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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第四章
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二十駅目 ミニSL

 森の外から資材が届いてから約5日後。

 ようやく線路が敷設できる状態までもって行くことができた。というのも、森の中は、マーガレットや誠斗をはじめとした一部の人間を除けば妖精ぐらいしか立ち入ることはない。そうすると、必然的にほとんど手つかずの自然が多く残されていることになり、それをできる限り維持しつつ線路を引けるだけの場所を確保するのに少々苦労していたのだ。


 木の根を避け、草を刈り、土を持ってそれを押し固めて安定させる……文字として羅列すれば単純に見えるかもしれないが、実際はその作業にかなり手間取られてしまった。


 ただ、ここからも大変で重要な作業だ。線路を敷設する予定の場所に枕木を一つ一つおいて、ある程度置いたらその上にレールを設置して固定する。資材がなくなれば、資材がおいてあるところまで取りに行くという作業の繰り返しだ。


「結構大変なのね」

「まぁボクとしてもやってみて気づいたって感じだけど……」


 どこか他人事のような態度を取っているマノンの相手もしつつ誠斗は少しずつ作業を進めていく。

 マノンは作業の様子が気になるのか、木の上や誠斗のすぐ真横など、とにかく視点を変えながら作業を観察し続けている。


「ところでさ、どうしてそこにいるの?」

「気にしなくてもいいわ。私はただ見ているだけだから」

「そう」


 ついに誠斗がマノンの態度について言及するが、彼女は気にすることなく、涼しい顔でそれに応じる。


 その後はたいした会話もなく淡々と作業が続く。

 その日は夕方まで作業をしていたが、結局線路は引き終わらず誠斗はマーガレットの家に帰って行った。




 *




 ミニSL用の線路を引き始めてしばらく。

 ようやく線路が完成した。


 同時進行で少しずつ組み立てていた機関車も出来上がり、さっそく線路のそばへと持っていく。


 マーガレットは薬草を採るのに時間がかかっているのか、いまだに戻ってきておらず、その様子を見ているのはマノンだけだ。


「へぇそれが蒸気機関車」

「そう。実物に比べればかなり小さいけれどね」

「それはまぁこれがたくさんの人と荷物を載せて大地を力強く走っているなんていったら立派な詐欺ですよ」

「詐欺ね……」


 ミニSLは機関車のほかに木製の客車が二両つながれていて、燃料、運転の制御ともに魔法を使っている。

 当初は運転台の部品だけは制御ができる程度の大きさにしようと下らしいのだが、詳しい仕組みを理解できずに魔法を組み込んだのそうだ。


 これは、レールと一緒に渡された手紙に書いてあった内容なのだが、それによるとこのサイズなら微量の魔力でも動かせるそうだ。

 もっとも、オリジナルのサイズで魔法を使って完全に制御しようとすると必要魔力量が膨大になりマーガレットレベルの魔法使いでないと動かせないそうなのだが……


 ただ、ここにきて一つの問題が発生した。


「ところでどうやってこれを動かすの?」

「……わかってるよ。ボクの魔力が悲しくなるほどに皆無だっていう現実ぐらい」


 そう。アイリスはそのことを失念していたまたは、マーガレットが動かす前提だったのかもしれないが、誠斗は全くと言っていいほど魔力がない。

 それこそ、妖精たち始めこの世界の住民たちにどうして生きていられるの? なんていう質問をぶつけられるレベルでだ。


「どうしたものかな。マーガレットはしばらく帰ってこないだろうし……」

「みたいね。気になってあっちに住んでいる妖精に問い合わせてみたらまだいるっていう返事が返ってきたし」

「はぁ……」


 誠斗は大きくため息をつく。

 ここまで本気でやってきて、そんな説明などまるで読んでいなかったから、最後まで完成させることができたとはいえ、完成してからの道のりがしっかりしていない。


 落ち込む誠斗の姿を見かねたのか、マノンがとんとんと肩をたたく。


「マノン?」

「動かしてあげましょうか? せっかくだし。そもそも、議会での決定においても最期的には妖精を乗せることが条件として挙げられていたし」

