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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第五章
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二十九駅目 情報屋との契約

 サフランに修理記録を返した後、誠斗の姿は町の裏路地にあるシルクの店にあった。

 マーガレットは馬車に乗って先に森に帰っており、この場にいるのは誠斗と店主のシルクのみだ。


 迷うことなく入り口の扉を開けた誠斗は照明が少なく薄暗い店内の奥へと歩みを進めていく。


「いらっしゃい。紙やペンをご所望かい? それとも、情報(別のモノ)かい?」

情報(別のモノ)の方で……少し調べてほしいことがあるから来ました」


 奥のカウンターで頬杖をしているシルクは待ってましたといわんばかりにニヤリと口角を上げる。


「ほう、それじゃ契約成立ってところか……まぁ先に内容だけ聞こうじゃないか。場合によっちゃ調査すらいらない可能性すらあるし……それで? 内容っていうのはなんだい? 妖精関連かはたまたシャルロッテ家関連かそのあたりかい?」

「……半分正解。まず、知りたいのはシャルロッテ家当主アイリス・シャルロッテの所在。そして、十六翼議会について知りたい」


 誠斗の言葉を聞いたシルクは弾かれた様に顔を上げた。

 その顔には信じられないものを見ているようなそんな表情が浮かんでいた。


「妙なことまで知っていて驚いたよ。よく生きてるね。名前を知っているだけっていう理由で消されることすらあるのに……」

「そうなの?」

「そうだよ。まぁ命が惜しかったらあまり、外でその名を口にしない方がいいってことだ。まぁ調査依頼は受けるけどさ」


 そういうと彼女は下の棚をガサゴソと探り、羊皮紙と青色のガラスペンを取り出した。


「それで? 契約の内容になっている話もそうだけど、そもそもどうして十六翼議会の名前を知っているわけ? 聞くまでもないかもしれないけれど……」

「マーガレットだよ」


 その名前を聞いたシルクはどこかあきれたような表情を浮かべる。


「ふーん。やっぱりね……よっぽどなことがない限り十六翼議会の奴らは他の地位があるから、そう名乗るわけないしね」

「そうなの?」

「そうよ。議会の人間を見分けるには体や服のどこかに刻まれた片翼の翼の印を見つけるだけ。それを見て、何かを知っているようなそぶりを見せれば消される可能性がある。なのに相手から自ら名乗るわけないでしょう?」


 彼女の言葉を聞けば聞くほどサフラン・シャルロッテの行動の異常性が明らかにされていく。

 なぜ、彼女はわざわざ議長代理などと名乗ったのか? そのようなことをする理由はどう考えても見当たらない。


「どうかしたのか?」

「いや、なんでも……それよりも、十六翼議会の人間がわざわざ自分が議会の人間だって名乗ることはないんだよね?」

「えぇ。何度も言わせないで。彼らが自分の意志で名乗ることはめったなことがない限りない」


 シルクはそう言いながら羊皮紙にすらすらと何かをしたためていく。

 それらの文字を誠斗は読むことはできないが、恐らく契約書の類だろう。


「そうだ。約束。覚えているよな」

「契約の条件としていろいろと話をすればいいんだろ?」

「そう。その通り……ちょっと失礼」


 シルクは指をそっと伸ばして誠斗の額に手を触れる。

 すると、そこを中心に花びらのような形をした魔法陣が形成される。


「えっ? どういうこと?」


 誠斗が尋ねるが、シルクはにやりと笑みを浮かべたままだ。


「ほら、人の口から出る言葉っていうのは本人が知らないうちに脚色や私感が入るものだ。だったら、直接記憶をのぞく方が効率がいいでしょう? 大丈夫よ。あなたには何ら影響はないし、“正直にすべてのことを話したの”。これで契約成立」


 彼女の言葉とともに誠斗の意識はゆっくりと暗闇へと沈んでいった。



 *



「おーい。そろそろ起きなよ」


 そんな声とともに誠斗の肩がトントンとたたかれた。


「ん? あれ……ボクは……」

「まったく、話している途中に寝るとは……まぁ疲れているのならまた後日話を聞くよ。それに頼まれた情報だけど、少しばかり探りを入れる必要があるから、返事はまた後日。手紙を送るからそれを確認したら店に来て頂戴」


