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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第四章
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二十四駅目 エルフの情報屋

 ミニSLに乗った後、マノンはすぐに帰りミニSLの前には誠斗とマーガレットだけが残されている。

 マーガレットは興味深そうな様子でミニSLをジッと見つめている。


「しかし、あれほど大っきかったのがこれほどまでに小さくできるモノなのね」

「まぁね。もといた世界でもこういうのはあったしね。もっとも、こっちの世界でこれが出来たのはアイリスのおかげだよ」

「アイリスのね。こうやって見ていると、彼女の技術力の高さに驚かされるわね」


 感心した様子でミニSLを見つめている。

 確かにこれほど小さなものを正確に作る技術というのはすごいのかもしれない。


 もっとも、この世界の技術水準を知らない人間が言っていいセリフではないのかもしれないが、そう思えて仕方ない。


「結構若くして領主になったからいろいろと心配だったんだけど、領主としても職人としても十分な実力を持っていそうね」

「そうなの?」

「えぇ。職人としての実力は見ての通り。領主としての実力はアイリスカードの普及を始めとした施策で結構成功していると私は思うわ。逆に若くして領主になったからこれまでの悪い習慣が断ち切れたのかもね。ミニSLはおろか蒸気機関車ですら先代以前の時代だったら実現することはないでしょうしね」

「そうなの?」

「えぇ」


 マーガレットは小さくうなづくと、ミニSLから視線を外し、誠斗の方へと向ける。


「先代の時代はとにかくひどくてね。あまり詳しくは言わないけれど、汚職がひどかったらしいわ。もっとも、そのせいで最後は暗殺されちゃったみたいだけど……今回もまた下手人は不明……こうなると、どうしてもきな臭く感じてくるわね」

「どういうこと?」


 妙なことを聞いてしまったのだろうか? 誠斗の問いにマーガレットは一瞬、呆けたような顔をするが、すぐに何かを納得したようにうなづいた。


「そういえば、マコトは知らないわね。実は、シャルロッテ家っていうのは当主の不審死が多いのよ。それこそ初代当主であるマミ・シャルロッテの時代からね。その上に決まって下手人はいつも不明で片づけられるの。そのせいか知らないけれど、犯人は表舞台に出たがっている分家の人間だとか当主に対して憤りを感じている使用人とも言われているわ。極端な方向で行くと十六翼議会のことを恨んでいる亜人の仕業なんて言う人もいたわね。もっとも、言われるだけで捕まらないんだけどね」

「そうなんだ」

「そう。まぁ少なくとも蒸気機関車が完成するまでは全く関係のない話ってわけじゃないから頭の隅にとどめておいてもいいかもね」


 マーガレットは淡々とそう述べると誠斗に背を向けて家の方に歩いていく。


「シャルロ領主の不審死ね……アイリスもいずれそうなるっていうことなのかな」


 あまり考えたくないし、考えてはいけないことなのだろうが、どうしても考えてしまう。

 危ないんだったら守ってやろうとか、そんな関係ではない。はっきり言ってしまえば、蒸気機関車を修理してくれている仲間という位置にあるというだけで結局は赤の他人だ。

 でも、そんな話を聞いてしまった以上、気になってしまうというのも仕方ないかもしれない。


「……どうしたもんだろうな」

「だったらお調べしましょうか? あなたの気になっていること」


 さりげなくつぶやいたひとことに返事が返ってきたことに驚き、あたりを見回したが誠斗の視界に人の姿はない。


 気のせいだったのだろうか?


