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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第四章
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二十五駅目 妖精から見たエルフ

「さてと……どこら辺から説明しようかな? と……あぁここかな」


 シルクは書類の山の中からそのうちの一枚を引っ張り出す。


「あったあった。まず、これを見てほしい」


 そういってシルクは誠斗の前に“料金表”とかかれた紙をおく。

 ただ、誠斗が読みとれたのはそこまでで下に羅列してある数字が金額なのだろうとギリギリ理解できるぐらいだ。


「まぁまずは利用料金なんだが……見ての通りだ。これは大丈夫か?」

「いや、えっと……」

「なにか不明な点でも?」

「その……」


 言葉に詰まる誠斗を見て、シルクは一瞬首をかしげるが、やがて何かに思い至ったように納得の表情を浮かべた。


「もしかして、字が読めないのか? いやはや、ペンと紙を買っていくものだからすっかりそういうことはないと思っていたんだが……どちらにしてもそうならそうといってくれればいい。何も私は教育が完璧な乗客ばかりを相手にしているわけではないからな。そもそも、世界で億万長者と言われる人々が必ずしも最初から富豪だったわけではないというのと一緒だ。そういったレベルの底辺からという意味では、マミ・シャルロッテあたりが有名だな。単なる売れない鍛冶屋が一代でシャルロ領主になったんだからな。まぁ残念ながら詳しいことは知らないが……ともかく、学がないことを恥じるな。人間、生きていくための知識さえあれば何とかなるもんだよ。さて、話が長くなったな。一つずつ読み上げてもいいかい?」

「えっはい。お願いします……」


 誠斗の返事を聞いたシルクはその内容を一個一個読み上げていく、誠斗はガラスペンを使って羊皮紙にその内容をメモに取っていく。

 残念ながらこの世界の通貨はよく分からないため、それだけでは何とも言えないのだが、単位が結構大きいのでそれを見れば一回当たりかなりの料金を取っているのだろうと想像できる。


 シルクは日本語で書かれたメモを見て、一瞬興味を示したようだがすぐに料金の説明に戻る。


「さてと……こんなものだけどどうかな? まぁ高いと感じるかもしれないけれど、これでも良心的な料金を提示しているつもりだよ。安くしてこの金額になるほど情報というものは大切なんだ。まぁ普通の雑談程度にならもちろん応じるし、その中に必要な情報をこっそり乗せるぐらいはよくやるから必ずお金を払うってわけじゃない。勘違いしてもらっては困るから言っておくけれど、お金が発生するのはこの情報が欲しいと依頼した時。その時、情報を手に入れる方法に応じた金額を請求させてもらうっていう制度になっている。次に免責事項まぁ注意事項とかそのあたりだな……」


 そんな調子で次々と矢継ぎ早に紡がれていく言葉をつかむという作業をどれだけ続けていただろうか?

 一時間かもしれないし、二時間かもしれない。それだけの説明をした後、ようやくシルクは手に持った書類をすべて机の上に戻した。


「さて、随分と手間を取らせてしまった。ただ、これは後々トラブルにならないように大切だからな。それで? 私と契約するかい? 言ったとおり契約料は無料だ。まぁ今すぐ返事を聞くというのも決心がつかないだろう? 家に帰ってじっくり考えてくればいい。私がこの話を覚えている限り、返事はいつでもいいから私が必要になったら店に来てくれればいい」

