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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第五章
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三十駅目 第一回会合(前編)

 シャルロの森にあるマーガレットの家。

 普段、居間として使っている部屋の中央に置かれた円卓を囲むように住民である誠斗とマーガレット以外にマノンともう一人、妖精議会の時にカノンの傍らにいた妖精が無表情を保ったまま座っていた。


 前日に修理記録を返却しにシャルロッテ家まで赴きその帰りにシルクのところへ行くという多忙な一日を過ごしていたせいで半ば忘れていたのだが、ミニSLの線路敷設や運用方法について定期的に話し合いの場を持とうという形で同意しており、今日がその第一回会合なのだ。


 ただ、そうはいってもマノンはともかくとして、カノンの代理だと思われる妖精が無表情のまま、こちらを見つめてることが何よりも気まずい。


「えっと、前々から気になっていたんだけど……」

「私のことですか?」


 何とか、その気まずさから脱しようとする誠斗の言葉をさえぎり、彼女は無表情のまま返事を返す。


「うん。まぁそうだけど……」

「お初に……いや、会ったことはありますね。私は妖精議会秘書官のシノンです。本日は議長のカノンがこちらへ来れないので代理で参りました。どうぞ、よろしくお願いします」


 シノンは名乗り終えるなり、誠斗の前に一枚の紙を置いた。


「こちらはカノンからの手紙です。内容を要約させていただければ、シャルロの森内の線路の敷設場所および運用方法の決定権はこの場で開かれる定期会合にゆだねられるという内容になっています。あとででもいいので確認しておいてください」

「えっと、うん。わかった」


 誠斗は受け取った手紙を窓際においてある棚へと持っていくのを見届けると、シノンは続いてシャルロの森のモノと思われる地図を卓上へと広げて行く。


 なんというか、これまでのこともあってここまできびきびきっちりといろいろやられると逆に困惑してしまう。

 誠斗はそんなことを思いながら再び席についた。


「さてと……まずは線路をどこに造るかだけど、これに関してはカノンとマーガレットの協力で森の地図が手元にあったから、それを見ながら考えてある」


 誠斗は机上に自身の手で書いた路線図を広げる。


「なるほど。現状の線路を生かした計画ということですか」

「そう。現状の環状線をもとにした路線。これなら既存の線路を存分に生かせると思うんだ」

「確かに一からすべて構成するよりは楽かもしれませんね。ただ、こうするとして実験線としての運用自体はどうするおつもりで?」

「これからメインになるのは、複数の列車を同時運行させるときの方法の決定。と言っても、全部わかりきっているわけじゃないから、この実験中はもちろん実際に鉄道を運用した時もどんどん改善していくつもりではいるけれど」


 誠斗の説明にシノンは納得したようにうなづいた。


「そのあたりは当然ですね。最初からすべてがわかるわけではありません」


 そういうと、彼女は自身が取り出した地図に誠斗が計画した路線を書いていく。

 しかし、それはまんま誠斗が書いた通りではなく、ところどころ形が変わるところを見ると古くからこの森に住んでいる大妖精としての意見ということなのだろう。

 しばらく、無言で地図を書き続けていた彼女であったが、大体四分の一ほどを写し終えたところでその手を止めた。


「……いっぺんに線路を敷設するのは難しいと考えたのでまずは主要となる線路からの建設を提唱します。この森の中ではいつでも好きなようにできるのでしょうが、実際に外で線路を敷設するとなるとかなりの時間とお金がかかりますので、それを想定しながらやるという意味も込めてこれを提唱します。もっとも主要路線をいっぺんにというわけにはいかないのでそれぞれ起点から少し伸ばす程度になるかと思いますが……」

「なるほどね。確かに実際に造るにあたってすべてが同時開業なんてほぼ不可能でしょうし、このやり方は一理あるかもしれないわね」


 シノンの意見にマーガレットが納得したような様子だ。

 それは誠斗も同様だ。しかし、すべてが納得できたということもない。


「確かにそうかもしれないけれど、どうせそうするなら同時進行よりも一つの路線に絞った方がいいと思うんだけどどうかな? たとえば、現状の環状線から北に延びている路線……仮に北線って呼ぶけれど、これをまず起点となる環状線との分岐点から作り、半分までできたところで暫定的に使用開始。続いて、そこから北へ延伸というような形で広げていけばいいと思うんだ」

