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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第四章
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二十二駅目 マミの記録

 修理記録を借りてから三日が経とうとしている。

 ここにきてやっと一冊を読み終わろうとしているのだが、ここまでに解読不能の印があり、内容を全く見ないで読み飛ばしたページはかなりある。

 それらに何が書いてあるか、若干気になるもののどうせ見たところでわからないだろうし、そもそも先に調べるべき事柄があるため、それを見るには必要なページを見つけてからでも遅くはない。


 探している情報は主に蒸気機関車の仕組みよりもその運用方法だ。

 日本とまったく同じ方法が書かれている可能性はあまり望めないが、著者であるマミが何かしらの考察を乗せている可能性が高い。

 現にミニSLのことも修理記録の中にあったというのだから、何にも書いていないという可能性の方が低い。


「蒸気機関車の走る仕組みについて……これは違う。燃料……これも違う。えっと、これは……うん違うな」


 ただ、どれだけ読み進めて行っても機関車を方向転換させる方法については言及されていなかった。


「さすがに載っていないか……」


 日本の機関車について書かれている本とは言っても結局は異世界で書かれた本だ。

 やはり、そう都合よくすべてが書いてあるわけではないらしい。


 次のページをめくろうとすると、その右上に解読不能を示す印がうってあるのがわかった。

 そのページを飛ばそうとして、ふと動きを止める。


「そういえば、解読不能って言っていたけれど、どんな文字なんだろうな」


 この本を受け取った時からずっと気になっていたことだ。

 内容はともかくとして、その文字を少し見るぐらいなら時間がとられるわけでもないし、少しぐらい寄り道してもこの本を読み終えるまで相応の時間がかかることは変わらないので少しだけ見てみようという気分になったのだ。

 そんな興味本位から印がうってあるページを開くと、その体勢のまま誠斗は固まってしまった。


「……日本語?」


 あわてて前のページに戻ってみるも、そこに書いてあるのは異世界の言語だ。

 しかし、解読不能だと印がつけてあるそのページには日本語で文章が書かれていた。


 今まで飛ばしたところも改めてみてみると、それらはすべて日本語で書いてあることがわかった。


「えっ? これってどういう……」


 この国の古代語として日本語が使われている可能性を一瞬考えたが、そんな都合のいいことがあるわけない。

 そうなると、もう一つの可能性はマミ・シャルロッテが日本人であるという可能性だ。


 そもそも、人間が異世界から来たという事例は初めてだなどと言われたが、現に誠斗がここにいる以上ありえないということはない。

 それに“シャルロッテ”はともかくとして“マミ”は日本人の名前としてあり得るし、日本出身なら機関車の仕組みはともかく用途などは少なからず知っていたはずだ。


 誠斗は一番最初の本にもどって印がつけてあるページを開く。


「やっぱり日本語だ……」


 解読不能の言語というのは古代語ではなく、日本語のことを言っていたようだ。

 誠斗は日本語で書かれた文章を読み始める。



 さて、このページを見て大方の人は解読不能だとか、古代語だとか言い出すでしょう。

 ただ、意味もなくこんなことをしているわけではないと理解していただければ幸いです。


 まず始めにこの本を読んでいるあなたは、著者である私の名前をマミ・シャルロッテだと理解しているでしょう。もしくはシャルロ領の初代領主が残した記録だという程度の認識かもしれません。

 あなたがどのような認識を持っていようとも、ここから先の文章はシャルロッテ家当主マミ・シャルロッテのモノではなく、日本人の友永(ともなが)真美(まみ)の記録として読んでいただきたいと思います。


 さて、この記録全般に書かれている蒸気機関車の修理方法については、日本の工業大学で身につけた知識とこの世界で得た鍛冶の技術と知識を組み合わせ、機関車の修理をしていったことについて書いてあります。