「わかった」


 誠斗の返事を聞いたシルクは魔法を使って机上のモノをすべて片付けるとゆっくりと立ち上がる。

 それにつられるように立ち上がった誠斗の姿を認めた彼女は再び魔法を発動させて机といすを片付ける。


「改めて情報屋をご利用の際はどうぞごひいきに。もちろん、紙とペンのご購入でも歓迎しますので」

「はい。わかりました」

「それでは」


 シルクはそばに置いてあったローブに身を包み、森の中へと消えて行く。

 それと同時に結界がとけたのか、パリンという音が鳴った。


「あぁこんなところにいた!」


 それと同時に上空を飛んでいたとみられるマノンに話しかけられる。


「マノン? どうかしたの?」

「いや、なんだか急にいなくなっちゃったでしょう? だから、ちょっとだけ探していたの」

「ごめん心配かけちゃった?」

「うーん。まぁちょっと。そうだ。それよりもさ、ミニSL二人で乗ろうよ」


 マノンは誠斗の手を引っ張ってミニSLの方へと走り出す。

 誠斗は抵抗することもなく、そのままミニSLの方へと一緒に走って行った。




 *




 誠斗は先ほどまでと同じようにマノンの後ろに乗り込む。

 それを確認したマノンはいつも通り“出発進行”と元気よく声をあげて列車を出発させる。


 それと同時に列車はゆっくりと走り出した。


「そういえばさ、マノン。エルフってどんな種族なの?」

「えっ? また唐突なことを聞くのね」


 マノンの表情は見えないが、恐らく驚いているのだろう。

 誠斗が彼女にエルフのことを訪ねたのは至極単純な理由だ。間違いなく誠斗よりも長くこの世界で生きている彼女の知識は十分に有効だろうし、エルフのこともよく知っているかもしれないという考えからきている。

 こういった意味ではマーガレットに聞いてもよかったのかもしれないが、どうせならより長く生きているマノンに聞いてみようという程度の話だ。


 彼女は前を見据えたまま唸り声をあげる。


「エルフねーエルフ全体がどういった傾向があるとか、知り合いのエルフがどうとかぐらいなら……ただ、そうはいっても私たち妖精は昔から他の種族との交流をほとんどしていないから何とも言えないけれど……」

「うん。それでもいいから話を聞いてもいい?」

「わかった。そうね……エルフは亜人の中でも比較的閉鎖的な部類に入るわ。閉鎖的って言っても私たち妖精見たく完全に排他的っていうわけじゃなくて、なんというか必要以上に他種族と関わらないって言うのが正しいのかな?」

「必要以上にかかわらないって具体的にどういうことなの?」

「そうね……なんというか、打算的というのが正しいかしら? たとえば、この人とつながりを持っておくと後々利益につながるっていうのならいくらでも頭を下げるだろうし逆にこれ以上の利益が出ずにむしろ損失が出ると判断すればそのままバッサリと切り捨てることだってある。エルフっていうのはそういう種族なのよ。まぁ私の知り合いみたいに人とのつながりが一番の利益につながるっていう考え方に基づいて行動していたのならバッサリなんてことはないんだろうけれど……これがエルフ全体の印象かな?」


 誠斗はうんうんとうなづきながら、話の内容を頭の中に入れていく。

 そのことを踏まえながらシルクのことを考えていくと、確かにその特徴に一致するかもしれない。


 将来的に蒸気機関車でもうけを上げるかもしれないからと言っていたからにはそういった計算が彼女の頭の中で働いていたのだろう。


「ただ……」

「ただ?」

「さっきも言ったとおり、エルフだからこうとは言い切れないのが現実なのよね。ほら、人間だって一概にどうとか言えないでしょう? まぁそういう傾向が強いっていうのだけ頭に入れてもらって私の友人のエルフの話に行くわね」


 マノンがそういうのと同時にガタンという大きな音が鳴って線路が切り替わる。


「私の友人のエルフはエルフ商会……エルフの商人が所属している商会ね。そこの所属で商人をやっているのよ。もちろん、エルフ商会の商人なんかだと先に言ったとおり、自分の得になるように動くことが多いんだけど、さっきも言ったとおり彼女は人間関係こそが最大の価値だっていう考え方を持っているから、人間関係のためなら利益にならないことをするっていうエルフの中には変わり者の部類に入る人なの」

「なるほどね……」

「まぁ性格はちょっと気が強くておしとやかな人が多いエルフの中では……いや、人間とうとう含めても男勝りな性格になるのかな? まぁとにかくしゃべり方からしてふつうのエルフと違うのよね。それに普通じゃない商売もしているなんて言う噂もあるけれどその辺はまぁいいかな? まぁ話していて面白いし、悪い奴じゃないってだけかな……なんかいい加減でごめんね。どうにもこうにも他人への関心が薄くて……」


 マノンはいかにも申し訳なさそうな口調でそう語る。

 ただ、その表情を読み取ることはできないので実際、どうなのかはハッキリとはわからない。


「いや、気にしなくてもいいよ」


 誠斗がそういうと、マノンの表情がパーと明るくなった気がした。


「ごめんね。あぁそろそろつくみたい」


 マノンのそんな言葉ののちにミニSLはマーガレットの家の前に到着した。

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