもいいんじゃないの?」


誠斗の提案にマーガレットは首をかしげている。

 それはマノンやシノンも同様で言外に今まで通り、好きな時に動かしていればいいのではないかと言っているように見える。


「いや、まぁそうなんだけどさ……ほら、考えてみればわかると思うんだけど……」

「あぁそういうことですか」


 誠斗がすべてを言い切るよりも前にシノンが納得の声を上げる。

 彼女は地図に書かれている南線の路線図上に南森駅と二か所の信号所の場所を書き、南線分岐点と南森駅に小石を置いた。


「まず、環状線の分岐点から南線に入った列車が第一待避所に入りますよね。それとほぼ同時に南森駅からの列車も第二待避所に入るとしましょうか。そうすると……」

「なるほど。どちらの列車も向こうから列車が来ないからずっと待避所で待ち続けるというわけね」


 シノンの説明でマノンとマーガレットも納得できたようだ。

 それを見届けた誠斗はマノンの説明にさらに付け加える。


「そういうこと。たとえば、この時間は向こうから列車は来ないから停車せずに通過してもいいとかいう風に決めておかないといけないの。まぁ一番理想的なのは各所で確実に列車が行き違うことだけど」

「それほどの本数を走らせるかと聞かれると……」

「それはないかもしれませんね……まぁ増設も容易ですし、とりあえず待避所は一か所。基本的には一本の列車が往復ということでもよいのでは?」

「うん。確かにそれも一理あるかもね」


 シノンの意見を反映して、二か所の信号所をちょうど中間地点の一か所に書き換える。


「そういえば、さっきからさりげなく書いているけれど、その“信号所”っていうのは?」

「えっと、待避所のことって認識してくれればいいよ。ボクがもともといた世界ではそうやって呼んでいたから」


 誠斗がそういうと、マーガレットは“ふーん”と納得したような声を上げる。

 実際、元々誠斗が住んでいた土地は山奥の田舎で町に出るにはいつも電車を使っていた。


 その時は決まって谷沿いの信号所でふもとの町からくる電車を待っていたような記憶がある。


 しばらくの間、乗っていなかったが何だか急に懐かしくなってきた。


 町に行くときは決まって飛翔と一緒だった気がする。


 いや、それだけではない……ほかにも誰か一緒だったような気がする。


 ただ、それは誰だったか、全く思い出せそうにもない。


「マコト。おいマコト!」


 しかし、それを思い出す前にマーガレットの声によって誠斗は現実へと引き戻された。


「まったく、いつも思っているけれど急に考え込むのやめてもらえるかしら?」

「えっごめん……」

「まぁいいわ。して、結局のところどうするの?」


 もっとも、全く違うことを考えていたなんて言えないので誠斗はそれをごまかすように机上に広げられた地図に目を落とす。

 そこには南分岐から南森駅の予定地まで赤い線が引かれていて、信号所の候補としていくつか丸がうたれていた。


 誠斗はしばらくそれを見つめたのち、ちょうど両駅の中間地点にある丸の横に星を書いた。


「ここがいいんじゃないかな。ちょうど中間地点だし」

「まぁそれが一番無難でしょうね」


 その後も議論は穏やかに進み南線に関して多くのことが決まった。

 まず、基本的には一つの列車が往復し、森の入り口から資材を運ぶということ、またそれだけで足りないときは信号所で必ず行き違いをすることを前提に二本の列車で資材を運ぶということ。次に列車の運用は基本的にマノンとマーガレットが行うということ。最後にその日にどれだけ列車を動かすかは朝、誠斗が判断することの三点が主だ。


 会合が終わると、マノンとシノンは早々に帰り、家に残っているのはここの住民である誠斗とマーガレットのみだ。


 誠斗はこの世界に初めて来た日にそうしていたようにベランダから空を見上げた。


「また考え事? 一人でごちゃごちゃ考えていないでたまには口に出したらどうなの?」

「たまにはって……そんなに考え事ばかりしているいるように見える?」

「考え事っていうか……あなた、ずっと上の空じゃない。まえの世界でどうだったか知らないけれどさ、ここには私がいるわけだから、一人で考え込む必要はないでしょ? かれこれ一ヶ月ちょっと一緒にいるけれどそれは、あなたの悪い癖だと思うわ」


 マーガレットはそう言いながら、誠斗に紅茶入りのカップを渡す。

 彼女自身はいつも通り、それこそカップからこんもりと真っ白な砂糖がこぼれるほどの激甘紅茶に口を付ける。


「あなたが何を考えているかなんてわからないし、それを口に出したところで私が解決できるかどうかわからないけれど、あなたが何も言わなかったら始まらないでしょ?」

「まぁそうかもしれないけれどさ……」

「かもじゃなくてそうなの。気が向いたらでいいから、いろいろと聞かせて頂戴。あなたの考えを……もちろん、蒸気機関車のことじゃなくても歓迎するわ。元の世界に帰りたいならその方法を考えるし、恋愛の相談だとしても数百年を生きた私の主観で相談に乗ってあげるわ」


 マーガレットは紅茶というよりも砂糖を一気に飲み干して部屋の中へと戻っていく。


「ありがとう」


 誠斗がそういうと、一瞬彼女は足を止めたが、振り返ることなくそのまま部屋の奥の方へと去って行った。

 誠斗はそんな彼女の後姿を見送ると、再び夜空へと視線を移す。


「そうか……もう一ヵ月か……みんな、元気にしているかな」


 誠斗は夜空に向けてそうつぶやいた。

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