 ですが、機関車があるだけでは運用することはできません。


 昨今、馬車の技術は向上し、ドラゴンを調教して荷物や人を運べるようになりました。

 しかし、このままではすぐに流通量が頭打ちになるのは目に見えています。


 ドラゴン便の場合、個体差はあるものの最大荷重は100~150キロ前後であり、人が乗れるドラゴン自体かなり希少なので運賃もかなり高めの設定になっています。

 馬車は安いですが、その分時間はかかるし、盗賊等に襲われるリスクもはらんでいるので輸送量と運賃以外ではほとんどドラゴンに劣るといっても過言ではありません。

 交通手段として船舶も存在はしますが、内陸部にあるシャルロ地方ではほとんど恩恵を受けないので今回は除外します。


 これを踏まえたうえでこれからの交通網の未来を考えると恐らく、馬車もドラゴンもそれぞれ馬とドラゴンという生物に頼っている以上、革新的な技術が生まれたところで大きく発展するということは考えずらいというのが現実です。

 悲しいことに交通網の重要性がわかっていないこの世界の住民はあまりこのことを危惧していないのです。


 そんなある日、何気なく散歩に出たときに蒸気機関車を発見した時、私は神様が暮れたチャンスだと思いました。

 そこから、機関車をこっそりと屋根裏に持ち帰り(方法については聞かないでください)修理をし始めました。


 それをまとめたのがこの修理記録です。


 この本において今後もいくつか日本語で書かれている個所が登場するかと思いますが、そこに書いてあるのは事実に基づいたことではなく私の考察や機関車の路線をどこにひくべきかという構想が書かれているものが主になっています。

 仮にこの本を見ながら機関車の修理をするのだとしたら日本語の部分は鵜呑みにしないでその時々に合わせて機関車を使っていただけたら幸いです。


 友永真美



 最初の日本語で書かれている部分を読み終えた誠斗は静かに本を閉じてそばの机に置く。


 そのまま誠斗は窓際へと移動して窓枠に手をかける。


 誠斗はだんだんとマミ・シャルロッテという人物がわからなくなってきた。


 単なる鍛冶屋を一代で貴族に仕立て上げた天才、亜人追放令を出した当時の十六翼議会のメンバーの一人、この世界の交通技術について憂いを抱いていた異世界人……どの姿もマミ・シャルロッテなのだろうが、彼女の本当の姿というのはどれなのだろうか?

 普通に考えれば、一番最後に挙げたのがマミ・シャルロッテという人物の純粋の一面だと見れるのかもしれないが、この修理記録がある程度人に見られる前提で書かれているということを考慮するとここに本音が書かれていない可能性もある。


 そんなことを考え出したらきりがないし、すでに故人であるために確認しようがない。


 誠斗は窓から離れて机の前のイスに座る。


 パッとみただけでも印がつけられている個所はかなりある。


 一ページだけの場所を除けば、右上でまとめて止めてあり簡単に読み飛ばせるようになっている。

 最初に本を手に取った時はそのようなものなかったので、アイリスが読みやすくするためにそうしたのだろう。


 誠斗は一つ一つ丁寧にそれを取り除きながら修理記録を読み解いていく。


 そこには機関車を方向転換させるための転車台の仕組みとシャルロ領内の具体的な鉄道網の計画が書かれていた。

 残念ながら、信号システムを始めとして鉄道の安全の為に必要なモノの記述はいくつか抜けていたが、それでも誠斗はそこから多くのヒントを得ることができた。


 日本語で書かれているせいか最初に読んでいた部分と同じぐらいの量だというのにサクサクと読み進めることができ、最終巻まで読み切るのに三日もかかることはなかった。


「んっ? ここで終わりなのか?」


 最後まで読んで初めてわかったことなのだが、こちらの世界の言葉では機関車の修理が終わるまで書かれていたにもかかわらず、日本語で書かれた部分についてはかなり中途半端に終わっているのだ。それも、文章の途中でだ。

 そもそも、蒸気機関車を修理して、具体的な運用計画まで立てておきながらこれがまったく実現していないというのはどういうことなのだろうか?


 単純に日本語以外の場所を読めば、修理で来たはいいが運用方法がわからなくて放置されたという結論に至るのだろうが、日本語で書かれた場所を踏まえて考えると彼女は少なからず使い方を知っていて、ちゃんと使おうと考えていたということになる。


 しかし、アイリスの言動からして蒸気機関車を運用とした形跡はない。ということは、それをしようとする過程で何かしらのトラブルがあったか、はたまたやむを得ない事情によりできなかったということなのだろうか?


 どうやら、マミ・シャルロッテという人物には何かありそうだ。


 誠斗がそんなことを考え出した時、大きな音を立ててツリーハウスの扉が開かれた。

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