 頭上から誠斗の姿を覗き込む格好になっていたシルクはそう言いながら、立ち上がる。

 誠斗が体を起こすと、そこはシルクの部屋と思われる場所で誠斗はソファーに寝かされていたようだ。


「そうだ。目覚めたのならさっさと帰ったらどうだ? 意外と寝ていたからな。マーガレットの奴には一応連絡を入れたけれど、あんまり遅いと心配されるぞ」

「えっはい。すいません」

「気にするなって。連日いろいろやっていて疲れてるんだろ?」


 店にいる間、着用している黒いローブを脱いだシルクはティーカップと角砂糖をソファーの前のテーブルを置いた。


「ハーブティーよ。疲れが取れるような調合にしてあるから。それを飲んだら早く帰りなさい」

「ありがとう」


 誠斗は礼を言ってハーブティーに口をつけ、寝る前までの出来事をゆっくりと思い出していく。


 シルクの店を訪れた後、アイリスの所在と十六翼議会について調べるように依頼し、日本のことや蒸気機関車のことを話していた気がする。

 その後に急に眠たくなって、今に至る……はずだ。自分の記憶は確かにこうなっている。


 しかし、どこか穴があるというか違和感があるように感じてならない。


「どうしたマコト? 口に合わなかったか?」

「あぁいえ。そんなわけじゃ」

「そうか。まぁいい。気が変わったゆっくりして行ってくれ。店にいるから帰るときは声をかけな」


 そう言い残して、シルクは店へ続いていると思われる扉を開けて退室していく。


 シルクの部屋に一人残された誠斗はハーブティーを飲みながらじっくりと自分が持つ違和感の正体を探っていく。

 自分は契約内容を了解して、日本でのことを話し、それをシルクがメモしていく。なんてことのない普通の光景だ。


 ただただ、二人で話をしていただけのはず。そのはずだ。


 しかし、どれだけ思考を巡らせようと違和感を脱ぎい切れず、誠斗はそのまま目の前のハーブティーを飲み干して立ち上がる。


「……とりあえず、帰ろうかな」


 シルクの言い方からして、それなりの時間眠っていたのだろうし、あまりに帰りが遅いとマーガレットに心配をかけてしまう。

 誠斗はソファーの周りにおいてある荷物を持ち、先ほどシルクが出て行ったときに使った扉の方へと歩いて行った。




 *




 シルクに声をかけ、店を出ると店の入り口横の壁にもたれかかり腕を組んで待っていた。


「遅い。目を覚ましたから来てくれって言われたのに……何やってたの?」

「いや、別に?」

「そう。ならいいけれど……して、私はカフェでお茶を飲んでいたわけだけど結果的に家に帰っていないいの。早く帰りましょう」

「ごめんごめん。早く帰ろうか」

「そうだな」


 誠斗とマーガレットは路地裏を抜けるとそこに止められていた馬車に乗り込む。


「それじゃ行くけれど、町に用事はない?」

「まぁ特には」

「了解。して、出発しましょうか」


 そういうと、マーガレットは手綱を握り馬車を前へ進める。


「それで? シルクとの話はうまくいったの?」

「うん。まぁちゃんと話はしてきたよ。調べてくれるってさ」

「そう。ならいいけれど……記憶の改竄とかされなかった?」

「えっ?」


 マーガレットの口から出た言葉に誠斗は思わず動きを止めて固まってしまった。


「えっ? ってそうか……そもそも、改竄されたら自覚があるわけないか……とりあえず、気を付けた方がいいわよ」

「そうなの?」

「ふつうのエルフなら情報を抜き出すだけ抜き出すぐらいやるけれど、あいつはちょいと別格でね。人とのつながりをやけに大切にするから、フォローアップとして自分のやったことを記憶を上書きする魔法を使ってなかったことにする傾向があるのよ。実際問題、実害はないだろうからいいと思うけれど……ただ、あなたが何かしらの魔法を使われた記憶がないのなら、そういうことなんでしょうね」


 おそらく、マーガレットがそういうことを言うのは誠斗に対して魔法が使われた痕跡があるからだろう。

 誠斗は今一度シルクの店での出来事を思い返すが特に魔法を使われた記憶はない。ということは記憶改竄にかかわる魔法を使われたのだろう。


「でも、なんでそんなことを?」

「おそらく、人の記憶を追体験する魔法を使ってそれの証拠隠滅の為にあなたの記憶を消したんじゃないの?」

「記憶を追体験?」


 誠斗の理解をはるかに超えるような単語に思わず首をひねる。


「えぇ。妖精が重力魔法を得意とするようにエルフは癒しや記憶、記録の調査および改竄に関する魔法が得意な傾向にあるの。もっとも、他の魔法を使わせても他の種族を軽く上回るけどね。して、そんなことは置いておいて、人の記憶を書き換えたり、のぞきこんだり、追体験したりなんてことは朝飯前のはずよ。まぁほとんどのエルフはわざわざ記憶を書き換えるのを面倒がって見るだけ見たらそのまま放置の場合が多いけれど、別の記憶に書き換えるところ、人からの信頼を大切にするあいつらしいわね」


 マーガレットの話を聞くうちに誠斗は徐々に目覚めた時に感じた違和感の正体がそれであるという確信が強まっていく。それと同時にマノンが言っていた知り合いのエルフというのがシルクである可能性というのを感じ始めていた。


「それだと、ボクの記憶って……」

「気にしない方がいいわよ。私が言っておいてなんだけど、改竄された記憶。復活しない方が身のためだから」


 マーガレットがそういうので誠斗は思考を中断し、馬車の外に見える草原に視線を移す。


「そろそろ森につくから、降りる準備をして頂戴」


 その後、マーガレットが誠斗に声をかけるころにはシャルロの森は馬車の眼前まで迫っていた。

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