「でもな……」

「安心してもいいって。だってさ、多少の事故はもちろんのこと重大事故でも私たちはすぐに再生できるんだから」


 マノンが満面の笑みでそういうものだから、いつの間にか誠斗はコクコクとうなづいていた。


「それじゃさっそく……」


 マノンは蒸気機関車のすぐ後ろに連結されている客車の一番先頭に座り、そのすぐ後ろに誠斗が座る。

 それだけを切り取るとまるで公園などのイベントで行われているミニSLの運転会だ。ただし、運転手と乗客が逆であればだが……


「それで? 何か掛け声とかある?」

「えっと、出発進行。かな?」

「あはははっ! 聞いたことない新しい言葉ね。わかった。それじゃ、しゅっぱーつ! しんこー!」


 なんとなく気づいていたが、やはりマノンは相当喜んでいるらしく、機関車を出発させる。


 ゆっくりと動き出した機関車はやがて徐々に速度を上げていき、すぐに最高速度に達する。


 別に石炭を燃やしたりしているわけではないのに煙が出ているのだが、これもまた何か意味があるのだろうか?


 そんなことを考えている間にも列車はカーブに差し掛かり、やがて線路の種類が変わることを示す白い看板が目の前に現れる。

 カタンカタンという軽快な音の間にいったんガタンという大きな音が入り、線路が切り替わる。


 ただ、これと言って乗り心地に変化があるようには思えない。

 ただただカタンコトンという音が鳴り響くだけだ。


 そもそも、レールに関しては元のモノからほとんどいじっていないために形はほとんど変わらない。

 ただ、乗り心地だけではすべてが決まらないのも事実なので、しばらくすれば劣化具合だったりどこで脱線しやすいかだったりでだんだんとどういったレールがいいかわかってくるはずだ。

 きっとそうだろう。というかそうでなければ困る。


「マコト。マコトが住んでいた世界では蒸気機関車がどれぐらい走っていたの?」

「えっと、そうだな。蒸気機関車よりも新しいものがあって、ほとんどそっちに変わっているかな」

「ふーん。そうなんだ」


 マノンはどこかつまらなそうにつぶやいて、視線を前に戻す。

 二人の会話が終わるころには機関車はマーガレットの家の前に戻ってきていた。


 すると、機関車はゆっくりと速度を落とし、ちょうど出発した場所に停止する。


「へーこれだけの魔力で人二人分運べるなんて随分と画期的ね」

「そう?」

「そうよ。だって、森の中には馬車が入れないし。まぁもっとも私たちは空を飛んで移動するんだから関係ないんだけど」


 そういいながらマノンは客車から降りる。


「まぁこの感じだともう少し大きめの奴でも森に入れていいかな」


 そんな一言を残し、彼女は森の中へと消えて行った。




 *




 ミニSLを走らせた日の夜。

 誠斗は他に誰もいない家の中で一人寝ころがる。


 彼の中で思い出されるのは昼間のマノンの様子だ。


 どこか興奮したような様子の彼女はあっという間に森の中へと消えてしまった。


 恐らく、大妖精に報告しに行ったかはたまた妖精仲間に自慢をしに行ったのかは定かではないが、あれだけのことで画期的だといわれると、つくづくこの世界が日本とは違うと感じてしまう。


 そして、もう一つ。


 最近よく考えるのが、あの時一緒にいた親友のことだ。


 飛翔はあの光から逃げ切ったと信じたいのだが、どこか飛翔がこの世界に来ているのではないかという不安……否、期待に近い何かがある。


 もしかしたら、彼もこの世界に来ているのではないかと。もしかしたら、この世界のどこかで再会できるのではないかと……

 もちろん、向こうには大切な人たちがたくさんいるのだが、向こうの世界に戻るよりもこちらの世界に一緒に飛ばされた飛翔に合うという方がよっぽどか現実的に思えてしまうのはなぜだろうか?


 よくよく考えてみると、誠斗はこの世界がどれほどの広さを誇るのか全く知らない。


 地球よりも大きいのかそれとも小さいのか。


 シャロル地方の大きさはどうだろうか? それを含む帝国は?


 そんなことを考え始めたらきりがない。


 はたして、その広い世界に親友の姿はあるのだろうか?


 誠斗はそんなことを考えながら、いつの間にか眠りについていた。

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