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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三十二章
261/324

二百七駅目 ツリームでの拠点探し(後編)

「おーこれはこれは……」


 事務所探しの一軒目。二階に上がったノノンは感嘆の声を上げる。


「これはってまだ最初の部屋しか見ていないじゃない」


 今見ているのは玄関を開けて一番最初にある台所のある部屋だ。

 玄関に入ってすぐに台所というあたり、賃貸アパートのようだが、マノンたちからしたらかなり新鮮な光景らしい。


「……この住居スペースの台所はある魔法を使った関係で二階にあるのが特徴でして……」


 どんな魔法を使うと台所が二階になるのか不思議なのだが、そのあたりはあまり教えてくれそうにない。一階の事務所を見るときはご自由にとしか言わなかったサムが長々とこの部屋について語っているのを聞きながら、誠斗は部屋の中を見回す。


 この部屋は玄関から見て左側に台所があり、奥に一つ右側に二つ扉がある。この構造からして、廊下はなくどちらかもしくは双方の部屋からもう一つの部屋に行けるようになっているのだろう。


「こちらの物件の住居スペースはこれから紹介する二件に比べて空間に余裕がありまして……」


 そんなことを考えている誠斗の横で住居に関する説明はまだまだ進んでいる。

 こうなってくると、彼は本来は住居の案内担当で事務所については専門外なのではないかとすら思えてくるのだが、そのあたりはどうなのだろうか? いっそのこと、そういう質問をぶつけてみようかとも思ったのだが、それはいくらなんでも失礼なので控えることにする。


「ほかの部屋を見てもいいかしら?」


 サムが台所と物件についての大体の説明を終えたところでマーガレットが声をかける。


「はい。かしこまりました」


 その言葉のあとにサムは一番奥の扉を開ける。


「こちらが一部屋目でして、南向きに窓があるのが特徴です。こちらにはある商会から仕入れたガラスを使用しており、採光は抜群となっています」


 彼の言葉を聞きながら部屋に入ると、まず最初に見えたのは大きめの窓だ。続けて部屋の右側に扉が一つあるのが確認できる。

 部屋自体は縦長の長方形で広さは大体八畳はあるだろう。


 奥にある大きなガラスを納入したある商会というのはおそらくエルフ商会のことだろう。ほかにも大きなガラスを精巧に作る技術を持っている集団はいるのかもしれないし、エルフ商会が大きなガラスを作れるとも限らないのだが、誠斗の持っている知識を総動員したところでたどり着く答えはそこしかない。


「次の部屋をご案内いたします」


 そういってサムは右の扉を開ける。


 次の部屋も構造自体は似たようなもので広さ自体も大して変わらない。となると、今立っている地点から見て右手側にある扉は先ほど台所があった扉のうち一つとつながっているのだろう。


 そのあとは窓がないもう一つの部屋の中を確認し、最後に玄関から見て一番手前側の扉の奥にあるのがトイレであるのを確認すると、誠斗たちは建物の外に出る。


「いかがでしたでしょうか?」

「うん。なかなか広々していていいね」

「はいはい。それがこの物件の特徴でございますから。こちらの物件についてご質問やほかに見たいところはありますか? なければ次の物件に参りますが」

「……ここには庭があったりするのかしら?」

「あぁそちらを案内し忘れておりましたね。こちらです」


 マーガレットの質問に答えた後、サムは建物とレンガの壁との間に入る。


「こちらの建物の裏庭ですが、少々不便ですが中からいけなくてですね。こうやって裏から回る必要があるのが欠点です」

「でも、庭があるだけすごいじゃない」

「確かにそうかも知れませんね。それに庭があるので二階の住居スペースの大きな窓のがいかされるともいえます」

「なるほどね……」


 確かにいくら大きな窓があっても、目の前に建物があればその意味をなすことはない。大きな窓の前には大きなスペースがあってはじめてその効果が発揮されるのだ。

 現に窓の外を見たとき隣の建物とは少し間が空いていたのでそこにあるのが庭なのだろう。


「こちらが裏庭でございます」


 そうしている間にもサムは裏庭に到達し、誠斗たちも続けてそこに到達する。


「裏庭のスぺ―スは洗濯物を干したり、その他レクレーションに使うことを想定しております。広さとしては広い方ではありませんが、ないよりはましかと」

「そうね。この値段で庭付きで事務所兼住宅……かなり破格なんじゃないかって思えてきたわ……ここまでくると、何かありそうな気もしてくるけれど……」

「確かにシャルロシティ基準で語れば破格かもしれませんが、ここはツリームです。シャルロシティに比べて物価も安いですし、何よりも人が来るようにとどんどんとこういった物件を値下げしているという面もあります。そのほかにもこの建物が中古であるだとか、町の中心部から少し外れているだとか様々な要因はありますが、訳アリの物件というわけではございませんのでどうぞご安心を」

「なるほどね……」


 そういいながら、誠斗たちは庭の隅々にまで視線を向ける。


 レンガの壁に囲まれた庭は小規模ながら、四人で集まってバーベキューをするぐらいなら十分なスペースがある。こちらの世界にバーベキューというものが存在するかは別として、そういった催しをするには十分な広さがあるといえるだろう。


「……さて、それでは次の物件を……」

「その必要はないわ」


 次の物件を案内するために庭から立ち去ろうとしたサムをマーガレットが制止する。


「どうかしましたか?」

「これから案内される物件ってここよりも安い代わりに条件が良くないのよね?」

「えぇまぁ言ってしまえばそうなりますね」

「ならここにしましょう。マコトたちはどう?」


 何を思ったのか、予算がどうとかぶつくさ言っていたマーガレットは急に態度を変えてこの物件がいいと言い出したのだ。まだほかの物件を見ていないにもかかわらずである。


 上の住居スペースが気に入ったのか、はたまた庭で薬草の栽培でもしようと考えているのか、そのあたりの真相は定かではないが、彼女がなにかしらの理由でこの物件が気にったというのは事実だ。


「私はかまいませんよーちょっとー手狭ですけれどねー」


 そこに対して、さっそく賛成の声を上げたのはオリーブだ。


「まぁ私はどこでもいいのだけど」


 それに続けてノノンが賛成の声を上げる。


「まぁマーガレットが言っていうなら……」


 それに続くような形で誠斗も賛成の声を上げた。

 正直なところ、ほかの物件も見てみたいなどと思ってはいたのだが、あちらこちら歩き回るのも大変だし、何よりも自分以外の全員が賛成しているのだから、わざわざ反対する理由もないだろう。


「そうとなれば決まりね。サムさん。さっそく契約をしましょう」

「はっはぁ……」


 唐突なタイミングでの決断にサムの方も驚いているのか、少し動揺している様子だ。


「えっと……それではいったん組合の建物に戻りましょうか。そのあたりの書類はすべてあちらに置いてありますので」

「えぇ。よろしく頼むわ」


 しかし、そこはプロだ。

 マーガレットの物件を購入するといういきなりの宣言に対して、彼はきっちりと契約についての話をする。


「さてと……それでは早速組合に戻りましょうか」


 そういうと、サムは庭を出て歩き出す。


 誠斗たちはそれについていくような形で庭を後にした。

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