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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三十一章
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二百一駅目 目覚めたマーガレット

「……ここは?」


 マーガレットを部屋に運んでからしばらく経ち、ようやく彼女は目を覚ます。


「……ツリームにある宿屋の客室なのですよーどこまで覚えてますかー?」


 目を覚ましたマーガレットに対して、オリーブは奇妙な疑問をぶつける。


「……知り合いのドラゴンに乗せてもらって新メロ王国のメロメーアに行ったところまで……ってマコトはどうなったの? 無事なの?」


 それに対しての返答もまるで記憶が抜け落ちているかのような反応だ。

 扉の近くに立っていた誠斗は取り乱している彼女の方へと歩み寄り、声をかける。


「ボクなら無事だよ」


 誠斗の姿を視界に納めたマーガレットは一気に落ち着きを取り戻す。


「……よかった。でも、いつの間に?」

「覚えてないの?」


 誠斗の質問にマーガレットは小さくうなずく。


「……なるほどーマコトさんのー行方を捜索してーメロメーアに行ったところでやられたということですねー」

「やられた? 何を?」

「洗脳のー魔法ですよー」


 オリーブから洗脳の魔法について聞かされたマーガレットはこれでもかというほど目を丸くする。


「私が?」

「はいーあなたがーですよー洗脳のー魔法を使われた結果ーあなたのー記憶が抜け落ちているのですよーまぁあなたにそこまで言う必要もないと思いますがねー」

「洗脳の魔法にかけられると、記憶が抜け落ちるの?」


 誠斗が会話の途中に割ってはいる形で質問をすると、オリーブは小さくうなずいてから答える。


「そうなのですよー基本的にはー洗脳をされるとーそれが解除されたときにー洗脳のー少し前から記憶が抜け落ちるのですよーつまりー今回の場合だとー彼女はメロメーアでーターシャ・アリゼラッテと接触ーそしてー名前を知っていたかーもしくはマーガレットが名乗ったがためにー洗脳の魔法が発動しー今に至るのだと思いますよー」

「……そうなんだ」


 洗脳し、行動の自由を奪うだけではなく、その間の記憶すら奪うとは、洗脳の魔法というのはつくづく恐ろしいものらしい。

 それにしてもだ。マーガレットの記憶が誠斗の捜索中に失われている辺り、誠斗が目を覚ました時点で洗脳の魔法にかけられていたわけなのだろうが、いったいどのような洗脳がされていたのだろうか?

 マーガレットの行動を見る限り、一番の候補は何かしらの方法で誠斗に不老不死の薬を飲ませるだと思われるのだが、鉄道建設の妨害をするとかならともかく、そのような行動をする意味がわからない。


「それにしても不思議ですねー洗脳されている間はー明らかに様子がおかしくなるはずなのですけれどー今の今まで気がつかないなんてー私が知らない間にーターシャ・アリゼラッテがーその辺のデメリットを解消されているのだとしたらーかなりの驚異なのですよー」

「……洗脳の魔法の特徴はここ数百年変化していないわよ。ただ!何かしらの方法でその弱点を克服したという話は聞いたことがあるけれど」


 マーガレットがゆっくりと体を起こす。


「マーガレット。無理しない方が……」

「大丈夫よ。これぐらい」


 ノノンがもう少し休んでいるようにと声をかけるが、マーガレットは気に止めることなく起き上がる。


「はぁつまり、私はカレン・シャララッテを追ってメロメーアに行って、そこでアリゼラッテ家の人間に洗脳されたと? そう言いたいの?」

「そうですねー端的にはそうなりますかねー正確にはターシャ・アリゼラッテ領主代理代理の仕業ですけれどー」

「代理代理?」

「はいーシャルロ領の領主代理のサフラン・シャルロッテの代理だから、ターシャ・アリゼラッテ領主代理代理なのですよー」


 オリーブからの言葉を聞き、サフランは小さく息を吐く。


「……なんだか、厄介な気配がしてきたわね。もしかして、家を離れてツリームにいる理由も彼女に絡んだ話かしら?」

「はい。そうなのですよーそのあたりについてはマコトさんから説明するのですよー」


 オリーブはそこで引き下がり、誠斗の方へと視線を向ける。

 それを受けた誠斗はゆっくりと状況を整理しながら話始める。


「……ボクが救出された後、サフランは一緒につかまっていたメルラやリンネを送り届けるためにシャルロ領を離れたんだよ。それで、その間に領主代理代理を任されたターシャ・アリゼラッテに会いに行ったんだけど、そこであいさつもかねて鉄道に関する法案の状況について聞きに行ったんだ。そしたら……」