「なるほど……確かに現状集まっている資材の量や効率といった観点からしてもこっちの方がいいかもしれないわね」


 マーガレットがそういうと、ただ一人、この場で今だ発言していないマノンもまた納得したようにうなづいた。

 シノンはあごに手を当てて、なにやらぼそぼそとつぶやいていた。恐らく、自分が出した案と誠斗が出した案のどちらがいいか検討しているのだろう。ただ、彼女が表情を崩すことがないので少し不気味に見える。


 誠斗は早々に彼女から視線を外すと、現実逃避も兼ねてそこらじゅうに線が引かれた手元の地図に視線を落とした。

 放射線状に延びる線路の中で主要な路線と言えば、先ほど挙げた北線を始めとする途中で枝線が分岐するものだろう。


 その基準で行けば、北線のほかに主要路線と言えるものが五つ浮かび上がってくる。


 まず一つ目はこの路線図の中心になっている環状線。

 この路線に関しては既存の施設をできる限り利用するつもりだが、マーガレットの家の前の停車場に複数の列車が止められるようにし、そこをターミナルとする。

 次に先ほどから名前が挙がっている北線。これは二つの枝線が分岐している。続いて、主要路線の中で一番最短となる南へ向かう路線(暫定的に南線とする)と東へ向かう東線。そして、間違いなく最長となるのがセントラルエリアを避けながら西へ向かう西線だ。


 誠斗はそれらの情報を次々と地図にメモしていく。


「ねぇマコト。マコト」


 しかし、その作業はマーガレットから声をかけられたことにより中断してしまった。


「あのさ、夢中でメモしているところ悪いんだけど、もうちょっとその……わかりやすく書いてくれないかしら? さすがにそれは……」

「えっ?」


 マーガレットに指摘されたその瞬間、誠斗はなぜそのようなことを言われているのか理解できなかったが、冷静に考えてみればすぐに答えが見えてきた。

 誠斗の地図に書かれているメモはすべて“日本語”で書かれているのだ。誠斗がこの世界の文字を読めなかったのと同様にこの世界の人間からすれば誠斗が書いている文字は難解な文字としか言いようがない。


「あーそうだね。ごめん」


 それに気づいた誠斗はゆっくりとこの世界の文字で先ほどと同じ内容のものを書いていく。


「なるほど……暫定的な路線名ね」

「そう。その方が話が進めやすいからね」


 返事をしながら誠斗は続いて最初に敷設する路線の候補に印をつけていく。


 第一に最短距離の上馬車を利用する際に便利な南線、続いて最長を誇る西線の環状線側の一部。第三に北線と東線が同率で並ぶ。


 そんな優先順位を並べるところまで行くとシノンも思考を中断したのか、誠斗が書く地図をのぞきこんでいた。


「……それだと、南線は一気に作るということですか?」

「どうだろう? おそらく、資材の量からしてぎりぎり作れるか作れないかぐらいだから、いったん途中のところで工事が中断っていうのもあり得るかもしれない。そう考えると、中間点に駅を作ってそこを暫定的な終点とする方が現実的かな」

「そうですか……」


 思ったよりも資材が少ないという事実を突き付けられたからか、シノンは少々肩を落としているように見える。

 それほど、妖精たちはミニSLに期待しているのかもしれない。


「まったく、このままじゃちっとも議論が前に進まないから、早く話を進めましょう。今日話すべき内容は線路のルートだけじゃないんだから」

「……それもそうだね」


 マーガレットの言葉に誠斗を始め、皆が同意の意を見せる。


「さて、だったらこの四つの主要路線のうちどれから建設するか決めようか」


 誠斗のその言葉でマーガレットたち三人の視線は自然と誠斗へと向かう。


「ボクの考えは……」


 それを確認した誠斗は皆に向かって自身の考えている案を話し始めた。

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