 そう片づけて、マーガレットの家に戻ろうと振り返るとそこには黒いローブに全身を包んだ人物が建っていた。


「えっ? 誰?」


 背格好からして明らかに妖精ではないその人物は唯一見えている唇をゆがませてニヤッという表情を見せる。


「おやおや、忘れちまったのかい? 私のところで買ってくれただろ? ガラスペン」

「えっあの時の店主さん?」


 言われてみれば、この声には聴き覚えがあったし、ペンを売っていた店の店主は確かにこんな怪しげなローブに身を包んでいた。


「まぁ私の表の顔を思い出してもらったところでね。実をいうとさ、私って情報屋なんてものもやってんだよね。それも私自らもスパイの真似事みたいなこともやっているから他にはないような情報もあるしな。どうだい? 今なら契約無料。魔法少女になってよ。みたいなことは言わないけれど」

「なんで魔法少女?」

「ついでに言えば、契約に願い事がいるわけでもないぞ。昔はそんなことを言いながら近づく魔女が居たそうだが、私はそんなことはしない。もちろんデメリットはあるけれどその辺も責任もって説明させてもらおう」


 彼女がパチンと指を鳴らすとマミ・シャルロッテのモノと酷似した花形の魔法陣がいくつか出現して机といすが現れる。


「ついでに結界も張ってあるから私があなたどちらかが出るまでこの空間に第三者は入れないし、この空間の中の音は漏れないから安心してくれてもいい。もちろん、契約内容が気に入らなかったらその時点で席を外してもらって構わない」

「いや、あの……」

「まぁ話だけでも聞いてきなって。ほら、あの蒸気機関車っていうやつを走らせるんだろ? それには情報戦っていうのがとても大切になってくる。違うかい? あとから、高額で情報を買うよりも今のうちに情報屋の一人や二人を雇っておくのはおすすめだと思うけれどね」

「ちょっと」


 なぜ、蒸気機関車の存在を知っているのかと問おうとする誠斗の言葉をさえぎるように女性は口を開いた。


「だからさ、話ぐらい聞いても損はないでしょ? ほら、座った座った」


 色々と言いたいことはあるのだが、誠斗は彼女に促されるまま席に座る。

 すると、さっそく彼女はパチンと指を鳴らして先ほどと同じように机の上に魔法陣を出現させ、そこからティーセットといくつかの書類が現れた。

 あの書斎に仕掛けられた魔法陣の花が桜の形をしていたのに対し、今机の上に現れているのは角が丸っこい花びらだ。


 それぞれが華やかな色を放っていて、それが落ち着くと机は再びただの茶色に戻る。


「さて、さっそく話に入るか……」


 その言葉と同時にバサッという音を立てて彼女はローブを脱いだ。


「えっ?」

「いや、契約の話をするときまで顔を見せないっていうのは私の流儀に反するからね。あぁでも、私のことをあまり言いふらさないでほしいな」


 彼女は誠斗の見立て通り女性だったようだ。

 白く透き通った肌と薄緑色の髪を持つ彼女はその長い両耳で自分は人間ではないとはっきりと主張している。


「エルフ?」

「はい。正解」


 彼女は関心したような様子でパチパチと拍手をした。


「さっすがーいやいや、実はあなたが店に来てからいろいろと聞きたいことがあってね。どうせ、あのマーガレットが口を割るなんてことはないんだしせっかくだからあなたから直接話を聞いた方が効率がよさそうで……あぁこれ契約無料の条件ね。私への情報提供。内容によっては割引も考えるから……一応、私の個人的な興味だから外部に漏らす予定はないから安心してもらってもいい」

「なるほど……つまりはボクが持っている情報が目的だってこと?」


 誠斗が尋ねると彼女はニィッと笑みを浮かべる。


「まぁ極端に言わせていただくとそうなるな。まぁそれ以外にも今後権力を持つかもしれない人間とさっさとつながりを持っておきたいっていうのもあるけれどな。おっと、自己紹介すらせずに無駄話ばかりしていたな。私はエルフ商会のシルクだ。私にご用命があれば私の店まで来てもらえばいい」

「山村誠斗です」

「ヤマムラマコト。うむ。ちゃんと覚えた。まぁこの話が流れても店で会うだろうからな。よろしく頼む」

「こちらこそ」


 どちらともなく手を指しだして二人は握手を交わす。

 それを済ませると、さっそくと言わんばかりにシルクは資料を一枚手に取りそれを誠斗の前に置く。


「それではさっそく、説明と行こうか」


 そういうシルクの視線は獲物を狙う猛獣のごとくしっかりと誠斗の姿をとらえていた。

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