 そこで誠斗が言葉を詰まらせる。


「……それで、どうしたの?」

「……鉄道計画の凍結が言い渡された」


 誠斗が告げると、マーガレットはこれでもかというほどに目を丸くする。


「でも、ターシャ・アリゼラッテってシャルロッテ家の人間ですらないじゃない。どうしてそんな権限が……」

「ボクたちはサフランが戻るまでの一時的な措置だろうと踏んでこうしてツリーム周辺に実験線を敷くための調査をしているわけだけど……もしも、サフランが帰ってきても凍結が解除されないようだったら、シャルロでの鉄道はいったんあきらめた方がいいかもしれない」

「……そう」


 誠斗の言葉でマーガレットは顔を伏せるが、誠斗は言葉を続ける。


「でも、希望が全く途絶えたわけじゃないよ」


 そこから誠斗はあのゲームの世界での話を始める。


 シャルロからシャラまでの路線に計画1号線という名前を付けたこと、新メロ王国が国内における鉄道の実現において力を貸してくれるという申し出があったこと、今はメルラに状況を確認していて、その返事を待っているということ……


 それぞれの話をマーガレットは一喜一憂しながら真摯に聞いていた。


 そうして、話が終わるころにはマーガレットの顔はすっかりと明るくなり、落ち着きを取り戻した。


「そういう話なら、今の状況を説明して、改めてメルラ・メロエッテあてに手紙を出しましょうか。洗脳状態で何を書いたかすら覚えていないし」

「そうですねー前の手紙は取り消しということでー改めて書きましょうかーでーもーその前に朝食ですかねー」


 オリーブが小さく笑みを浮かべる。


「そうね。朝食を食べてからゆっくりと考えましょうか。手紙のことも、今後のことも……もちろん、鉄道のことに関してだけど」


 オリーブの言葉にマーガレットは笑顔で返答する。

 その様子を見て、誠斗はマーガレットがいつも通りの彼女に戻ったと安心する。


「そうだ。これ返すね。あなたが洗脳されている間にもらったものだから」


 そのタイミングですかさずノノンがマーガレットからもらったという薬瓶を差し出す。

 その藥り便を見た瞬間、マーガレットは再び目を丸くする。


「……これかなり強力な毒薬じゃない。こんなの造ったおぼえがないけれど……」


 マーガレットの言葉に今度はノノンや誠斗が目を丸くする。


「毒薬? マーガレットは不老不死の薬だって言っていたよ」

「不老不死の薬なんて全部破棄しているし、あんなものそうそう作れないわよ」

「なるほどーそういうことですかー」


 あまりの事態に驚く二人の背後でオリーブが納得の声を上げる。


「つまりーターシャ・アリゼラッテが狙っていたのはマコトさんのー命だったわけですねーマーガレットを洗脳してー毒薬を作りそれでマコトさんを殺害するようにと洗脳したーその計画はー簡単でー普通に薬の調合をしているふりをしてー毒薬を作成ーそれを不老不死の薬だとうたって何かしらの方法でーマコトさんに飲ませーそして暗殺するーそんな計画だったのではないでしょうかー?」

「なるほど……そういうことか……」


 オリーブの言葉に誠斗は納得の声を上げる。

 その過程でなぜ、いったんノノンに薬を託したのかという疑問は残るが、一応筋としては通っている。


「……はぁ洗脳されていたとはいえ、申し訳ないことをしたわね。この薬は責任をもって破棄するわ」


 一連の話を聞いたマーガレットはノノンから薬を取り上げる。


 マーガレットは取り上げた薬をベッドの横に置いてあった自身のカバンにしまい、しっかりとその口を閉じた。


「さて、今度こそ朝食を食べに行きましょうか。ノノン、オリーブ。だいじょうぶだとは思うけれど、あの薬には触らないでね」


 マーガレットはそういってからカバンのそばを離れ、部屋の外へと向かう。

 誠斗もその背中を追って、部屋を出て食堂へと向かった。

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